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兵庫県情報公開審査会 答申第72号 特定地内における尼崎宝塚線整備事業及び大堀川改良事業に係る契約…

2009年04月22日 | 事務・事業に関する情報
答申第72号
平成21年4月22日

兵庫県知事様

情報公開審査会
会長 錦織成史

公文書の部分公開決定に係る異議申立てに対する決定について(答申)


平成19年9月28日付け諮問第74号で諮問のあった下記の公文書に係る標記の件について、別紙のとおり答申します。

特定地内における尼崎宝塚線整備事業及び大堀川改良事業に係る契約依頼書等

(別紙)
答申


第1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった「特定地内における尼崎宝塚線整備事業及び大堀川改良事業に係る契約依頼書等」の部分公開決定において、兵庫県知事(以下「実施機関」という。)が非公開とした部分のうち、別表1に記載する部分については、これを公開すべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。

第2 異議申立人の主張要旨
1 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、第1記載の公文書(以下「本件公文書」という。)の公開請求に対して、実施機関が平成19 年5月18 日付けで行った部分公開決定の取消しを求めるものである。

2 異議申立ての理由
異議申立書において述べられた本件異議申立ての理由は、次のとおり要約される。

(1) 情報公開条例(平成12年兵庫県条例第6号。以下「条例」という。)が、前文でうたっているとおり、県民の「知る権利」は最大限尊重されるべきであり、実施機関は情報公開の重要性を認識し、県民に対する説明責任を全うすべきである。
したがって、県民の知る権利に資するべく、公文書公開は積極的に行われるべきであり、公文書の一部を非公開とする場合でも、非公開情報の範囲を緩やかにとらえるのではなく、厳密に限定的にとらえ運用すべきである。

(2) 実施機関は、条例第6条第1号、第2号及び第6号に基づき、「契約依頼書」及び「標準地及び標準地の評価格の決定について」の文書のうち、「標準地価格」、「比準価格」、「鑑定評価格」、「買収予定価格」及び「これら価格の算定根拠」等の情報(以下「本件価格情報」という。)を非公開としているが相当ではない。
本件価格情報は、一般人がおおよその検討をつけることができる一定の客観的な情報であり、個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、所得等に関する情報ではないことは明らかなので非公開事由には該当せず、上記法条を根拠に非公開とすることは認められない。

(3) 実施機関は、上記法条に基づき、「用地交渉記録及び打合せ議事録」の文書のうち、「相手方」、「交渉内容」及び「交渉事項」等の情報(以下「本件交渉情報」という。)を非公開としているが相当ではない。
本件交渉情報は、個人の思想等に関する情報ではないので非公開事由には該当せず、上記法条を根拠に非公開とすることは認められない。

(4) なお、異議申立人において、代替地が適正に決定され、買収地及び代替地の売買代金が適正に決定されたかを検討するには、本件価格情報及び交渉経過を精査することが不可欠である。
仮に、非公開情報が記載されておりやむを得ず部分公開とするとしても、非公開とする範囲はできる限り限定すべきであり(条例第7条)、非公開情報を区分して除くことができるかにつき検討せず、交渉内容を一律に全部非公開とした実施機関の決定は、条例第7条に明らかに抵触する。

第3 諮問庁の説明要旨
意見書及び意見陳述において述べられた非公開理由は、次のとおり要約される。

1 本件公文書について
本件公文書は、尼崎宝塚線整備事業及び大堀川改良事業(以下「本件事業」という。)として、平成7年度に兵庫県が兵庫県土地開発公社に依頼して行った用地取得に係る一連の文書であり、「契約依頼書」(以下「第1文書」という。)、「標準地及び標準地の評価格の決定について」(以下「第2文書」という。)及び「用地交渉記録及び打合せ議事録」(以下「第3文書」という。)からなるものである。

2 異議申立てに係る公開しない部分とその理由
本件異議申立てに係る公開しない部分は別表2のとおりであり、その理由は次のとおりである。

(1) 第1文書
「標準地」とは、取得しようとする土地(以下「起業地」という。)が存する地域の標準的な画地のことであり、「標準地価格」とは、標準地の評価格(1㎡あたりの価格)、「比準価格」は標準地と起業地を比較して算定した起業地の評価格、「買収予定価格」は比準価格に所要の端数処理を行った価格、「買収予定価額」は買収予定価格に買収面積を乗じたものをいう。

ア 標準地価格及び比準価格
標準地価格及び比準価格を公開すると、その評価上の格差が明らかになるので、評価の過程や格差の付け方そのものが問題となって用地交渉が困難になるおそれがあることから非公開としていた。
しかし、評価過程の透明性や被補償者に対する説明責任等に対する社会的な要請が高まっていることからすれば、これらの情報を公開することもやむを得ない。

イ 買収予定価格、買収予定価額及び合計額
これらの情報を契約前に公開した場合には、実施機関が被補償者を説得する手段を失い、契約後に公開した場合には実際の契約単価や契約金額と差額があれば被補償者との信頼関係を損なうおそれがあることから非公開としていた。
しかし、公開しても実施機関が被補償者を説得する手段を失うとまでは言いきれず、また、被補償者との信頼関係を損なわないように説明することが実施機関の責務であるともいえることから、これらの情報を公開することもやむを得ない。

(2) 第2文書
ア 標準地調書
評価格
買収価格の評価の過程に関する情報であり、非公開としていたが、評価過程の透明性や被補償者に対する説明責任等に対する社会的な要請が高まっていることからすれば、これらの情報を公開することもやむを得ない。

イ 標準地査定評価書
(ア) 事例地の所在地及び取引の当事者
事例地は民間の取引事例を採用しており、取引の当事者等は不動産登記簿で公示されるが、登記は不特定多数人に取引の事実を積極的に周知するものではない。
よって、これらの情報は、取引当事者が個人の場合は条例第6条第1号、法人の場合は同条第2号の非公開事由に該当する。
また、公にしないことを前提に任意に提供を受けたものであり、公開すれば、今後、情報を得ることができなくなることから、これらの情報は同条第6号の非公開事由に該当する。
さらに、異議申立書の記載からは、異議申立人は事例地の所在地や取引の当事者よりも、価格算定根拠情報の公開を強く求めているものと解される。

(イ) 事例地の評価面積、取引の目的、取引時点、間口、奥行及び面積非公開としていたが、事例地の所在地及び取引の当事者と結びつかなければ、これらの情報を公開することもやむを得ない。

(ウ) 事例地の取引価格
取引の当事者と取引価格とが結びつかなければ、当事者間の合意の内容が明らかになることはないので、取引の当事者が非公開であれば、公開することもやむを得ない。

(エ) 査定評価格及び平均価格
これらは、買収価格の評価の過程に関する情報であるため、非公開としていたが、評価過程の透明性や被補償者に対する説明責任等に対する社会的な要請が高まっていることからすれば、これらの情報を公開することもやむを得ない。

(オ) 事例地の比準価格
買収価格の評価の過程に関する情報であるため、非公開としていたが、評価過程の透明性や被補償者に対する説明責任等に対する社会的な要請が高まっていることからすれば、これらの情報を公開することもやむを得ない。

(カ) 公示地の地域格差、比準価格及び地域要因調査算定表
買収価格の評価の過程に関する情報であるため、非公開としていたが、評価過程の透明性や被補償者に対する説明責任等に対する社会的な要請が高まっていることからすれば、これらの情報を公開することもやむを得ない。

(キ) 理由説明の内容
買収価格の評価の過程に関する情報であるため、非公開としていたが、評価過程の透明性や被補償者に対する説明責任等に対する社会的な要請が高まっていることからすれば、これらの情報を公開することもやむを得ない。

(ク) 鑑定評価機関名、鑑定価格、修正率及び修正価格
これらの情報を公開しないことを前提に鑑定を求めており、鑑定評価機関との信頼関係を損なうおそれがあるため、非公開としていたが、評価過程の透明性や被補償者に対する説明責任等に対する社会的な要請が高まっていることからすれば、これらの情報を公開することもやむを得ない。

(3) 第3文書
ア 用地交渉記録
(ア) 相手方、関係人及び委任状記載の代理人住所・氏名
法人である被補償者から第三者に用地交渉が委任されており、委任に際して情報公開の事態を想定していないと思われるため、これらの情報を公にすると、被補償者と受任者の信頼関係が損なわれることから、条例第6条第6号の非公開事由に該当する。

(イ) 証明申請書記載の申請人の住所・氏名・印影
法人の従業員の個人を識別する情報であり、条例第6条第1号の非公開事由に該当する。

(ウ) 交渉事項、交渉内容及び交渉に係る図面
これらは、被補償者の資産について、補償が行われた経過が会話形式により具体的かつ詳細に記載されており、被補償者が公にしないことを前提として実施機関を信頼して話した内容であり、公開されると被補償者の自由な発言を妨げるおそれがあり、条例第6条第2号の非公開事由に該当する。

(エ) さらに、(ア)ないし(ウ)の情報が公開されれば、公にされることを嫌って交渉自体を拒む者が出てくることも危惧されるため、条例第6条第6号の非公開事由に該当する。

イ 打合せ議事録
打合せの主旨、打合せの内容及び打合せに係る図面
これらは、被補償者との交渉の過程が記載されており、被補償者の用地交渉記録と同等の情報であるため、条例第6条第2号の非公開事由に該当する。
また、公開することにより、交渉内容が公にされることを嫌って用地交渉を拒む者が出てくることが危惧されるとともに、他の被補償者が自己の状況との差異を顧みずに同様の対応を求めることに固執し、交渉が難航するおそれがある。
さらに、担当者の検討途中の案であるため、その後違う対応が採られている場合があり、被補償者との信頼関係を損なうおそれや、他の被補償者に実施機関の交渉手段を誤認させるおそれがある。
よって、これらの情報は同条第6号の非公開事由に該当する。
なお、打合せ議事録(平成8年3月13日)については、被補償者との交渉の過程が記載されておらず、公開することもやむを得ない。

第4 審査会の判断
1 基本的な考え方
公文書公開についての条例の基本的理念は、その前文においてうたわれているように、公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、県民の「知る権利」を尊重し、県の諸活動を県民に説明する責務を果たすため、情報公開制度の一層の整備を進め、もって地方自治の本旨に即した県政の推進と県民生活の向上に寄与しようとするものである。
このような基本的理念を実現するためには、県が保有する情報は公開を原則とするべきであるが、その情報の中には、公開することにより個人のプライバシーや法人等の正当な利益を損なうものもある。
このため、立法者は条例の制定に際し、制度の趣旨、公文書の公開・非公開に係る公益性、有用性等を総合衡量した結果、原則公開の条例においても、なお、例外的に非公開とせざるを得ない情報があると判断し、これを条例第6条において公開をしないことができる公文書として具体的に類型化し、規定したものである。
しかし、同条各号に定める情報に該当するか否かについては、当該情報のみを取り出し、抽象的にとらえて判断するのではなく、当該情報を取り巻く諸事情をも考慮に入れ、個々の事例に即し、具体的に判断されなければならない。

2 具体的な判断及びその理由
(1) 第1文書について
非公開部分は別表2のとおりであるが、実施機関は公開することもやむを得ないとの意見を陳述したものである。
審査会としても、実施機関は起業地の土地代金を既に公開しており、買収価格の評価の過程に関する情報を公開しても、用地買収にかかる事務に具体的な支障があるとまでは解されず、逆に、公開することにより、買収価格を決定する上での公正性及び透明性を担保することによる公益上の必要性を充足することができると解されるので、公開すべきであると考える。

(2) 第2文書について
ア 非公開部分は別表2のとおりであるが、事例地の所在地及び取引の当事者以外の非公開部分については、実施機関は公開することもやむを得ないとの意見を陳述したものである。
審査会としても、(1)と同様の理由で公開すべきであると考える。

イ 非公開部分のうち、事例地の所在地及び取引の当事者(以下「本件情報」という。)については、実施機関は、条例第6条第1号、第2号及び第6号に該当するとして非公開としていることから、以下検討する。
本件公文書に記載された事例地は、民間の取引事例を採用しており、取引の当事者を公開すれば特定の土地の取引を行った個人又は法人が識別できることになり、所在地を公開すれば登記簿と照合することにより取引の当事者が識別できる。
そして、事例地の取引価格、評価面積、取引の目的、取引時点、間口、奥行及び面積については公開すべきものであり、これらを公開した上で本件情報を公開すると、特定の者の土地取引情報の多くが公開されてしまうことになる。
取引の当事者が個人(事業を営む個人を除く。)の場合には、土地は個人にとって重要な財産であり、頻繁に取引されるものではないことから、本件情報は、特定の個人を識別することのできるもののうち、社会通念に照らして通常他人に知られたくないと認められるものにあたる。
また、取引の当事者が法人(事業を営む個人を含む。)の場合には、本件情報を公開すると、土地取引の具体的な内容が明らかになるとともに、法人等の資産状況の一端がうかがい知られることになるので、法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものにあたる。
したがって、本件情報は、条例第6条第1号及び第2号に該当するものと認められ、非公開が妥当である。
なお、実施機関は、条例第6条第6号にも該当すると主張するが、条例第6条第1号及び第2号に該当することから、改めて、条例第6条第6号にも該当するか否かについての判断は行わないものとする。

(3) 第3文書について
ア 用地交渉記録について
実施機関は、条例第6条第1号、第2号及び第6号に該当するとして、別表2に記載した部分を非公開としていることから、以下検討する。
用地交渉記録に記載された情報は、本件事業において実施機関と地権者等との間で協議・交渉し、合意に至った内容等の記録であることから、条例第6条第6号の「県の機関が行う事務若しくは事業に関する情報」に該当するものと認められる。
公有財産の取得には公正性及び透明性が要求され、これらを担保するためには、その過程をできる限り公開すべきであるとの要請がある。
しかしながら、公共事業における地権者等との用地交渉については、用地買収が一般的な商取引とは異なり、代替性のないものを買収し、補償するものであることから、慎重かつ厳格な手続きの下に進められるべきであり、そのためには、被補償者との間で構築された信頼関係を維持していくことが、円滑かつ適切な用地交渉事務を進めていく上では重要な要素である。
用地交渉記録の記載内容には、被補償者の感情や利害関係に立ち入ったものがあり、個別事情を含んだこのような情報が公開されることとなれば、実施機関が被補償者との間で築き上げてきた信頼関係が損なわれ、今後、用地交渉自体を拒む被補償者が出てくる等用地交渉に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられる。
また、個別事情を含んだ情報だけを他の情報と分離して、これを除いたものだけを部分公開することも困難である。
さらに、実施機関が買収価格の評価の過程に関する情報をできるだけ公開し、行政活動の公正性及び透明性を高めようとしていることを勘案すれば、用地交渉記録のような個別事情を含んだ情報を非公開とすることもやむを得ないものと考える。
したがって、実施機関が本件用地交渉記録で非公開とした部分は条例第6条第6号に該当するものと認められ、非公開が妥当である。
なお、実施機関は、条例第6条第1号及び第2号にも該当すると主張するが、条例第6条第6号に該当することから、改めて、条例第6条第1号及び第2号にも該当するか否かについての判断は行わないものとする。

イ 打合せ議事録について
実施機関は、条例第6条第2号及び第6号に該当するとして、別表2に記載した部分を非公開としていることから、以下検討する。
打合せ議事録に記載された情報は、単なる行政間の打合せ内容であり、用地交渉準備のための抽象的な方針を検討したものに過ぎず、これを公開しても具体的な用地交渉の内容が明らかになるものではない。
したがって、実施機関が本件打合せ議事録で非公開とした部分(別表2参照)は条例第6条第2号及び第6号の非公開事由には該当しない。

3 以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断するものである。

別表1
公文書名公開すべき部分
第1文書
契約依頼書
・標準地価格及び比準価格
・買収予定価格、買収予定価額及び合計額
第2文書
標準地調書
・評価格
第2文書
標準地査定評価書
・事例地の評価面積、取引の目的、取引時点、間口、奥行及び面積
・事例地の取引価格
・査定評価格及び平均価格
・事例地の比準価格
・公示地の地域格差、比準価格及び地域要因調査算定表
・理由説明の内容
・鑑定評価機関名、鑑定価格、修正率及び修正価格
第3文書
打合せ議事録
・打合せの主旨、打合せの内容及び打合せに係る図面


別表2
公文書名非公開部分
第1文書
契約依頼書
・標準地価格及び比準価格
・買収予定価格、買収予定価額及び合計額
第2文書
標準地調書
・評価格
第2文書
標準地査定評価書
・事例地の所在地、評価面積、取引の当事者、取引の目的、取引時点、間口、奥行及び面積
・事例地の取引価格
・査定評価格及び平均価格
・事例地の比準価格
・公示地の地域格差、比準価格及び地域要因調査算定表
・理由説明の内容
・鑑定評価機関名、鑑定価格、修正率及び修正価格
第3文書
用地交渉記録
・交渉事項、交渉内容及び交渉に係る図面
・相手方、関係人及び委任状記載の代理人住所・氏名
・証明申請書記載の申請人の住所・氏名・印影
第3文書
打合せ議事録
・打合せの主旨、打合せの内容及び打合せに係る図面


審査の経過
(参考)
年月日経過
平成19年9月28日・諮問書の受領
平成19年10月26日・諮問庁の意見書の受領
平成20年11月18日
(第201回審査会)
・諮問庁から非公開理由の説明聴取
・審議
平成21年1月27日
(第203回審査会)
・諮問庁から非公開事由の説明聴取
・審議
平成21年2月20日
(第204回審査会)
・諮問庁から非公開事由の説明聴取
・審議
平成21年3月25日
(第205回審査会)
・審議
平成21年4月20日
(第206回審査会)
・審議
平成21年4月22日・答申


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