Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 44

2019-09-05 11:13:55 | 日記

 母は頗る機嫌が悪くなった。つい先程迄の笑顔は何処へやら、眉間に皺を寄せた目付きも不機嫌その物を表していた。母はきょろきょろと室内を物色していたが、廊下を覗いたり、二階の障子窓を見上げたりすると、耳を澄ませて屋内の様子を推し量っているらしかった。

 母は私に向き直ると、

「お前変だと思わないかい。」

と言った。何がと私が問いかけると、母はこの家がだよと答えた。

「この障子もそうだが、…。」

彼女が言うには、この家は何かにつけて整然とし過ぎているというのだった。整頓されて無駄な物が無い部屋。綺麗に掃き清められた玄関や廊下や室内。茶箪笥なども不用品は無く、中はきちんと茶器など並べて整理されている。室内の空気も清らかで澄んでいた。生まれてこの方この環境にいた私にはどこが変なのかさっぱり分からなかった。寧ろこれが常態なのだ。

「変でしょう。」

母は私に再び同意を求めた。私としては変じゃない、何時もと同じだと答えるしかない。母は妙にしかめっ面をして私を見ながら、お前もこんな所にいるからこれが変だと思わ無い様に育っているんだね。等と言う。

「普通は、家には埃という物が有るんだよ。」

障子紙だってぴったりと桟に収まって貼られたりしない物なんだ。そんな事を言って、妙な家だと不審そうな顔で呟いた。あの人は障子は1年に1度、大晦日、大掃除の時に張り替えるだけの物だというけれど、掃除だってこう毎日隅から隅まで掃き清めとか言うそうだが、それをさせられちゃあこっちは堪らないという物だ。この辺でこの家も変えなくちゃぁいけない。

 母はそんな事を独り言の様に言っていたが、ふと家の中で何かの気配を感じたらしい、さっと振り向くと、彼女は廊下へと姿を消した。その後はあら、まぁと言う様な女性の声、ぼそぼそと私には聞こえない話声らしい声音が伝わっていた。

 私は母が目の前から消えたのでここへ戻ってきた目的を思い出した。お八つだ。目の前の茶箪笥の戸を開くと、私の茶碗の中に駄菓子が数個盛られていた。私の茶碗の中に有るのだからこれは私の物だと思った。『今はもう10時くらいになる、お八つの時間だ。だからこのお菓子が今日のお八つだ。この家にお八つを貰うような子供は私1人。ではいただきます。』と考えると、私はこれを食べても構わないだろうとにこやかに判断した。

 私は早速茶箪笥の中から茶碗を取り出した。そしてそこに在ったお菓子を目に一寸躊躇した。家の大人に許可を貰うべきかどうかと考えたのだ。しかし、大人は皆忙しそうだ。私はこの時空腹を感じていた。それで直ぐにお菓子を1個手に取るとがぶりとほうばった。一口目を食べてみると、私はとてもお腹が空いていた事に改めて気付かされた。それで瞬く間にそこに在った全てのお菓子を口に運んで平らげてしまった。


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