Jun日記(さと さとみの世界)

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土筆(84)

2018-05-28 10:35:04 | 日記

 答えを返して来なかった初めての相手が自分の親戚のお兄ちゃん、自分の従兄であれば尚更でした。この時私は世に出て初めて年上の人間、世間の人というものにはっきりとした失望感を得たのでした。

 『如何やら人間というものは当てにならないものの様だ。』私はそう感じながら、でも、と、一方で「人間、正直でなければいけない。」と何時も言う父の顔を思い出していました。もし父の言うように、人というものが皆正直に生きているものならば、人は当てにできるものだろう。嘘の無い信じられるものだ。と思えます。そして、親戚でもあのお兄ちゃんの方が他の人と違っていて変なんだろうか?と、そんな風にも考えてみるのでした。すると私には、先程従兄が太陽が誰かの物だと言った時の事が思い出されて来ました。

 『そうしてみると…』と、私はやはり従兄は変だと思うのでした。『あのお兄ちゃんの方が変なんじゃないかな。』私の考えはその方向へ転がるのでした。すると更に、私には先刻の従妹が漏らした言葉が甦って来ました。

「あの人、やっぱり変なんだわ。」

そう従姉が口にする言葉を聞いて、あの人とは従兄の事なのかと私が彼女に尋ねた時、彼女ははっきりそれが自分の兄だとは答えなかったけれど、それはやはりそうだったのだろうと私は思うのでした。『実際、私も今そう思ったんだから。』と私は彼女に共感すると、確りとした結論を出しました。

 そこでふと私は目の前の暗く沈んだ広場に気付きました。広場にはもう夜の帳が降り始めていました。『もう暗くなったんだ。』そしてこの場所には私1人しかいないんだ。私は背筋にぞっと来る寒い物を覚えると、震える足を踏みしめて、1歩、1歩、また1歩、と足を慣らす様にして駆け出すと、それっとばかりに施設の出口を目指しました。

 「…ちゃん」、声の場所には丁度門を入って来たばかりの母の姿が見えました。この時辺りの家の灯りが点り、それが道にいる私達の場所に迄差して来ました。漏れて来る電灯の明るさと、母の声と姿が、私にほっとした安堵感を与えました。私は体が暖かくなったのを感じました。そして何だか目に涙が溢れ、その事を母に気付かれない様に顔を背けると、目をパチパチと何度か瞬いたのでした。


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