付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「クロックワーク・プラネット2」 榎宮祐・暇奈椿

2014-09-16 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 魔法を魔法があるからあると言い切るのがファンタジーで、その魔法が発現する仕組みや作用を理屈で説明するのがSFであるとするなら、魔法や竜は出てこないけれど、このシリーズはSFかファンタジーかでいうならファンタジー。永久機関はあるからあるの!、右回りだけれど左回りに運動エネルギーを伝達する歯車は現にあるの!だもの。

「シャワーを浴びて、甘いココアでも飲め。そんでたっぷり寝ろ。体力を回復して、頭をクリアにして、それから思う存分、気に入らない奴をぶちのめせばいい」
 第2級時計技師でもあるヴァイネイ・ハルターが闘いの基本を説く。

 政府も軍も五大企業も、はっきりいってしまえば「国境なき技師団」も組織としては腐っている。
 ならば、自分たちはテロリストになろうとマリーやナオトは決めた。テロリストとして壊れた都市の時計仕掛けを勝手に直し、見捨ててパージしてケリをつけようとする連中の鼻を明かしてやろう。2人がそう決めたなら、マリーの秘書官ハルターも自動人形リューズも従って行動を共にするだけだ。
 そんなとき、ナオトは奇妙な音を聞きつけた。人間の可聴範囲を超えた音、ひとことでいうと30Mhzの電波なのだけれど、電磁波が時計塔の微細歯車を狂わせることから使用制限されるようになって久しいものだ。だが、何かが区画・三重で起きているらしい……。
 
 2人の天才少年少女が仲間と共に、隠された陰謀を阻止すべくテロリストとして暴れ回るスチームパンク風アクション小説。時計技師は体力勝負だそうで、みんななかなか想定外に強いです。
 今回は京都から三重へ移動。京都と三重がお隣というので滋賀県はどうしたかと思いきや、10年ほど前にパージされて琵琶湖ごと落っことされて今は存在しないのだとか。恐ろし恐ろし。

【クロックワーク・プラネット2】【榎宮祐】【暇奈椿】【茨乃】【講談社ラノベ文庫】【オーバーホール・ファンタジー】【時計仕掛けの惑星】【三重】【オートマタ】【巨大ロボット】【最下層】【戦闘用全身義体】【漫画喫茶】【壁ドン】
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「とあるおっさんのVRMMO活動記2」 椎名ほわほわ

2014-09-15 | VRMMO・ゲーム世界
 ゲームは1日3時間で遊んでいるサラリーマンのおっさんのVRMMOのお話の2冊目。
 別にゲーム世界に囚われているわけでもないし、今のところグランドクエストみたいな大きなシナリオの流れは出てこず、ただ趣味を追求して薬草を採取したり道具を自作しているだけなのに、いつの間にか台風の目になってしまいます。

 妖精の女王から無理矢理に指輪を押しつけられた料理人アースこと田中大地だったが、あれから女王が身辺をウロウロしては売り物の料理をつまみ食いするようになって弱り目。さらにはなまじ有名になってしまったものだから、ギルドへの勧誘も増えてきてたいへん。
 さらには、いつの間にか周囲から「フェアリークィーンの旦那さん」と呼ばれるようになっていた……。

 実は意外に多かったらしい弓使い。今回も「急がば回れ」が正解な展開ですが、ちらほら楽屋裏の運営も描写されてきて、単なる日常系ゲームのはずが今後どう変わっていくかドキドキです。
 そして龍ちゃん登場。さらに妖精国への道が開かれ、ゲームワールドはさらに広がっていくのでした……。

「アースさん。貴方には……もう永遠に契約妖精がつくことはありません……」
 普段のゆるさを感じさせない沈痛な面持ちで、妖精の女王は残酷な結果を告げた。
 ほとんどのプレイヤーが手にしているパートナー無しで、彼はこれからも冒険を続けねばならなくなった。

【とあるおっさんのVRMMO活動記2】【椎名ほわほわ】【ヤマーダ】【アルファポリス】【読者賞】【冴えないおっさんのほのぼのVRMMOファンタジー】【死者の挑戦状】【ゴレンジャー】【ダンジョン攻略】【盗賊スキル】【モンスターハウス】【義賊】【騎士剣】【チョコボ】【パレード】
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「しにこん!」 ぶんが秀徳

2014-09-14 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
『女の涙は武器、流したら使わねば損。本気で流した涙でも、打算で使いこなすのがマリアベル流だ』

 100年に1度開催される神話祭とは、さまざまな神に仕える巫女が自ら選んだ勇者を連れて各地を回っては邪を祓い、人々の信仰を集める旅のこと。偉業を積み上げ、それによって神話を紡いでいくものだ。
 死を司る神メメントモリの巫女マリアベルは、神殿を訪れる勇者候補を待ちわびていた。死の神は不動の不人気1位ではあったが、なんとしても旅路の果てには自らの夫になるような、いい男を見つけねばならなかったのだ……。

 心の声、うざっ!
 可憐な少女でも腹の底では何を考えているか……というのを分かりやすく書いた話。邪な心の声さえなければ、普通の英雄譚ですよね。
 神さまには巫女の心の叫びが一方的に伝わってしまうので、マリアベルの妄想と欲望あふれる思いがダダ漏れ。読者もへきえきしますが、婚活と爆乳への反感で頭がいっぱいな声を聞かされ続ける神さまもうんざり。でも表面的には完璧な巫女マリアベルと勇者アベルカインの旅がやっとこさ始まったところまで。
 神さま、がんばれ。

【しにこん!】【死と婚活の巫女は理想の勇者とゴールインしたい】【ぶんが秀徳】【櫻木けい】【エンターブレイン】【冒険と妄想が同時進行する婚活ファンタジー】【婚活戦士】【壁または清く貧しい乳房】【死者復活】
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「坂の上の雲(7)」 司馬遼太郎

2014-09-13 | 戦記・戦史・軍事
「ああ、かの愛すべきペトローウィッチ、かれの艦隊はいまどこにいるのでしょう」
 ロシア海軍の大本営参謀ヒョードル・ワシリェーウィッチ・ドーバソフ少将が、フランス外相デルカッセらへ尋ねた言葉。
 バルティック艦隊はいまだ日本海へ到達していないばかりか、ロシア本国からも忘れ去られたかのようであった。

 奉天会戦は兵力・火力共にロシア軍の方が日本軍より格段の差で優位に有り、兵の質でも旅順で疲弊して老兵の補充兵ばかりになった日本軍ではロシアに及ばなかった。
 だが、ロシア軍は敗れた。徹頭徹尾、作戦で敗れた。すべての敗因はクロパトキンにあった……。

 ところが海軍の方も司令長官がもともと心許なかったむけど、もしかしたら極上のどアホではないか……という疑念を残しつつ次巻、日本海海戦へ続きます。

【坂の上の雲7】【司馬遼太郎】【文春文庫】【ロシア軍の後退】【奉天会戦】【カムラン湾】【指揮者のいない軍隊】
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「とあるおっさんのVRMMO活動記」 椎名ほわほわ

2014-09-12 | VRMMO・ゲーム世界
「判断は早めに、決断は思い切りよく」
 38年の人生で、田中大地が学んだことの1つ。

 新型VRMMO「ワンモア・フリーライフ・オンライン」がスタートした。
 さっそくエントリーした田中大地はゲーム好きというだけの独身サラリーマン。β版プレイヤーの報告ではあまり使い物にならないと言われている「弓」とか「蹴り」とか「薬剤」とかでも気にせずスキル取得してゲームスタート。異世界での生活を楽しむゲームであり、魔王討伐のようなグランドクエストはないので、効率的に進めるより、自分のやりたいプレイスタイルを優先したのだ。
「現実世界では38歳だが、心まで老けたわけじゃないし、ゲームの中では若々しくいこう」
 リアルで動かなくなりつつある体に心まで引っ張られてもつまらない、自由に動けるゲームくらい若い体と心でプレイしよう……。

 ゲームの世界だか異世界に行ったまま戻れない話は多いけれど、これは『日帰りクエスト』と同様、きちんとプレイしたらログアウトして、寝て、仕事して、帰宅して飯食って風呂入って、またログイン。3時間ほどプレイしたら翌日の仕事に支障がないようログアウト……という規則正しい、社会人プレイヤーの見本のようなプレイです。
 さすがにそういうスタイルではやりこみプレイヤーとは足並みが揃わないので、ソロプレイが前提。リアルです。なので、戦闘から武器の材料調達から製造まで、器用貧乏になるのを覚悟で一通りやれるようにしたのですが……というところから始まるゲームプレイ。序盤は試行錯誤しながら、スキルを少しずつ伸ばしていきます。
 でも、そんな単なるゲームのリプレイみたいな話ですけれど、読み進めていく中でNPCなどのAIにも一筋縄でいかない部分も見え隠れして、いつの間にか料理とか薬剤調合とか逆張りプレイが大穴プレイに転じてしまい、本人が困惑するうちに事件の渦中に巻き込まれていきます。
 もう少しプレイヤー同士のあれこれがあるかと思いましたが、最初に出会った魔法使いのミリーさんも、すぐにその他大勢のプレイヤーの1人になってしまい、あくまでソロプレイになってしまっているのが特色です。

【とあるおっさんのVRMMO活動記】【椎名ほわほわ】【ヤマーダ】【アルファポリス】【読者賞】【冴えないおっさんのほのぼのVRMMOファンタジー】【妖精たらし】【武闘会】【舞踏会】【スレイブフェアリー】【一緒に飯を食う】【妖精の女王】【左手の薬指】
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★ものづくりSF

2014-09-11 | ランキング・カテゴリー
 長男に「ものづくり系の本を貸して」と言われてのセレクト。
 どこまでが「ものづくり」か悩むけれど、単なる発明アイデアものとは一線は引きたいなと思うとなかなか難しいですね。少なくとも土木・機械工学系のネタは欲しいところで、天才科学者が実験室で新素材を発見した!とか、漂流者が生き残るために道具を考えついたみたいなものは外しておきましょう。

『第六大陸』 小川一水
 日本の建設メーカーがある財閥より新規受注を受けたのは、恒久的な月面施設だった。ノウハウどころか資材や人員を宇宙に上げる確たる手段のないままプロジェクトが始動する。

『富士学校まめたん研究分室』 芝村裕吏
 30過ぎた理系女史が小型のロボット戦車に挑む物語。
 既存の技術の延長で、現場のニーズを掘り起こし、政治的理解を得ながら、実用化を進めていくプロセスが物語の半分。残りの半分の半分がレディースコミック的恋愛ストーリーで、残り半分が近未来ポリティカルアクション。

『ほうかごのロケッティア』 大樹連司
 元覆面歌手の美少女やそのアイドルのストーカーになった挙げ句自滅した少年やら、離島の高校に吹き寄せられてきた高校生たちが手作りロケットで衛星軌道に到達させるまでの物語。

『妙なる技の乙女たち』 小川一水
 軌道エレベーターが運用されている近未来を舞台にした、働く女たちを主人公にした短編集。収録作のうち「天上のデザイナー」が宇宙服デザインを手がけた女性の物語。

『楽園の泉』 アーサー・C・クラーク
 赤道上に地球と宇宙空間を結ぶ宇宙エレベーターを建造しようとする科学者の物語……なんだけれど、純粋に「ものづくり」SFとするには技術的なトラブルとかよりも地権者との交渉であるとか、古代の王の挿話であるとか、ファーストコンタクトなどの印象の方が大きいので、テーマ的には「巨大建造物の建築」ではなく「神と人間の関係を見つめ直す」が本当なんだろうと思います。

『星ぼしに架ける橋』 チャールズ・シェフィールド
 こちらも軌道エレベータの建設ストーリー。サスペンスSFの色は濃いけれど、資源調達や建設機材などのアイデアが印象的で、『楽園の泉』よりもものづくり系と言えるんじゃないでしょうか。

『創世記機械』 J・P・ホーガン
 戦時色が強くなる中、アメリカ合衆国所属の技術官僚が画期的な理論を見つけ出すも研究所から放逐。独自に民官で理論を実現化すべく開発を進めていくが、それに実用段階の目処がついたタイミングで、政府が圧力をかけて研究成果を取り上げようとし始めた。東西冷戦に終止符を打つ最終兵器として利用するためだった……。

『遙かなる星』 佐藤大輔
 キューバ危機から核戦争が発生したもう1つの世界。その中で日本人は懸命に宇宙を目指す。ロマンチシズムだとか国威高揚などではない。生き延びるための生存権を確保するためだ。それはさながら土木工事であり、公共事業となっていく。

『ふわふわの泉』 野尻抱介
 根っから理系の女子高生が学園祭準備の実験から夢の新素材を発明。それを利用した新製品を次々に発表し、やがてそれが社会そのものを変革しようとしていく……という、1つのアイデアがどこまで広がっていくか、とことん突き詰めていく理系少女SF。

 あとは『さよならジュピター』も、このカテゴリに含めても良いかなと迷ってます。
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「クロックワーク・プラネット1」 榎宮祐・暇奈椿

2014-09-11 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「限界は、そりゃあるわね。でもそれを自分で決めて自分で諦めるのは真っ平だわ」
 第一級時計技師マリー・ベル・ブレゲは、何かが不可能だと考えるのが嫌だ。

 なんにでも計算間違いはあるもので、まだ数十億年は大丈夫と言われていた地球だったが、ある日突然、死の星となってしまった。熱的死というらしい。
 そのまま滅亡を迎えるしかないと思われていた人類だったが、ある天才時計職人によって地球の全てが歯車によって再現・再構築されてしまった。地熱も上昇も空気の流れも、すべてが歯車によって生み出されていく。そして、技師たちのメンテナンスによって延命を続ける人類だったが、1000年経っても本質的には何も変わっていなかった。
 だが、ある日、見浦ナオトの住むマンションに黒い箱が墜落する。中に納められていたのは、時計仕掛けの惑星を生み出した時計職人が作り上げたという自動人形の少女。それをナオトは自分の聴覚だけを頼りに修復してしまうのだが、自動人形リューズの口はスゴク悪かった……。
「あんな故障一つで二百年も機能停止を強いられるとは。人類の知能は未だノミの水準さえ超えられずにいるのでしょうか?」

 時計技師として世界に認められる天才少女マリー・ベル・ブレゲと出会った機械マニアの高校生ナオトは、学校では落ちこぼれではあったけれど、その聴覚は人間離れしていて、誰にも認められていなかったが、確かにマリーと双璧をなす天才だった……というところから始まる、ちょっと世界を救いに行く物語。
 雰囲気的にはスチームパンク。ギアパンクというべきかな。蒸気機関による文明ではなく、文明や文化のレベルは20世紀末か21世紀初頭という感じ。ただし強い電磁波は時計仕掛けに悪いので、無線技術は普及していない。地球内部は1000年前に歯車仕掛けを作ったせいで空っぽになっていて、時計仕掛けが故障して修理が間に合わなかった都市は、他の都市に連鎖する前に切り離されて地球の底に落ちていくらしい……というシュールな世界です。

【クロックワーク・プラネット1】【榎宮祐】【暇奈椿】【茨乃】【講談社ラノベ文庫】【オーバーホール・ファンタジー】【時計仕掛けの惑星】【京都】【Initial-Yシリーズ】【毒舌フィルター】
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「坂の上の雲(6)」 司馬遼太郎

2014-09-10 | 戦記・戦史・軍事
 ほとんどロシア側の自責点のような形で黒構台の戦いはしのいだ日本だが、まだ戦争に終わりは見えない。
 その頃、英国の圧力で寄港地で石炭補給もままならないバルチック艦隊は、まだ日本に向かう途上にあり、マダガスカルで2ヶ月足止めを食らっていた……。

 この巻では、黒構台会戦、バルチック艦隊の苦難の旅、欧州における陸軍大佐・明石元二郎の活躍が描かれます。
 黒構台会戦といえば、まさに『遙か凍土のカナン』の冒頭で繰り広げられた激戦です。この司馬史観では、「司令部が無能なので前線や海外から敵が動く報告を受けていながら、援軍を送っていなかった戦い」とされていますが、カナンでは「分かっちゃいたけど、そもそも送る戦力が無いので、日本軍は戦力が底をついていると外国にバレて国債の引き受けが滞るより、無能の落胤がついた方がマシ」とされていて、この視点による解釈の違いがわかるのも、あれこれ読む楽しみの1つです。
 一方、バルチック艦隊は全然進んでいません。日英同盟が異常なまでに効果的に効いていたというか、ロシアがそれほど嫌われ恐れられていたというか、港に寄港するのもままならず、あちらこちらで補給が滞り、その間に合流するはずの旅順艦隊は壊滅し、黒構台は撤退となり、モラルががんがん低下していきます。
 そして、明石大佐の対ロ工作はもはや幕末の坂本龍馬かといわんばかりの描き方です。あちらこちらに飛び込み、ロシア内部を混乱させるべく、独立運動家やら共産主義者に資金援助しつつネットワークを構築していきます。龍馬と違うのは少なくとも現在の価値で何百億円という軍資金を与えられていたということでしょうか。

「この戦争に勝てば世間は軍人をもてはやすでしょう。しかし世間というものはすぐ忘れます」
 それで有頂天になるには自分は年を取り過ぎたと第1軍司令官、黒木為。
 そして新聞各社は海外の状態について無知で、なぜ戦争に勝てたか分からぬまま騒ぎ立てた。新聞は民度と国力の反映なのだ。

【坂の上の雲6】【司馬遼太郎】【文春文庫】【沈旦堡会戦】【マキシム機関砲】【軍艦行進曲】【無線電信機】【奉天会戦】
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「マーシアン・ウォースクール2」 エドワード・スミス

2014-09-09 | ミリタリーSF・未来戦記
「噂話は栄養分」
 通信兵のイルマ・アウラーがそんなことを言っていたらしい。

 小隊長であるタキオン・シュガを抹殺せんと、2年D組の生徒のみで編成されたシュガー・スイート小隊はあいかわらずあちこちの前線へと送り込まれるが、地球派の軍人たちの思惑に反してタキオンたちは1名も欠けることなく連戦連勝を続ける。
 だが、それに甘んじることなく、なんとか少しでも生き残る可能性を上げようと、タキオンは中立派の将軍と接近して足場を築き始めるが、そこに突然、シャノン・メイヤー大佐が姿を現す。
 親地球派、反地球派を問わず、うさんくさい曲者として名を知られるメイヤー大佐の意図は、タキオンにも読めなかった……。

 自分たちを抹殺しようという陰謀にさらされながらも、本質を見失うことなく歩み続けられる少年少女の物語で、ファンタジーからSFまで学生が兵士として実戦に投入される作品は増えてきているけれど、その中でも面白いと思うシリーズの1つ。
 今回、一挙に主人公争奪戦が過熱して、3巻はハーレム・エンドになるのではないかとドキドキ。まあ、その前に生き残れるかどうかが大問題なんですが。

【マーシアン・ウォースクール2】【エドワード・スミス】【凱】【電撃文庫】【力と陰謀が渦巻く火星戦記】【超長距離砲撃タイプ】【人造人間】【査問会議】【ガンローダー】
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「NO」 監督:パブロ・ラライン

2014-09-08 | 伝記・ノンフィクション
 1973年のピノチェト将軍率いる軍事クーデターから16年。チリの経済は繁栄していたが、その一方で繁栄から取り残された貧困層も多く、また独裁政権に反対する何万という人々が拘束され、行方不明者も数知れない。
 そんな中、国際社会の圧力によってピノチェト政権の是非を問う国民投票が行われることとなった。
 しかし、軍政独裁政権から仕掛けてきた国民投票に公正さが保障されるのだろうか。選挙に臨む野党の間にも最初から勝利を諦めたような雰囲気が漂っていた。ただ選挙期間の深夜に、1日15分のコマーシャル枠であっても自分たちの主張がテレビ放映されればそれだけでも価値があると。
 けれども反体制側のキャンペーン・ビデオ製作を引き受けることになった広告マン、レネ・サアベドラだけは諦めていなかった。やるからには成果を出してみせると……。

 実話をベースに、ピノチェト独裁政権末期の選挙戦を、広告代理店で活躍していた実在の広告マンの視点から描いたチリ映画。名古屋では栄の名演小劇場だけで公開されてます。
 もちろん選挙戦なので、本来なら独裁政権下でもひっそりと支持者を増やしてきた野党政治家の視点とか、17ほどもあった反対政党の足並みをそろえる努力であるとか、いろいろ視点はあるでしょうけれど、この作品はあくまで自身は辣腕の広告マンとしてそれなりに裕福な暮らしをしていた男からの視点に絞り、放映時間は無制限で圧倒的な資金力のピノチェト陣営に対し、いかに1日15分の深夜枠で立ち向かっていくかという話になっています。ドキュメンタリー映画っぽく、わざと古い機材で荒い映像にしているのも特色。

「チリよ、喜びはもうすぐやって来る」
 正しいけれど陰鬱な政治主張よりも、未来志向こそが現代人が求めているものだとレネは明るいイメージを最前線に押し出した。もちろんこれまで命がけで地下活動をしてきた活動家たちは、このキャッチフレーズにドン引きだけれど「今の視聴者が求めているのはこれだ」という主張になしくずしにGOサイン。

 見終えた感想は「なしくずし」。
 こういう印象を受けてしまうのは、主人公が反体制派の主義主張を信じて参加するのではなく、仕事として受けたにすぎないというスタイルを崩さないからなんだろうな。
 確かに、仕事にはベストを尽くしているし、政府関係者の脅迫や嫌がらせを受けても屈しない。体制派の社長から深入りするなと牽制されようが幹部に取り立てようと懐柔されようが、始めてしまったら手は引かないし手も抜かない。
 けれど、あくまで仕事として受けたから。選挙結果を見届けると、騒ぎ浮かれる人々の間を子供を抱きかかえて家路につく主人公の冷静さが異様に見えます。彼にとっては、反ピノチェトのNOキャンペーンもコカコーラのCMも等価なんでしょう。そして、だからこそ選挙の前も後も同じように仕事を続けられるんでしょうね。
 それはアルフレド・カストロ演じる広告代理店社長も同じかな。
 あいつら、結局、金をもらって仕事しているだけなんですよ!

【NO】【パブロ・ラライン】【ガエル・ガルシア・ベルナル】【アルフレド・カストロ】【ルイス・ニェッコ】【アントニア・セヘルス】【名演小劇場】【コーラ】
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「坂の上の雲(5)」 司馬遼太郎

2014-09-08 | 戦記・戦史・軍事
「神の手間かずをはぶくために科学というものは存在するのです」
 バルチック艦隊旗艦スワロフの航海長、ゾトフ大佐の言葉。

 素人の考えには専門家では気づかない視点があるという説もある一方では、何も知らない素人の上司やクライアントが無理難題を現場に押しつけてくるという話も聞きます。前者は主にフィクションで、後者はリアルでよく聞く話ですが……。

 児玉源太郎は怒っていた。
 前線の事情を自分の目で確認することもなく、無為無策に兵の屍を何万と積み上げながら、いまだ旅順要塞陥落の手立てを見つけられぬ乃木の参謀陣に。
 野砲の専門家が無理だ危険だというのを無視し、児玉は旅順周辺に展開していた大砲を24時間以内にすべて集めて二〇三高地に向けろと命じた。味方の上に砲弾が落ちることを覚悟で、重砲の援護射撃で歩兵突撃を成功させようというのである……。

 この巻と『皇国の守護者』と『遙か凍土のカナン』を並行して読んでいたので、脳内記憶がとんでもないことになりましたが、今回は旅順陥落からバルチック艦隊の苦難の航海の途中経過を報告しつつ黒溝台の戦いが勃発するまで。
 果たして旅順攻略に児玉大将がどれだけ影響を及ぼしたかは不明です。司馬遼太郎は歴史家ではなく、あくまで歴史小説家なので、見てきたかのように嘘を書くのも仕事です。どれだけ盛っているのか、どこまで史料に基づいているのか、気にしてはいけないのでしょうが、とにかく面白いですね。
 指揮系統を無視するか否かぎりぎりの線での介入で、帝国陸軍はかろうじて旅順攻略を果たし、港に停泊していたロシア艦隊を壊滅することに成功します。当時の火砲運用の常識には外れていたかもしれませんが、戦力を集中運用するという戦争本来の原理原則には則った話でした。
 そして、だんだんバルチック艦隊が気の毒になって来るのでした……。

【坂の上の雲5】【司馬遼太郎】【文春文庫】【黒溝台会戦】【二〇三高地】【ロジェストウェンスキー航海】【水師営】【七段構えの戦法】【マダガスカル】【長谷川挺身隊】【長距離斥候】
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「迷いアルパカ拾いました」 似鳥鶏

2014-09-07 | ミステリー・推理小説
「でも負けたくない。脅して黙らせた方が勝ちなんて許せない」

 楓ヶ丘動物園に迷子のアルパカがやってきて間もなく、飼育員の七森さんの学生時代の友人、花里千恵が行方不明になったらしい。心配してアパートを訪ねてみれば暖房はつけっぱなしで、ケージのハムスターも餓死寸前。
 買えば何百万円というアルパカの所有者も見つからないけれど、まずは花里さんの行方を捜そうと桃くんたちは捜査に乗り出すのだが……。

 どこの動物園も経営が苦しくて、旭山動物園みたいに特色が出せればいいけれど予算も無しに一朝一夕にできることではなく、まずはあるものでなんとか工夫しよう……と頑張っている中、楓ヶ丘動物園の飼育員たちが花里千恵を見つけ出そうとか、アルパカの斎藤くんの持ち主を探そうと奔走する動物園ミステリの第3弾。
 獣医の鴇先生はあいかわらず経歴不明の正体不明のツンデレさんで、服部くんは変態で桃くんのストーカーと化していて、アイドル系飼育員の七森さんもまともそうでいて暇があれば手元にある紙をなんでも折ってしまう手癖は挙動不審。「『レ・ミゼラブル』でジャン・バルジャンを演じる鹿賀丈史」って、どーよ?
 刑事の都築さんも、確かに最初から事件の全貌を把握しているみたいでしたね。読み返して納得。

【迷いアルパカ拾いました】【似鳥鶏】【スカイエマ】【文春文庫】【動物園ミステリー】【動物プロダクション】【はにかみ屋の弁当】
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「退屈で無価値な現実から、ゲエム世界へようこそ。」 耳目口司

2014-09-06 | VRMMO・ゲーム世界
「私は、一度特別になっちゃった人は、普通になんて戻れないと思うな」
 学園のアイドルにして主人公の幼馴染み、蓬田茅野の言葉。
 人間関係は不可逆性なんですかね?

 御代田侑はハムスターの姿をした悪魔ルーニーに導かれ、ギャルゲーの世界で人生をやり直すことになった。どんな人生でも、ライトノベルとギャルゲーだけが楽しみな車椅子の日々よりはマシ。
 確かに、その世界では主人公はちょっとカッコイイ元気な少年で、行動全てに主人公補正がかかって、かわいい義妹がいて、しかも両親は揃って海外赴任。食事は美人の幼馴染みが作りに通ってくれるというし、登校途中に金髪の転校生とバッタリ。
 でも、忘れてはいけない。これは悪魔の作ったゲーム……。

 ギャルゲーの世界に転生……というと、もはや誰もやらないド定番みたいな雰囲気ですけれど、なんといっても『丘ルトロジック』の耳目口司が書くのだから、一筋縄ではいかないだろうとわくわくしながら購入。
 ……あ、耳目口司だ。確かにこの、さわやかで明るくてハチャメチャな空気のくせに、意地が悪くて後味がやたら苦いのは『丘ルトロジック』のときの感想と同じ。スニーカー文庫は「異世界コメディがおもしろいフェア」だそうですが、これ、コメディ調のギャルゲー小説のふりはしてるけれどコメディじゃないよね?
 とりあえず、酷いところで1巻の終わり。これからどう転がっていくのか、少しはマシな人生が訪れますように。

【エンド・リ・エンド(1)】【退屈で無価値な現実から、ゲエム世界へようこそ。】【耳目口司】【ヤス】【角川スニーカー文庫】【RPGツクルー】【ラッキースケベ】【フーコー】【大二病】【SF研】【好感度メーター】【未知と無知】
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★行方不明&記憶喪失

2014-09-05 | ランキング・カテゴリー
 物語のメインキャラクターがいきなり災害や戦火の中で行方不明となり、その後記憶喪失の状態で再登場。他の登場人物は単なるそっくりさんか本人なのか疑心暗鬼で右往左往……というのも物語パターンの1つです。
 単に死んだと思われていた人物が漂白の末に復活してくるというと『巌窟王』とか『オデュッセウス』とか『椿説弓張月』とか貴種流離譚のバリエーションですし、『ブレンパワード』のマコーミック艦長とかは記憶を失ったわけではなくおかしくなっただけなので、こちらはもっと狭い範囲の話です。


光明寺伝
 石ノ森章太郎原作の特撮番組およびコミック『人造人間キカイダー』に登場する、キカイダーの生みの親である光明寺博士。悪のロボット軍団「ダーク」から脱出する際に記憶を失い、以後日本各地を放浪するのを彼の子供たちが探し求めることになる。その後、その脳が敵の人造人間ハカイダーに移植される。(1972~1973)

伊集院忍
 大和和紀のコミック『はいからさんが通る』の主人公・紅緒の許婚。陸軍歩兵少尉としてシベリア出兵して戦死の知らせが届く。後に記憶を失い、亡命ロシア貴族のサーシャ・ミハイロフ侯爵として再登場。(1975~1977)

相良良晴
 春日みかげの小説『織田信奈の野望』の主人公。大阪本猫寺合戦の際にて生死不明となり、全国版にて記憶喪失となって敵方の毛利陣営で将となっていることが露見する。(2014)

 もっといたはず。
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「転生したらスライムだった件(1)」 伏瀬

2014-09-05 | 異世界転生
『ふっ。ゼネコンではな、めっちゃ怖い顔したおっさんを顎で使えるようじゃなきゃ勤まらないのだ』
 異世界に最弱モンスターのスライムとして転生してしまった三上悟だったが、強暴な形相の相手にも怯むことは無かった。

 次生まれ変わることができたら、ガンガン攻めよう。声かけまくって、喰いまくるぞ……。
『確認しました。ユニークスキル「捕食者」を獲得……』
 その37年の人生でさほどモテることもなかったゼネコン・サラリーマンの三上悟は、通り魔に刺殺されて異世界へと転生することになる。だが、その過程で漏らした雑念たっぷりの呟きが、なぜか転生後の肉体と精神に反映され、最弱のスライムのはずなのに不思議とユニークな存在になっていた……。

 『リ・モンスター』と同様、モンスターに転生し、捕食することで喰った相手の能力をコピーして進化していく怪物の物語。でも、こちらは陽性。好みの問題なんですが、やっぱピカレスクでハードな物語より、お気楽ライフものの方が好きです。
 しかもイラストがきちんとぷるぷるしたスライムをきちんと描いていて、封印された洞窟での暴風竜ヴェルドラとの遭遇とか、冒険への旅立ちとかきちんとシーンとして描いていて、ほのぼのした空気がさらに強調されました。日本の作品で「スライム」というとなんのかなといっても水まんじゅうみたいなドラクエ起源のイメージが強いなあと実感。

 思わずウェブ版に手を出してしまい、3晩がかりで最終話まで読了! 面白かったぜ……。ぐーぐー
 今回は、ゴブリンの集落の守護者となり、新たな形態を手に入れるところまで。
 書き下ろし外伝『ゴブタの大冒険』も収録。

 ところで、捕食することで相手の能力を吸収する……って、最初の作品は何になるんでしょうか?

【転生したらスライムだった件(1)】【伏瀬】【みっつばー】【GCノベルズ】【モンスター転生ファンタジー】【ゴブリン】【ドラゴン】【ドワーフ】【冒険者】【コボルド】【狼】
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