「お母さん、申し訳ありません。」
嫁は先ず横にいた姑に謝ると、四郎さん申し訳ないと、その時廊下から座敷に入る縁側に立っていた、義弟にも詫びの言葉を口にするのだった。「僕達も見てたの、そう。」と、血の繋がらない甥達にも嫁は言葉を掛けた。だが部の悪い立場では、普段雄弁な彼女もそう大した会話は出来ずに言葉少なだった。
「皆んな驚いたわねぇ、こんな乱暴なお姉さんでは。」
嫁が寂しげに口にすると、子供等の祖母である彼女は、「でもねぇ皆んな、知っているでしょう。このお姉ちゃんは普段はとてもいい子なのよ。」と嫁に口添し、孫娘を弁護した。「如何したのかしら、こんないい子が、」彼女が不思議そうに呟くと、「本当に、何かあったのかい?。」と、嫁も自分の娘に穏やかな声を掛けてみるのだった。
あの子が。あの子って?。「智ちゃんかい?。」。孫娘や嫁の言葉に続けて、こう訊いたのは彼女だった。何の孫についても把握している彼女は、多分、事、この起こりは一方だけの落ち度では無いだろうと踏んでいた。
「お義母さん、何かご存知なんですね。」
嫁も胸に思う所が有った。あの子間が悪そうですからね。そう言う嫁の言葉に、ええねぇと彼女は相槌を打った。「あの子のは態とじゃ無いのよ。」。
そこで彼女達2人は、娘達の言い分も聞こうじゃないか、と、その場にいた男性陣に持ち掛けた。今は昔と違って封建時代じゃ無いだろう。男女平等、それが公平で民主的というものなんだろう。と、彼女が言えば、嫁もええと控えめに頷いた。
「封建時代とは、恐れ入ったな。何時の時代だい。」
彼女の息子の四郎が言った。お母さんの時代でさえ、もうそうじゃ無かったろうに。そう言うと進歩的な彼は、自分の子供の事で頑なになっていた気持ちが動いた様に見えた。
いいだろう、何が有ってもこちらの優勢は変わらないだろうからね。と、彼は甥達にも同意を求める様目配せした。
「でも、もしかすると、」
叔父四郎の側、子供2人の内、歳下の子の方が何か言い掛けたが、「しぃ、お前は黙っているんだ。」と素早く兄に制された。でも、でも、と、言いかけた子はやや狼狽えた。彼等の叔父の方は何だと言うと、子供達のこの遣り取りが解せない様子になった。
「叔父さん、最初から見てなかったから。」
止めろ、止すんだ。と歳上の子が制するのを振り切る様にして、やはり言った方が叔父さんの為だからと言うと、歳若の子はこう口にした。
「叔父さん途中から、智ちゃんが階段に打つかった、一寸前からしか、見てないでしょう。」
「それでもいいのかどうか、私何だか心配で。」と、幼い子供は言うのだ。叔父さんの事が心配なんだ。本当に智ちゃんだけの味方をしていていいの?。と子供に念を押す様に訊かれて、叔父四郎の胸には一抹の不安が過った。
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