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映画【グッド・ウィル・ハンティング】

2007-11-21 23:21:29 | 映画

グッド・ウィル・ハンティング~旅立ち~
1997
Gus Van Sant (ガス・ヴァン・サント)


これ、ガス・ヴァン・サント監督だったんですね。知りませんでした。
だったらもう少し早く観たのに。
殆どの方が観ていると思いますし、多分説明不要の作品の作品ですね。

トラウマを抱える不遇の天才少年がその殻を破るまでのお話。
このお話を間違えて学歴至上主義へのアンチテーゼと解釈する方がいるようですが、そんな学歴コンプレックスみたいな解釈は映画だけでなく、人生をもつまらなくするのでは。
そういう方は本作のクライマックス、マット・デイモンを抱きしめるロビン・ウィリアムスの「君は悪くない」というセリフに何も感じないのでは。
このセリフ、相当です。
多分、トラウマを抱えた人はそれを自分の罪として捉えてしまうのかもしれません。
恥ずかしながら私はトラウマ・フリー、ストレス・フリーの性格をしているモノでその辺が分かりませんが、多分そうなのでは。
トラウマと一括りにするのもアレですが、全ての傷を負った人というのはそれを自分のせいだという殻に閉じこもってしまう。
そして今で言う「アダルト・チルドレン」になってしまう。本作のウィルは完璧な、もしくは理想的なアダルト・チルドレンでは。
人に弱みを見せることができず、常に完璧を装い、全ての言葉に言い訳を用意し、そのために人と深く関わることが出来ず、自分の真意を伝えることが出来ず、自分は孤独だと思い込む。それでも少数の友人がいればまだ救いはあるんですが、そうじゃなかった場合はもう悲惨です。
その時に、自分を理解して貰ったと感じることの出来る言葉「君は悪くない」は凄い言葉です。
言い換えれば「世界中が君の敵だとしえても、僕だけは君の見方だ」です。
恋愛映画で使われればチープな言葉も場所を変えればここまで素晴らしい言葉。
本作の場合マット・デイモン扮するウィルが圧倒的な天才少年であるということが世界との隔たりを生み出している様にとらわれがちですが、そうではなく、彼は自分の身を守るためにそうなってしまったと描かれているはずです。順序が逆。
ちなみに、吉田秋生著の名作漫画「BANANA FISH」に登場するアッシュと全く同じですね。
ちなみに、「BANANA FISH」でアッシュの親友である奥村英二も同じような言葉をアッシュに投げかけます。
本作の下敷きにこの「BANANA FISH」があるのでは無いかと思うほどの設定の相似がありますが、まぁそれはそれとして。


ただ、このトラウマ故に求められる癒しという構造がちょっと問題らしいです。

本作を今更観るに至ったきっかけは斉藤環という精神科医の著作「心理学化する社会―なぜ、トラウマと癒しが求められるのか」での記述が興味深かったから。
ハリウッドの定番モチーフ「病んだ、あるいは傷ついた天才」の一つの着地点となっているようで。
斉藤環先生はサブカル側からの視点を持つ数少ない精神科医としてわりとマスコミなんかにも引っ張り出されることもあり、目にしたことのある方も多いのでは。
「ひきこもり」を世に知らしめた第一人者でもあります。
自らをオタクだと自認するだけあって、著作において映画・小説・漫画・アニメへの造詣は異常に深く、その語り口も軽妙で私のような人間にはもの凄い説得力です。

本著作で再三言われていることが「社会の心理学化への警鐘」です。
この「心理学化」というのが最初ピンとこなかったんですが、どうやら「可視化」「具象化」とほぼ同義のようです。学問とすることで理屈付けを可能にし、扱えるものにする。
さらに言い換えると「心のマーケティング」ですね。
なんだかコワイ言葉になってしまいました。
で、勝手に解釈すると「無理矢理『可視化された心』への対症療法的な治療を助長する社会なんてクソだ」というもの。
斉藤環先生が精神科医と言うこともあり、そこまで言い放ってはいませんが、そんなことを思う著作です。
悪い部分を『だけ』を治すことはほとんんどロボトミー手術と同じです。
そもそも、心の傷を具象化することに何の意味があるのか、と。

※バカなマスコミの垂れ流すパブリックイメージへの批判です。良識あるクリニックでの治療ではそんなことはないそうです。



映画の話に戻りますが、本作のラストでは急激に人格が変わったかのように急激に自我を解放したかのように振る舞うウィルがカタルシス全開で映画としては気持ちいいのですが、それをして人を描くことに失敗している気がします。
自己啓発セミナーの様な映画です。ちょっとコワイ。
ただ、ウィルを終始完全に「子供」だと扱うことでなんとか逃げ切れています。


アレン監督作品ではいちいちカウンセリングを揶揄してたりもします。
人生を愛しているアレン監督の映画は映画の中で人間がもんどりうってくだらないことで悩みまくり、殆ど何も解決しないのですが、私はそっちの方が好きです。
だって、人間だもの。