「僕はもう帰るよ。」
ミルは腰かけていた場所から立ち上がりました。もうさっさと彼女と別れて1人山道を歩きたい気分でした。
「待って、私も帰るから。」
そこ迄一緒に行きましょうという彼女に、少々嫌気がさしながらもミルは愛想よく承諾すると先に立って歩き出しました。
彼の後ろから静かに歩いてくる彼女は、再びぽつりとぽつりと話し出しました。
「ごめんね、ミル。」
あの頃は実際、自分も新参者で新鮮なミルの言動に気持ちが向いていたという事実を彼女は認めると、そんな自分が彼にとっては心配の種であり、それがとても許せない事態だったのよと告げるのでした。当時幼少の夫がミルにつらく当たった事の大本の原因は、実はこの様なミルに好意を抱いた自分に有ったのだと、彼女は静かに詫びるのでした。
「あなたが宇宙に飛び立って1年程した頃よ、」夫から私に連絡が入ったの。山の盆地の花園で会おうという事でね。彼女は静かに話すのでした。「私はその盆地には久しく行った事が無かったんだけど、何となく気が向いたのね、気候も良い時期だったから、清々しい風に吹かれて私は花園にやって来たの。」
さて、果たして彼女がそこに着くと、花園には沢山の花の輪が彼女を待ち受けていました。「それはもう、幾千幾万もの花の輪なのよ。それが楽しく美しく花園を飾り立てていたの。夢のような光景だったわ。」
「複写したんだな。」
ミルは彼女の話の腰を折るように低い声でぼそっと言いました。そうでもないみたい。彼女は少々ミルの反応を楽しむかのように反論しました。
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