新JOOKOのふぉとエッセイ

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一丈六尺阿弥陀如来像 100人の鑿入れ式

2009-10-11 | 勢山社特派員だより


仏像に手を合わせて願いを託すことはあっても、これから誕生するお像に鑿を入れるという貴重な経験ができる人は、めったにいないのではないでしょうか。 

岐阜安祥院さんが一丈六尺阿弥陀如来像の造顕を発願され、勢山さんにご縁が出来たのは昨年の秋の事。以来何度となく打ち合わせが行われ、2009年10月7日ついに喜びの鑿入れ式を迎える事になりました。

勢山社舞子工房の新館と本館の一部、約300㎡が今回の会場。安祥院さんの関係者と勢山さんの一門、そしてお手伝いの方も含め110人程が参列者です。

普段木取り場として使われている勢山社舞子工房の新館には、この日のために新調したという勢山社ロゴ入りの紫色の幕と紅白幕が張られ、私が工房に到着した7日早朝は、もう儀式会場へと変身していました。

会場には実物大の完成予想図と鑿が入れられる用材が用意され、祭壇には紅白のお餅やお酒が、朱塗りの三方には、海・山の幸が盛り上げられています。

また本館には、完成像や制作途中のお像などが集められ、これから始まる彫像技法が一目でわかるよう展示されていました。準備の大変さが伺い知れる会場の様子でした。

「それぞれが鑿を入れることで仏さまとのご縁ができます。仏さまを身近に感じた今日の出来事を是非親しい方々にお伝え下さい、それが守り護られながら後世に続く第一歩になるのです。」と、最初に仏師の渡邊勢山さんが挨拶をし、鑿の使い方についての説明の後鑿入れ式が始まりました。
    

一度しかない大切な瞬間を見逃すまいと、私はいつも心がけます。
    

式次第に添って儀式が進行し、用材に鑿が入れられる場面はやはりこの日のクライマックスとなりました。
    

勢山さんのさりげない手助けに安心したのか、鑿を手にした参列者の表情が緊張から喜びに変わります。こういう場面に出会うと私も嬉しくなり、夢中でシャッターを押してしまいます。


参列者は、それぞれが削った阿弥陀如来像ご分身の木片を大事そうにお守り袋に入れ、この日のために特別に描かれ用意された散華を受け取って更に嬉しそうでした。

鑿入れ式終了後、制作途中や修理のお像などの前で、多くの人が勢山さんの説明に耳を傾けていました。いくら仏像ブームとはいえ、仏師の工房でのこういう機会はめったにないはず。と思いきや、用材の前に再び行列ができているではありませんか!
    

家族や親戚のために、ご分身を持ち帰りたいという人たちが何度も並び、中にはご自分の具合が悪い場所に鑿を入れた方もいたとか。きっと、もう阿弥陀さまを身近に感じているが故なのでしょう。

あっという間に時が経ち名残惜しそうに工房を出発し、午後は兵庫県三田市の永澤寺さんに向かいました。

永澤寺には、大観音像を始め勢山さんが制作した多くのお像が納められています。
まず仁王さんにご挨拶をして本堂へ。
    

お茶の接待を頂き、一息ついたところで副住職様から永澤寺ご本尊についての説明がありました。

安祥院さん永澤寺さんは宗派が違いますが、永澤寺ご本尊の三尊仏には阿弥陀如来像も祀られています。今回の鑿入れをご存じの永澤寺副住職様は、特に阿弥陀如来像の説明を多くしてくれた様です。

素晴らしい彩色と截金が施された地蔵菩薩像の前では、勢山さんの説明を受け、その後観音堂へ。
移動途中にお会いした布袋さんも大人気。金箔が押された(貼られた)ふくよかで優しい姿に、誰もが微笑みながら手を差し伸べます。そのほほえましさは、布袋さんが役目をしっかり果たしていることを証明していました。
      

妙高閣(観音堂)では、総高9mの観音菩薩像を目の前にし人々がどよめきました。
荘厳で美しいその姿はきっと心に焼きつき、鑿入れ式の様子と共に家族などへのお土産話となったにちがいありません。


台風18号の影響が出始めたのか、夕方から雨足が強くなってきました。
悪天候になり、帰路につく時間が予定より遅くなったにもかかわらず、参列者の皆さんは大喜びだったとのこと。

110人の参列者それぞれがこの日の経験を胸に刻み、2011年冬には、完成の阿弥陀如来像の前で喜びを分かち合う。そんなシーンがふと頭をよぎりました。

私の役割はこれからも続きます。
阿弥陀如来像の制作経過を、精一杯お伝えできればと思っています。