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情報公開審査会 平成14年度(行情)答申第57号 東北大学医学系研究科附属動物実験施設における動物…

2004年06月11日 | 事務・事業に関する情報
諮問庁 : 東北大学総長
諮問日 : 平成13年12月21日
答申日 : 平成14年6月11日
事件名 : 東北大学医学系研究科附属動物実験施設における動物実験計画審査願等の一部開示決定に関する件(平成13年諮問第239号)

答 申 書


第1 審査会の結論
東北大学医学系研究科動物実験施設の動物実験審査願及び購入動物の種類毎の納品書(以下,「本件対象文書」という。)につき,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)5条1号,2号及び6号の規定に該当することを理由に一部開示とした本件決定において不開示とした部分のうち,別表に掲げる「開示すべき部分」を開示すべきである。

第2 異議申立人の主張の要旨
1  本件異議申立ての趣旨は,法3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成13年7月23日付け総広情6号により東北大学総長が行った一部開示決定について,これを取り消し,本件対象文書の開示を求めるというものである。

2  異議申立ての理由
(略)


第3 諮問庁の説明の要旨
1  東北大学の動物実験計画審査願について
我が国では,「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)24条(動物を科学上の利用に今日する場合の方法及び事後措置)」及び「実験動物の飼養及び保管等に関する基準(昭和55年総理府告示第6号)」並びに全国の動物実験を行っている各大学で制定されている「動物実験指針」に従い,更に研究機関における自主的な管理システムを設置し,適正な動物実験の実施に多大な努力を払っている。
本学においては,「東北大学における動物実験に関する指針」が制定され,動物実験を行っている部局には動物実験委員会が設置されている。
本学における動物実験計画書の審査システムは,平成元年に確立され,動物実験委員会による審査が開始された。当時の計画書は,特に動物実験の方法の記載が簡単であったため,平成7年度に様式を変更し,動物実験の目的及び方法を詳細に記載することとし,その実験方法から想定される動物へ与える苦痛の程度を研究者自ら評価することとした。前者は,目的及び方法を詳細に記載させることにより委員会の判断をより正確にするためである。また,後者は研究者自らが動物へ与える苦痛を考え評価する機会を持ち,これについて委員会との議論を通じて苦痛の評価を一致させ,更により苦痛の軽い実験処置を行う努力を委員会と研究者が行うためのものである。
したがって,現在,委員会は実験計画申請者に対し,計画の必要性を評価するために,詳細な研究のプライオリティに関する部分や,苦痛の程度を評価するために詳細な実験方法を記載することを求めている。これまで申請者は,計画の詳細が他へ公開されないことを前提として,できるだけ詳細に記載している。
ちなみに,動物実験計画審査願を詳細な様式に変更することにより,動物実験委員会から意見付加した許可件数は変更後徐々に増加し,平成12年度は112件中40件に意見付加が行われた。

2  不開示部分とその理由について
(略)


第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成13年12月21日  諮問の受理
② 同日  諮問庁から理由説明書を収受
③ 平成14年1月21日  異議申立人から意見書を収受
④ 同年1月31日  審議
⑤ 同日  異議申立人から意見書を収受
⑥ 同年2月15日  異議申立人代理人及び補佐人からの口頭意見陳述の聴取
⑦ 同月22日  審議
⑧ 同年3月4日  諮問庁から意見書を収受
⑨ 同月7日  諮問庁の職員(東北大学医学系研究科附属動物実験施設長ほか)からの口頭説明の聴取,本件行政文書の見分及び審議
⑩ 同月18日  異議申立人から意見書を収受
⑪ 同月29日  異議申立人から意見書を収受
⑫ 同年4月12日  審議
⑬ 同月12日  諮問庁から意見書を収受
⑭ 同年5月24日  審議
⑮ 同月29日  異議申立人から意見書を収受
⑯ 同月31日  審議
⑰ 同年6月5日  諮問庁から資料を収受
⑱ 同月7日  審議

第5 審査会の判断の理由
1  本件対象文書について
本件対象文書は,動物実験計画審査願34件及び購入動物の種類毎の納品書10件である。

(1)  動物実験計画審査願について
東北大学においては,動物実験に関して「東北大学の動物実験に関する指針」(昭和63年3月24日学長裁定)に基づいて,医学部及び同附属病院における運用内規が定められており,同内規第3の規定により組織される東北大学医学部及び附属病院並びに医学系研究科(以下「医学部等」という。)動物実験委員会(以下「動物実験委員会」という。)が,前記指針,動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)及び実験動物の飼養及び保管等に関する基準(昭和55年総理府告示第6号)等に照らして,動物実験の適否を審査することとしている。研究者が動物実験を実施しようとする場合は,動物実験計画審査願を同委員会に提出し,その審査を受けることとなっている。
動物実験計画審査願の記載内容は,(ア)部局等名,(イ)講座等名及び講座責任者職,氏名及び印影,(ウ)動物実験責任者及び動物実験従事者の氏名,所属,職名及び内線電話番号(直通電話番号を含む。),(エ)研究課題,(オ)動物実験の目的,(カ)安全管理上注意を要する実験,(キ)動物実験実施の予定期間,(ク)動物実験の実施場所,(ケ)動物の飼育場所,(コ)動物実験を必要とする理由,(サ)使用動物について(使用動物種及び系統名,使用動物数,入手先),(シ)動物実験の方法,(ス)想定される痛みのカテゴリーの自己判断,(セ)動物の苦痛軽減・排除の方法及び保定・拘束の時間について, (ソ)実験終了後の処置,(タ)動物実験委員会の本実験計画に対する意見(印影を含む。),(チ)委員会判定(判定,有効期限,動物実験委員会委員長の氏名及び印影)及び(ツ)動物実験計画更新の有無欄(実験責任者署名)の18項目である。このうち不開示及び一部不開示としている項目は,(1)講座等名,講座責任者職,氏名及び印影,(2)動物実験責任者及び動物実験従事者の氏名,所属及び内線電話番号(直通電話番号を含む。),(3)研究課題,(4)動物実験の目的,(5)動物実験の実施場所(6)使用動物の入手先,(7)動物実験の方法,(8)動物実験委員会の本実験計画に対する意見欄の意見及び印影,(9)委員会判定欄の動物実験委員会委員長の氏名及び印影及び(10)動物実験計画更新の有無欄(実験責任者署名),である。

(2)  動物の種類ごとの納品書について
動物納入業者が動物の納品に際して,大学に提出するものであるが,動物名,納入数及び単価が開示されているが,動物納入業者名(法人名,代表者氏名及び印影),これを特定し得る品名記号,住所,電話番号,納入事業者の担当者の氏名,納入先を示す医学部等の講座等名,受領者の氏名及び受領印の印影が不開示とされている。

2  不開示情報該当性について
本件対象文書を当審査会において見分,精査した結果に基づき,不開示情報該当性について,以下検討する。

(1)  動物実験計画審査願について
ア  講座等名,講座責任者職,氏名及び印影について
動物実験は,大学における研究の一つの方法であり,大学における研究者の職務遂行そのものである。また,講座等の名称は,研究者の所属や職務の内容を示すものであることから,法5条1号ただし書ハに該当することは明らかである。
また,一般に市販されている公務員の職員録に,国立大学の教官については,講師以上の者の氏名が掲載されており,講座責任者は教授であることから,その氏名は慣行として公にされている情報と認められる。
諮問庁は,動物実験を行う研究者の氏名を公にすると,一部過激な考えの者による嫌がらせや,脅迫など,不当な圧力を受けるとして法5条同条6号に該当すると主張しているが,通常,研究者はその研究内容の成果を論文等によって発表するものであり,その際に,研究者の講座等名や氏名を自ら公表しているところである。
諮問庁の主張するとおり,動物実験を行う施設等に対し,匿名による非常識な嫌がらせや違法な事例が,現実に発生していることが認められるが,これらの事例から,現時点においては,直ちに東北大学における研究に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとは認められない。
したがって,講座等名及び講座責任者職・氏名及び印影については,法5条1号ただし書イ及びハに該当し,同条6号に該当しないものと認められることから,開示すべきである。

イ  動物実験責任者及び動物実験従事者について
当該欄には,動物実験責任者及び動物実験従事者について,氏名,所属・職名及び内線電話番号(直通電話番号を含む。)が記載されており,これらのうち開示された職名の欄には,教授,助教授,講師,助手,医員,技官,大学院生が記載されている。動物実験は,大学院生以外の研究者等にとっては職務遂行そのものであり,その所属は,職務遂行の内容を示すものであることから,法5条1号ハに該当する情報と認められる。
また,大学院生以外の研究者等のうち,前記アと同様に,一般に市販されている公務員の職員録に掲載されている国立大学の講師以上の者の氏名及び電話番号については,慣行として公にされている情報として,法5条1号ただし書イに該当するものと認められることから,動物実験責任者及び動物実験従事者のうち,講師以上の者の氏名及び内線電話番号は開示すべきである。
研究従事者として記載された者には,地方自治体の職員1名が含まれているが,当該者については,当該地方自治体の所属機関において,その氏名が慣行として公にされているものと認められることから,氏名と電話番号を開示すべきである。
ただし,大学院生については,その所属,氏名,電話番号について,いずれも個人に関する情報であって法5条1号に該当し,同号ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため,不開示が妥当である。
法5条6号該当性については,前記アのとおり判断する。

ウ  研究課題及び動物実験の目的について
東北大学における動物実験委員会の目的は,実験の必要性,重要性の適否を判断するとともに,動物に与える無用な苦痛の除去や苦痛レベルの軽減等,動物福祉の観点から,動物実験委員会がこれらを詳細に把握した上で,動物実験の適否を判断することにある。そのために,実験責任者に対し動物実験の手順,方法,動物の使用数や苦痛軽減のための方法などを,詳細に記述することを求めているものである。現に,実験や研究に関する記述は,専門研究者が正確に判断するために必要とされる極めて詳細なものであることが認められる。
これら研究及び実験に関する詳細な記述には,研究の概要を集約したキーワードとなる文言が必ず含まれており,例えば,薬品,材料,物質及び対応する症例などの名称を示す文言一つによって,当該研究者の専門分野及び研究業績など,その他の情報と照合することにより,研究の目的や観点,独創性及び研究者としての工夫など,どのような研究を行って,何を開発しようとしているのか,その研究のアイデアのヒントが判明し得るものである。
このように,研究課題に含まれるキーワードや実験目的の詳細な記述には,研究の独創性や独自性,着眼点などアイデアが生命である研究者の優先権やプライオリティに相当する部分を含んでいることが認められる。これらの情報が記述された部分は,研究の進捗状況に関わりなく一律に公にすることにより,特に特許や実用新案にかかわる研究活動にとって,研究活動を停滞させたり,研究を中止に至らしめたり,研究上の致命傷になり得るものであり,研究活動に支障を及ぼす具体的なおそれがあることから,法5条6号ハの不開示情報に該当するものと認められる。
したがって,研究課題及び実験目的について,その研究のキーワードとなる文言,創意工夫など,研究の秘密に関し中枢をなす部分について不開示としたことは妥当であるが,当審査会が,諮問庁に更に精査をさせた上,特定したとおり,これらを除いた部分については開示すべきである。

エ  動物実験の実施場所について
動物実験の実施場所について,中央動物実験施設及び臨床分室で実施されるものについては開示されているが,「その他」に印が付されたもの2件について,実施場所である研究室名が不開示とされている。
動物実験は,研究者の職務であり,その実施場所は,職務遂行に係る情報であると認められるため,前記アと同様の理由により,開示すべきである。

オ  使用動物の入手先について
使用動物の入手先については,国公立の機関などの実験動物供給先の名称,実験動物を扱う民間事業者の法人名が記載されている。
実験動物の入手先のうち,実験動物を扱う民間事業者の半数以上の者から,その法人名の開示について,強い反対意見が示されているところ,これらの反対意見が企業の正当な利益を害されるおそれを現実の可能性としてとらえていることを考慮すると,その危惧を否定することはできない。
また,現に英国において実験動物を取り扱う特定の企業が,過激な動物愛護団体等の圧力を受けて倒産の危機に瀕したこと等にかんがみると,当該法人の権利競争上の地位その他正当な利益を害されるおそれがあることを否定できないことからも,これらの民間事業者の法人名は,法5条2号イに該当するものと認められる。
一方,国公立の機関名については,その名称や事業内容は,既に公にされているものであり,実験用動物の供給を停止するに至るとは認められず,法5条6号に該当しないものと認められる。
なお,実験動物を扱う民間事業者のうち,開示に支障がないとしている事業者については,当該事業者の事業内容及び事業規模等から,正当な利益を害されるおそれがないと判断しているものと考えられ,その法人名は,法5条2号イに該当せず,また,これを公にしても当該事業者が実験用動物の供給を停止するに至るとは認められないため,同条6号にも該当しないものと認められる。
したがって,国公立の機関名及び開示に支障がないとしている実験動物を扱う民間事業者の法人名については,開示すべきであるが,それ以外の実験動物を扱う民間事業者の法人名については不開示が妥当であると判断する。

カ  動物実験の方法について
前記ウと同様の理由により,動物実験の方法についても,動物実験委員会は詳細な記述を求めている。動物実験の方法欄には,研究者が行う実験について,その手順や材料,器具,機材の使用等に関するノウハウなどが詳細に記述されており,法5条6号ハに該当する記述を含むものであることが認められる。
したがって,動物実験の方法について,その研究のキーワードとなる文言,創意工夫など,研究の秘密に関し中枢をなす部分について不開示としたことは妥当であるが,当審査会が,諮問庁に更に精査をさせた上,特定したとおり,
これらを除いた部分については開示すべきである。

キ  動物実験委員会の本実験計画に対する意見欄及び印影について
動物実験委員会が付した意見は,34件中33件について開示されている。不開示とした1件につき,諮問庁は実験方法が推認されるためとしているが,当審査会の見分結果によっても,直ちに秘匿すべき実験方法が推認されるものとは認められず,意見は,動物実験委員会がその審査業務を適正に遂行していることを示す情報であり,法5条6号ハに該当するものとは認められない。
また,当該欄の認印は,動物実験委員会が職務として判定したことを示すものであり,職務遂行の内容に係るものである。また,印影が示す特定の者の氏名は,市販されている公務員の職員録に掲載されており,慣行として公にされているものと認められることから,法5条1号ただし書イ及びハに該当するものと認められる。
なお,法5条6号該当性については,前記アと同様に判断する。
したがって,動物実験委員会の意見及び印影は開示すべきである。

ク  委員会判定欄の動物実験委員会委員長の氏名及び印影について
動物実験委員会が職務として実験計画の承認の是非を判定した結果は,職務遂行の内容を示すものである。委員長は,動物実験委員会の最高責任者であり,大学における地位及び職務の重要性にかんがみれば,その氏名は,慣行として公にすることが予定されているものと認められることから,法5条1号ただし書イに該当する。
法5条6号該当性については,前記アと同様に判断する。
したがって,委員長の氏名及び印影は開示すべきである。

ケ  動物実験計画更新の有無欄(実験責任者署名)について
動物実験計画更新の有無欄の実験責任者署名については,前記イと同様に判断する。

(2)  動物の種類ごとの納品書について
動物納入業者名,住所,電話番号については,前記(1)オと同様に判断する。
また,動物納入業者が使用する動物の品名記号は,動物納入業者を特定し得るものであり,業者名が開示されるものについては,品名記号についても開示すべきであるが,その余のものについては不開示が妥当である。
なお,納品書10件のうち1件については,動物納入業者の担当者欄に氏名の記載が認められるが,その者の氏名は,法5条1号に該当する個人を識別できる情報であることから,不開示が妥当である。
さらに,納入先の講座等名,受領者の氏名及び受領印の印影については,前記(1)アと同様の理由により,開示すべきである。

3  本件一部開示決定の妥当性
以上のことから,本件対象文書につき,一部開示とした本件決定において不開示とした部分のうち,別表に掲げる「開示すべき部分」を開示すべきであると認めた。

第5 答申に関与した委員
吉村則,住田裕子,戸松秀典

別 表
項     目開 示 す べ き 部 分
動物実験計画審査願講座等名,講座責任者職・氏名
動物実験計画書
動物実験責任者
動物実験計画の更新の有無
所属・職名
氏名及び電話番号(講師以上)
実験責任者署名(講師以上)
動物実験従事者所属・職名
氏名・電話番号(講師以上)
(全項目について大学院生を除く。)
研究課題
動物実験の目的
動物実験の方法
研究課題のうち,その研究のキーワードとなる文言,創意工夫など研究の秘密に関し中枢をなす部分を除いた部分
動物実験の場所その他欄に記載された研究室名
動物の入手先国公立の機関名
開示に支障なしとしている民間事業者名
本実験計画に対する意見意見及び印影
委員会判定欄動物実験委員会委員長の氏名及び印影
動物の種類毎の納品書開示を支障なしとしている動物納入業者名,住所,電話番号


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