閻魔大王像ノミ入れ式の朝、勢山社舞子工房は大忙しでした。
言うまでもありませんが工房はお仏像を制作する場所なので、用材はもちろん大型の機械や多くの道具、制作途中の像などがありいつもはなかなかの賑やかさですが、今日は大切な儀式の日のため、整然としていつもと違う雰囲気が漂っています。
広々とした工房の一角には幕が張られ、すでに祭壇が設けられており、完成予想図やご用材、そして五分の一の大きさの閻魔大王像雛型が前日から準備されていました。
しかし、山の幸や海の幸、紅白のお餅などのお供えや生花などは当日設置でしたので、11時の開式を前に慌ただしく時間が過ぎていきます。
朝礼での打ち合わせが終わると、皆忙しそうに行動開始。
私も何かできることはないかと工房内を走り回りました。
眼下に琵琶湖が望める舞子工房は、山間のため天気が変わりやすく、ふと外を見るとせっかくのお祝いの日なのに雨がパラついていて景色がかすんでいます。
すでに梅雨入りしているから仕方がない・・・との思いもつかの間で外は次第に明るくなり、打ち水をしたかの様な景色に一変してきました。
天意?も含めすべての準備が滞りなく済んだ頃、予定どおり常林寺様の御一行が到着、いよいよノミ入れ式が始まりました。
仏師の工房を訪れるだけでも貴重な経験です。
さらに、これからお迎えするお像にノミを入れる・・・緊張からか空気が張りつめ、皆さんの表情が硬くなっているようです。
般若心経などのお経を唱え、まずご住職がご用材にノミを入れた後、勢山さんに手を添えて頂き、同行された檀家の皆さんやお弟子さん等参加者全員が、閻魔さんの描かれたご用材にノミを入れました。
ご自身が削り取った木片は、いわば閻魔さんの御分身そのものです。
ご住職の奥様とお嬢様が用意されたお守り袋に入れて大切に持ち帰られましたが、ノミ入れ前の緊張した様子と、お守りを手にする安堵の笑顔とがとても印象的でした。
新しいお像を迎える場合であっても、必ずしも「ノミ入れ式」を行う訳ではありません。
このような場に立ち合える事が、大変に貴重であった事を感じていらっしゃったのでしょう。
式終了後の工房見学では、閻魔さんに使う技法の「玉眼嵌入(ぎょくがんかんにゅう)」などについて、模型を用いて勢山さんから詳しく説明があり、皆さん興味津々の様子でした。
「閻魔大王像」を発願された東京都港区の曹洞宗常林寺ご住職は、世田谷学園の元校長先生との事。
ご住職は、平成12年の秋に完成した世田谷学園の「僧形文殊菩薩像」ノミ入れ式にも参加されており、かねてより閻魔大王像造顕の夢を勢山さんにお話されていて、このたびのノミ入れは夢の実現の第一歩になりました。
寄木造り総高1.5mの閻魔大王像は来年春頃に完成予定。
常林寺さんの本堂で1年ほどお披露目され、その後新築が予定されている閻魔堂に移られるそうです。
ちなみに、16年ほど前に、ご住職との出会いのご縁となった「僧形文殊菩薩像」は、若者に囲まれ活躍のご様子。
世田谷学園ホームページの施設紹介によると、建物の一つ「観性館」の一階に60人が座れる本格的な禅堂があり、有志による早朝座禅が行われているとのことでした。
人の世はその時代によって様々な変化がありますが、人々の想いや願いが込められたお像達は静かにその様子を見守っていてくれる・・・と思うと、頼もしくもあり嬉しいです。
どのような閻魔さんが誕生するのでしょう。
楽しみです。
※ミニ知識 ≪閻魔大王(えんまだいおう)とは≫
人間界初めての死者とされ、地獄界をひきいる王。
7日毎の法要は冥界の裁判の日であり、49日は地獄、極楽への進路が決まる重要な裁判日にあたります。法要参列者は冥界の裁判官に故人の善行を伝え減刑を願います。
一方、閻魔大王は地蔵菩薩の化身でもあり、慈悲を持って故人を救い転生の裁きを行います。