*『死の淵を見た男』著者 門田隆将 を複数回に分け紹介します。43回目の紹介
『死の淵を見た男』著者 門田隆将
「その時、もう完全にダメだと思ったんですよ。椅子に座っていられなくてね。椅子をどけて、机の下で、座禅じゃないけど、胡坐をかいて机に背を向けて座ったんです。終わりだっていうか、あとはもう、それこそ神様、仏さまに任せるしかねぇっていうのがあってね」
それは、吉田にとって極限の場面だった。こいつならいっしょに死んでくれる、こいつも死んでくれるだろう、とそれぞれの顔を吉田は思い浮かべていた。「死」という言葉が何度も吉田の口から出た。それは、「日本」を守るために戦う男のぎりぎりの姿だった。(本文より)
吉田昌郎、菅直人、斑目春樹・・・当事者たちが赤裸々に語った「原子力事故」驚愕の真実。
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**『死の淵を見た男』著書の紹介
第14章 行方不明40名!
「生きては帰れない」 P238~
(しまった)
緊対室にいた吉田所長は、爆発音と衝撃の瞬間、そう思った。
3号機の格納容器の圧力が朝方から上昇し、爆発の危険性が高まったとして、吉田は、現場から作業員を引き揚げて待機させていた。
しかし、格納容器の圧力が落ち着き、現場に作業員たちを再配置した時に爆発が起こったのである。
「本店、本店! 大変です、大変です!」
吉田はテレビ会議で叫んだ。
「3号機でたぶん”水蒸気爆発”がいま起こりました! 免震重要棟ではよくわからないんだけど、地震とは明らかに違うものがまたきて、タテ揺れとヨコ揺れが来ません。1号機と同じような爆発だと思います!」
吉田は、「1号機と同じような爆発」と言いながら、「水素爆発」を水蒸気爆発と言い間違えている。かなり慌てていたことがわかる。
「パラメーター確認しろっ」
「線量はどうだ!」
緊対室は一転、喧噪に包まれた。
「ガンマー、中性子など変化はありません!」
(これは、死者が出ている)
吉田は即座にそう思った。それほど凄まじい衝撃だった。
「行方不明40名!」
そのあと緊対室に轟いた声に、吉田は凍りついた。
(これで、俺はここから生きてでるわけにはいかない)
その数字を聞いて、吉田はそう思った。
「あの時、かなりの人間を現場に出していたんですね、現場に行って作業してくれって言ったのは私ですから、もう自分が生きてる意味がねぇって、思いました。人を大勢死なせちゃったかもしれない、それは私の責任だな、と。生きて出ることはできない、ここで死のうと思いました。腹切るしかねぇな、と」
いま振り返っても、吉田はその時のことが悔やまれてならない。
「私は3号機の格納容器の圧力が上がったから、現場から退避させてたんです。危ないから一回退避しろということでね。ただ、退避してても1号機と3号機への海水注入はどうしてもやらないといけないわけですよ。次の2号機の段取りもしないといけないんで、どこかの段階で現場に人を出さなければならなかった。本店のほうからも、ちょっと格納容器の圧力が落ち着いてきたから、そろそろさぎょうはじめられないかという要請があったわけです。半分、渋々ではあったわけだけども、もうちょっとようすを見たいなって思いながら、よく気をつけて行ってくれということでだしたんですよね。そこに爆発が起こった。行ってくれって言ったのは、私ですから、しまった、と思いました。私の責任でした・・・」
作業を命じた時の言葉を吉田は記憶している。
「一応いま格納容器の圧力が安定状態になったと思うんで、各作業に当たっていた人間は現場に行って、作業を継続してくれ」
それから間を置かずに爆破しただけに、「安定状態になった」と言ってしまったことに、悔いがこみ上げてきたのである。
福島第一原発では、事故やなにがしかの異変が生じた場合は、必ず総務の人間が人数確認をするシステムがある。各グループから報告を受けて、情報収集し、累計をとっていくのである。
「あの時に、最初に行方不明40名と聞いたわけです。これは、安否が確認できていない人間の数なんで、最初は多いのは当然ですが、それにしても数がすごい。ショックが大きくてね。もう、なんというか胸がぎゅっとしまったっていう感じですよ。なんか息が止まるみたいな感じになりました」
これはもう俺は生きながらえるわけにはいかんー総務の報告を聞いた瞬間、吉田がそう思ったのは無理もなかった。
(次回は「もう、来なくていいですよ」)
※続き『死の淵を見た男』~吉田昌郎と福島第一原発の500日~は、
2016/4/14(木)22:00に投稿予定です。
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