Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 91

2020-12-14 09:48:41 | 日記
    私は自分の気持ちを刺激する従兄弟や祖父の光景、その姿が見えない様にと、座敷の入り口を避けて次の間の居間へと移った。ここだと彼等の声も、襖一枚隔てただけだが聞こえ難くなっていた。私は益々ほっとした。

 私の心身が如何やら落ち着いた頃、座敷の拍子木の音も止んだ。

「行くのかい?、」

如何しても?、じゃあ気を付けていくんだよ、取り憑かれない様にな。用心するんだよ。と、祖父の危ぶむ声。その声に送り出された様子でしずしずと、従兄弟は後ろ髪を引かれる様な出立ちで座敷の入り口に姿を現した。そうしてキョロキョロと辺りを見回し、居間にいる私を見つけると、従兄弟はじっと私の目を見詰めて来た。ゆっくりと慎重に歩を進め、従兄弟は私の所へとやって来る様子だ。私がその顔を窺ってみると、何しろ祖父の言った言葉が気に掛かるではないか、私だって用心していたのだ。誰にかというと、私の場合、それは私に近寄って来る従兄弟にだった。

 従兄弟は私が初めてみる様な目付きをしていた。それは、先程今日初めて私が従兄弟の顔を見た時にもうっすらと感じてはいた。今回、直前に祖父の言葉を聞いた事もあって、私は用心して注意深く従兄弟の様子を眺めた。思い詰めた様な、緊張した様な、物言いたげな従兄弟の瞳。切羽詰まった様な顔付きをして、という物なのだが、私の方はこの様な気配について、これ迄に知識も経験も皆無という物だった。従兄弟の非日常的な様子にさっぱり理由が分からなかった。そんな無言の儘に進んできた従兄弟は、私の直ぐ目の前に立った。

  「  如何したの?。」

私は尋ねた。座敷の方が楽しいだろうに、こう私は言った。祖父と遊ばないのか、拍子木は面白くなかったのか、私と遊ぶより祖父と座敷にいる方が楽しいだろうに、と自分でも言い様のくどさに気付きながら従兄弟に尋ねた。そんな私に従兄弟はふっと笑った。

「智ちゃんも兄さんと同じだな。」

そう言って、今迄じっと瞬きもせずに見詰めて来た私の目からその瞳を外して、従兄弟は視線を畳に落とした。そうして、ぼんやりと「上の子の、兄さん達というものは何処もそうなのだな。」と独り言を呟いた。

 私は顔を顰めた。私は兄さんじゃない事、上の子についても従兄弟の方が歳が上だから私は上の子じゃないと反論した。すると従兄弟は驚いた顔をして、一寸待っててと言うと祖父のいる座敷へと戻って行った。

 座敷では従兄弟の質問するらしい様子と、祖父のさぁなぁと言う、質問には不明瞭な答えの様子が伝わって来た。そして私の父の声も混じって来た。

「やぁ、お前来てたのか⁉︎。」

如何して来たんだ、こんな時に。と、私の父は不機嫌な様子の声になった。それを祖父は制した。「この子は何だかあれにお願いがあって来たと言うんだ。」と、祖父は父に従兄弟の弁護をする気配となった。

 「お願い?、こんな時にか?。」と、父はあくまで無愛想な声だった。が、祖父が私では何の事か分からないが、父なら理解出来るだろうと彼を持ち上げる様に言うと、父も叔父らしい普段の温和な声に戻った。そこで祖父が父に従兄弟の話を聞く様勧めたので、その後は私の父と従兄弟の間で何やら話し込んでいるらしい座敷の気配となった。

 「そうか、それで来たのか。」

父は感嘆した様子で言った。繰り返しそうかと言うと、父は、だが、それは無理だろう、あれがなったものではお前の期待には添えないだろう。そんな言葉が聞こえて来た。それでも従兄弟は諦めず、頑張って何やら訴えている様子で、父や祖父の困惑した声が聞こえていた。

 私は居間でそんな彼等3人の話声を、極力注意せずに聞くでも無く聞き、また、聞かぬ様にもしていた。私が逐一耳を澄まして彼等の話を聞けば、またゾロ妬みの気持ちが起こりそうで嫌だったのだ。私は彼等の声を聞かぬ様にする事に努めていた。

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