続けて茜さんは考えました。
『後から母に聞いたらハニーは英語だという事だった。蜻蛉君はアメリカ人なのかな?』
茜さんは首を捻ると目を丸くして、改めて蜻蛉君を見詰めてみるのでした。
戦後暫く経ったとはいえ、こんな地方ではそうそう外国人を目にするという事は有りません。そして、見た目日本人の様な東洋人に見えたとしても、外国人と言うと当時の日本人は皆アメリカ人だと思う時代でした。茜さんがそう思ったのは無理からぬ事と言えるでしょう。
「蜻蛉君英語が話せるの?、アメリカ人だったの?」
意外そうに言う茜さんの問いかけに彼はちょっとはにかみました。当時アメリカ人に見られ、英語が話せるという事は十分に優越感を満たしました。それは自慢に出来る事でしたから、流石に自信家の蜻蛉君でも、相手に少々照れて見せるくらいに自重したのでした。まぁねと、彼は言いました。
「外国語が少し話せるだけだよ。」
僕は日本人だからね。と如何にも上品に言うと、彼の目は細く弓形になり思わず笑顔が零れてしまいました。
なんだぁ、と、茜さんは思いました。折角外国人のお友達がいると知り合いに自慢できると思ったのに、それがふいになってしまった。と、彼女は一時高揚した感情が萎んでしまいました。彼女は気が滅入るとまた蛍さんの事が気掛かりになって来ました。
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