*『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』著者 雁屋 哲 を複数回に分け紹介します。3回目の紹介
美味しんぼ「鼻血問題」に答える 雁屋 哲
何度でも言おう。
「今の福島の環境なら、鼻血が出る人はいる」
これは”風評”ではない。”事実”である。
2年に及ぶ取材をへて著者がたどりついた結論はこうだ。
「福島の人よ、福島から逃げる勇気を持って下さい」
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**『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』著書の紹介
海に入ることさえ禁じられた砂浜
いわき市の塩屋崎は上に建つ灯台も美しいし、その下に広がる砂浜も日本の砂浜にしては、さらさらと足に心地よい素晴らしさ。
夏には海水浴客で賑わったということで、海水浴客を見張る塔が幾つも立っています。アメリカやオーストラリアの浜辺のように、海水浴客の安全を見張る用意が整っている。本当に美しい浜辺です。
そのあたりは「薄磯」とよばれています。
その浜辺で、「薄磯採鮑組合」の、組合長鈴木孝史さんと副組合長の阿部達之さんにお話を伺いました(この辺のことは『美味しんぼ 福島の真実編1』に掲載されています)。
鈴木さんは実は、福島のサーファーとしての開拓者であり、ご自身もサーフィン道具の店を持っておられる、サーファー仲間では有名な方です。
その鈴木さんと阿部さんのお話はえらく豪儀な物でした。
その組合の名前の通り、お二人はアワビ漁をしておられるのですが、なんといっても利益が上がったのが「ウニの貝焼き」だったそうです。
ホッキ貝の殻にとれたばかりのウニを盛ってそれを焼く。
それを、市場に持って行くと、1個2000円で売れたそうです。
市場価格で2000円ということは、消費者はそれより高い値段を貝焼きに支払っていたということです。それだけ、ウニの貝焼きは価値があった。
アワビの方は、干しアワビを作る人に売るのですが、一番高いのは一個9000円で売れたそうです。2000円だの9000円だの、聞くだけで凄い話です。
で、いったい、そのアワビやウニはどこでとったんですかとお尋ねすると、すぐ目の前の磯をあごで示して、
「あの磯です」という。
私は横須賀の秋谷という海辺の街に住んでいるので、「磯」という言葉の重さを知っています。目の前の陸続きの磯もあるし、浜から離れたところにある岩礁も磯と言います。
磯は、私の住む秋谷でも、海の幸の宝庫という意識が強い。海草も育つし、その周辺に魚もたくさんいる。海辺近くの人間にとって、「磯」という言葉は特別の響きを持つのです。
鈴木さんと阿部さんがあごで示した磯は、浜辺から、300メートルくらいしか離れていない。そんな間近なところにある磯で、毎年大量のアワビとウニがとれたのだそうです。
まるで、目の前に宝の山があるようなのものです。
しかし、原発事故以来、アワビやウニをとることはおろか、海に入ること自体禁止されてしまったといいます。
私が尋ねたときは11月で季節はずれでしたが、毎年海水浴客で賑わった浜辺も、原発事故以来、海に入ること自体禁止されていては海水浴客も来るわけがない。鈴木さんが大好きなサーフィンも海に入ることを禁止されているから、サーファーも来ない。
鈴木さんのサーフィン用品の店も大打撃です。
それ以前に、目の前の磯に宝物があるのに、そこに入っていけない。
お二人にとっては、生計を立てる重要な道を絶たれてしまったのです。
お二人は、激することもなく、嘆きの言葉を発するわけでもなく、淡々と自分たちの現況を話して下さった。そのお二人の淡々とした様子がかえって私の心を締めつけました。
その時お二人にお話を聞いていた場所の線量は、0.6マイクロシーベルト。
灯台下は0.75マイクロシーベルト。灯台下の吹きだまりでは、1.65マイクロシーベルト(以下すべて、線量は一時間当たりで表示します)。少し上がった展望台では、0.3から0.4マイクロシーベルトまで風の向きと強さで変わりました。
(IRCPの基準値、年に1ミリシーベルトは毎時0.114マイクロシーベルトになります)
あとで聞いた話ですが、民間団体が海の汚染状況を調べるために船を出して海水を採取していたら、海上保安庁の船がやってきて、海水を採取して放射線量を調べることは禁止されているといって、海水の放射線量を測定するのを許可しなかったということです。
※続き『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』は、10/16(金)22:00に投稿予定です。