「引きこもりVｔｕｂｅｒは伝えたい」 めぐすり

「私の辞書に大丈夫の文字はない」

　VTuber事務所「虹色ボイス」の三期生デビューが始まった。そして今夜は三期生の最後、真宵アリスの初配信の日だ。
　ところが、まだ配信開始前にもかかわらず、待機所では怒涛の勢いでコメントが流れていた。虹色ボイスが大手ということもあり、そこから今回先にデビューした他の３人がいずれも話題性十分だったということもあり、そして何よりイラスト担当のねこグローブ先生が描いた待機所の絵がかわいいということで期待が高まりバズっていたのだ。既に登録者数は５桁、同時接続数は5000超え。
　しかし、暴走型駄メイドロボという設定のVTuber、真宵アリスはテンパっていた。
　デビュー直前でバズって注目を集めるなどスタートダッシュとして完璧な展開なのだが、真宵アリスこと結家詠は集まる注目がプレッシャーになって押しつぶされそうになっていたのだ。彼女は１年以上引きこもって、まともに人と話したことがないダメ人間。
（おなかいたい）（あたまいたい）（はきそう）
　人間嫌いのコミュ障にとって対人とは０と１だけの世界。逆に言えば、相手の数が10人でも１万人でもキャパオーバーという意味では同じことなのだ……。

　痴漢から冤罪事件までさまざまな事件に巻き込まれ、人間嫌いの男性不信になって家の外に出られなくなってしまった少女が、配信者としてデビューした顛末を語る、真宵アリス劇場の始まりの物語。内容的には、ほぼこの巻で完結してると思うんだけど、文量的にはウェブ版の１／１０なんだとか。
　配信ものとかＭＭＯものはリアルと虚構のバランスがポイントだけど、これはその虚実のバランスが絶妙に巧くて傑作。Ｖとしての設定とリアルの事情が絡み合い、長所も短所も振れ幅が大きいキャラメイクが活きてます。雑談配信をするのに、引きこもりの陰キャに話題がそんなにあると思うなよ！とかの叫びに笑いました。
　イラストもきちんと仕事してます。「誰もいない強風の河川敷で段ボールの中でプラカード持ってシュプレヒコール叫んでいるアリスのもとに、空のビールケース片手に近付いてくるねこグローブ先生」なんて、読者は見たいけど、なかなか描くイラストレイターさんはいませんよ。すごい。なんかカッコいいです。

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