私ね、クラスによく宗派が違うっていう子がいて、イエス様とか、キリスト様とか言って、お釈迦様とは違うんだって言うの。
こっちの神様の方が偉いとか、いいんだって言うから、それってどんな神様かと教えてもらったんだよ。と、説明しました。
お釈迦様とは違って、何でも出来る神様なんだって、凄いよね。蛍さんがそう言うと、澄さんは慌てて蛍さんの口を塞ぎました。
「此処はお寺だから、お釈迦様以外の他の神様の話はしない。」
分かったわねと蛍さんを諭します。でもと、外国の人でもお釈迦様を信じる人もいるのよ。お経を唱えたりするの、不思議ね。
「そういう人とは外国の人でも話していいのよ。今度会ったら教えてあげる。」と澄さんは蛍さんに言うのでした。
蛍さんと澄さんが面白そうに四方山話を始めた頃、現実社会では蛍さんの介護に大わらわの人々がいました。
氷枕だ、氷嚢だと、氷の調達に一生懸命です。蛍さんは瞼を閉じられ静かに布団に寝かされています。
さて、如何しましょうと、事情を知る人は誰があちらまで迎えに行くかと話し合っていました。
「未だ脈はあるんだから、あそこで止まっているに違いない。」
そう言って、また私が行きましょうと光君の祖父が言うと、いや、さっきも行かれたのに、今回も行かれては負担でしょう。
そうお寺の住職さんは案じます。ではと、私が行きましょうと名乗りを上げたのは奥様でした。
大丈夫なのかという声の中、奥様は早速支度にかかります。
「大変だわ。」
澄さんが血相を変えました。蛍さんの手を取って灰色の山の陰に隠れます。
「かくれんぼだからじっとして、静かにしているのよ。」
そう蛍さんに注意しました。誰か山の向こうにやって来た気配です。
「私あの人苦手なのよね。」
澄さんは独り言のように言います。蛍さんは誰だろうと思いました。
おーいおーいと、誰かが誰かを呼ぶ声がします。何処に行ったの?出ておいで、何もしないから、帰りますよ。
その声は女の人の声のようです。
「ごめんね、もう殴ったりしないから、出て来ておくれ。」
その声に、蛍さんはぎょっとします。あの人誰か殴ったの、怖いんだね。
それでこのお姉さんはあの人が苦手なのか、と察する蛍さんでした。
澄さんの方は、なるほどね、今度はあっちの記憶がないんだと、蛍さんの顔を覗き込みました。
あんたも大変ね、あっちに行ったりこっちに行ったり、加えて何にも覚えてないんだから。それは大変とばかりに、
やれやれ生きているのも迷っているのも、大変な事に変わりはないんだと微笑みます。
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