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新潟市情報公開・個人情報保護審査会答申 新情審第7号 図書館司書採用試験(正規) の問題と正答表…

2003年10月09日 | 事務・事業に関する情報
新情審第7号
平成15年10月9日

新潟市長
新潟市教育委員会 様

新潟市情報公開・個人情報保護審査会
会 長 風 間 士 郎

不服申し立てに関する諮問について(答申)


平成15年5月20日付け新人第209号の2及び同日付け新教総第151号の2によって諮問のあった案件について,次のとおり答申する。

第1 審査会の結論
新潟市長は,平成15年4月14日付け新人第1210号の3で一部非公開と決定した「昭和60年以降に実施された,図書館司書採用試験(正規) の問題と正答表及び論文試験問題」については,文書不存在のものを除き全て公開することが妥当である。
新潟市教育委員会が,同年4月14日付け新教総第1232号の3で全部非公開と決定した「昭和60年以降に実施された,図書館司書採用試験(嘱託・臨時)の問題と正答表及び論文試験問題」については,文書不存在のものを除き全て公開することが妥当である。

第2 事実関係
1 答申に至る経過
異議申立人は,平成15年3月19日,新潟市情報公開条例(以下「条例」という。) 第5 条の規定に基づき, 新潟市長に「昭和6 0 年以降に実施された『図書館司書採用試験( 正規・嘱託・臨時)』の問題と正答表, 及び論文試験問題」の公開請求を行った。
請求内容のうち,正規司書は新潟市長が採用し,嘱託・臨時司書は新潟市教育委員会が採用しているため,両実施機関で請求を受け付けた。
新潟市長は, 同年4月14日, 当該請求に対し「請求のあった公文書中,平成11年~14年度における論文試験問題を除く部分」を非公開とする一部非公開決定を行い,その旨異議申立人に通知した。
また,新潟市教育委員会は,同日付けで全部非公開とする決定を行い,その旨異議申立人に通知した。
非公開理由は両実施機関ともに,文書不存在及び特定の者に公開することにより受験者の能力を公正に把握するという試験の本来の目的が達成できなくなるため,条例第6条第6号に該当するというものであった。
異議申立人は,この決定を不服とし,同年5月16日,各実施機関に対し決定を取り消すよう異議申立てを行った。
両実施機関は,同年5 月20日,条例第12条の規定に基づき,当審査会に諮問した。
当審査会における審査の経過は次のとおりである。

平成15年 5月20日 両実施機関から諮問書を受理
6月 3日 両実施機関の「弁明書」の受理
6月 9日 異議申立人の「弁明書に対する意見」の受理
6月20日 審査会招集(第1回)
8月 5日 審査会招集(第2回)
8月27日 審査会招集(第3回)
9月26日 審査会招集(第4回)

2 図書館司書採用試験
新潟市の図書館司書は,正規職員・非常勤嘱託・臨時職員の3職種である。
正規職員は新潟市長が採用を行い,非常勤嘱託及び臨時職員は新潟市教育委員会が採用している。
正規職員と非常勤嘱託の採用は,退職者の補充を基本としている。
退職予定者があり次年度に新規職員を採用する必要が生じた場合, 採用試験は,正規職員はおおむね9月に,非常勤嘱託は2月に,それぞれの実施機関が行っている。臨時職員の採用は,必要に応じてその都度行っている。
採用試験の形態を表にまとめると次のとおりである。ただし,臨時職員については,採用試験はなく,履歴書により審査し採用している。

試験形態 択一問題
職種 教養問題 専門問題 作文 面接
正規職員 ○ ○ ○ ○
非常勤嘱託 × ○ × ○

正規職員は,1次(教養問題)と2次(専門問題,作文,面接) に分けて試験を行う。
試験問題の作成,採点及び面接は,基本的に各実施機関が行うが, 正規職員の教養問題だけは専門業者に問題の貸与及び採点を委託している。
試験問題の作成に関しては,各実施機関は同じ問題となることのないよう配慮している。また,試験問題の保存に関しては,新潟市文書分類表に基づき3年間の保存義務が課せられており,3年間保存している。ちなみに,新
潟市文書分類表とは,文書の分類及び保存年限を組織別,事務事業別に分類したもので,本市における文書の取扱いを定めた新潟市文書規程において規定されている。
専門業者から貸与を受けた正規職員の教養問題は, 業者との契約により,転写・複写することなく試験実施後全て返却することになっている。

3 各実施機関が特定した公文書と当初の公開・非公開決定状況
実施機関:新潟市長
① 特定した公文書と個々の公開・非公開の判断
ア 正規職員採用試験の問題,正答表のうち,専門業者から貸与を受けたもの
非公開(試験実施後全て返却したため文書不存在)
イ 平成10年度以前に実施した正規職員採用試験の問題,正答表及び作文課題
非公開(保存年限満了後廃棄したため文書不存在)
ウ 平成11年度から平成14年度に実施した正規職員採用試験の問題,正答表のうち実施機関が作成したもの
非公開(条例第6条第6号該当)
エ 平成11年度から平成14年度に実施した正規職員採用試験の作文課題
公開
② 当初の公開・非公開決定状況
一部非公開(条例第6条第6号該当,文書不存在)

実施機関:新潟市教育委員会
① 特定した公文書と個々の公開・非公開の判断
ア 平成10年度以前に実施した非常勤嘱託採用試験の問題,正答表
非公開(保存年限満了後廃棄したため文書不存在)
イ 平成11年度から平成14年度に実施した非常勤嘱託採用試験の問題,正答表
非公開(条例第6条第6号該当)
ウ 非常勤嘱託採用試験の作文課題
非公開(採用試験に作文は行っていないため文書不存在)
エ 臨時職員採用試験問題,正答表及び作文課題
非公開(臨時職員は試験ではなく履歴書の審査により採用しているため文書不存在)
② 当初の公開・非公開決定状況
全部非公開(条例第6条第6号該当,文書不存在)

第3 当事者の主張
1 異議申立人の主張
平成14年10月11日最高裁第二小法廷判決「平成11年(行ヒ)第28号公文書非開示決定処分取消請求事件」の判例を理解していれば,外部委託しているもの及び保存年限満了により廃棄されたものを除いた職員採用試験問題と正答表は公開されるべきである。
2 両実施機関の主張
異議申立人は,高知県公立学校の教員採用選考の筆記審査の問題とその解答が高知県情報公開条例所定の非開示事由に該当しないとされた最高裁判決(平成14 年10 月11 日)の理由を異議申立の理由としているが,教員採用試験は,過去の出題例を編集した市販の問題集等で容易に手に入れることができ,受審準備が容易にできる。しかし,司書の採用試験は,司書を恒常的に採用している自治体が少なく,また司書等の資格・免許を必要とする専門的な職種については専門分野の択一試験を実施していない自治体が多いこと, さらに試験問題を公開していない自治体がほとんどのため, 過去の出題例を編集した問題集等を手に入れることはかなり難しい。そのため,判例の事案である教職教養筆記審査とは判断の前提となる事例が異なる。
司書採用試験において,過去の問題を詳細に分析した者とそれ以外の者では,受審準備状況が変わり,試験の得点において有利,不利の差が生じることになる。それでは,受審者の知識及び能力の正確な把握ができなくなり,図書館司書にふさわしい受審者を採用することが困難になるおそれがある。
さらに, 両実施機関の試験には同一傾向の問題が出題されているのが見受けられることから, 問題及び解答を公開すると,問題作成者には出題が特定の傾向に偏らないことや類似の出題を避けるといった配慮がこれまで以上に必要となり,問題作成作業に支障が生ずるおそれがあるとともに,問題作成を受ける者がいなくなり,職員採用試験に著しく支障をきたすおそれがある。

第4 審査会の判断
両実施機関が非公開理由とする条例第6条第6号は,市が保有する情報は公開することを原則としながらも,市又は国等の機関が行う事務又は事業に関する情報で,当該事務事業の性質上,公開した場合に,当該事務事業の実施の目的を失わせ,円滑な実施を著しく困難にするおそれのある情報は非公開とすることを規定したものである。
当該号に該当するかどうかについては,市が保有する情報に対する公開の請求権を保障することを定めた条例第1条の目的を踏まえ,より個別,具体的に判断しなければならない。
「第2事実関係」の「3各実施機関が特定した公文書と当初の公開・非公開決定状況」にあげた公文書のうち,異議申立人が公開すべきと申立てをしている本案件対象公文書は前記第2事実関係の3(1)①ウ及び(2)①イである。
両実施機関は弁明書において,異議申立人の申立理由である最高裁判決との相違点を示し,本案件対象公文書の非公開理由を2点述べている。
当審査会では,当該2点の理由について条例第6条第6号該当性を検討する。

1 図書館司書にふさわしい受審者を採用することが困難になることについて
両実施機関は,「教員採用試験は,過去の出題例を編集した市販の問題集等で容易に手に入れることができ,受審準備が容易にできるが, 司書の採用試験は,司書を恒常的に採用している自治体が少なく, また司書等の資格・免許を必要とする専門的な職種については専門分野の択一試験を実施していない自治体が多いこと,さらに試験問題を公開していない自治体がほとんどのため,過去の出題例を編集した問題集等を手に入れることはかなり難しい。
そのため,判例の事案である教職教養筆記審査とは判断の前提となる事例が異なる。」としたうえで,「過去の問題(1次試験)を詳細に分析した者とそれ以外の者では, 受審準備状況が変わり,また試験の得点において有利,不利の差が生じることになる。それでは,受審者の知識及び能力の正確な把握ができなくなり, 図書館司書にふさわしい受審者を採用することが困難になるおそれがある。」と弁明している。
確かに図書館司書採用試験は,教員採用試験のように問題集は市販されていないので,情報公開請求権を行使し試験問題の公開を得た者と情報公開請求権を行使しない者とでは受審準備が異なるかもしれないが, 試験問題を公開することよって,全ての受審者に一律公平にその機会が与えられることになる。
また,受審者の知識及び能力は,択一問題のみで判断しているのではなく,作文,面接などとともに総合的に判断していることから,終了した試験問題と正答表を公開することにより,実施機関が弁明しているように受審者の知識及び能力の正確な把握ができなくなるとは言えず, 採用試験の公正又は円滑な執行に著しい支障を生ずるとは言えない。
従って試験問題を公開することで, 図書館司書にふさわしい受審者を採用することが困難になるとは言えず,条例第6条第6号に該当しない。

2 問題作成作業及び問題作成者の確保が困難になり,採用試験事務に著しい支障をきたすことついて
両実施機関は,本案件で対象となった図書館司書採用試験の専門問題を公開することによって,問題作成作業及び問題作成者の確保が困難になり,採用試験に著しい支障をきたすと主張するが,過去に出題された問題との重複を避け,審査にふさわしい問題を作成するという問題作成者の負担は,問題及び正答表の公開の有無によって変化が生ずるものではないと考える。
また,問題とその正答表を公開することによって,より良い問題の作成が期待され,ひいてはより有能な職員の採用が図られるものと思われる。
従って試験問題を公開することで, 問題作成作業及び問題作成者の確保が困難になり,採用試験に著しい支障をきたすおそれがあるとは言えず,条例第6条第6号に該当しない。
以上のように判断したので,「1 審査会の結論」のとおり答申するものである。


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