沖縄・台湾友の会

《台湾に興味のある方》《台湾を愛する方》《不治の病・台湾病を患ってしまった方》皆んなで色々語り合いたいものです。

イエーレン訪中が意味することは何か?   過剰生産の警告は、すなわち『習近平の経済路線は間違いですよ』の暗喩

2024-04-09 22:13:20 | 日記
「宮崎正弘の国際情勢解題」 
     令和六年(2024)4月10日(水曜日)
       通巻第8209号   <前日発行>
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 イエーレン訪中が意味することは何か?
  過剰生産の警告は、すなわち『習近平の経済路線は間違いですよ』の暗喩
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 ジャネット・イエーレン米財務長官は4月3日にワシントンを立ち、4日に広東省に到着した。何立鋒副首相等と会談し、はやくも中国の過剰生産問題に言及した。世界貿易秩序の波乱要因として懸念を表明した。
 ところが中国のメディアは、イエーレンが前回訪中時にビールを飲んで、奇妙なキノコを食べていた写真を配信し、今度は何を食べたか等とへんな記事を配信していた。

 訪中前の講演でもイエーレンは「世界の価格と生産パターンを歪め、米国ばかりか世界中の企業と労働者に打撃を与える」と発言している(3月27日、ジョージア州での講演)。
 王文濤・商務部長は、三日後にはパリでBYD展示会にのぞみ、イエーレンの主張に対しては、「補助金の所為ではなく、中国のイノベーションの賜物であり、過剰生産と言われるのは市場メカニズムの結果である」と米側の主張に反駁した。

 すでに米国は中国製EVに25%の報復関税をかけており、トランプ前大統領は、これを60%とすると唱え、またメキシコ製の中国車には100%関税をかけると訴えている。
ジョシュ・ホーリー上院議員は125%、おなじくマルコ・ルビオ上院議員は「中国車一台あたり2万ドルの追加関税をもとめる法案」をすでに議会に提出した。

 この動きに応じたのか、中国のEVメーカーはタイに進出し、値下げと補助金で攻勢をかけ、日本が圧勝してきた市場を蚕食し始めた。
中国EVのタイ進出はBYDに加えて長城汽車、長安汽車、浙江吉利など、低価格帯EVや大幅値引きでタイのシェアを増やしている。

 過剰生産への懸念か。なるほどマンションの過剰生産(建てすぎ)は人の住まないマンションが30億人分もある。どう処理するのだろうか?

辺境で乗客のいない新幹線も、高僧道路も造りすぎ、テーマパークもあちこちに建てて、いまはペンペン草が生えている。海外にも過剰生産の付け足しのようにBRIプロジェクトで各地にゴーストタウンを造った。

 中国経済の構造的欠陥はGDPに占める個人消費がすくないため(37%、米国は65%、日本は60%)、外需に依存し、さらに海外マーケットを獲得するためにダンピングと補助金をつける歪んだ体質である。これは不公正な慣行だと米国側はみるが、米国に限らずWTO違反は明らか。日本も中国製太陽光パネルなどに100%の関税をかけてしかるべきだろう。

 ▼それでも「ウィンウィンでいける」と李強首相

 「過剰生産」をイエーレンは重大な懸念だと繰り返し述べたが、中国側は聞く耳がなかった。北京では李強首相、劉鶴 ・前副首相らがイエーレンと会談した。中国側は米中対決というタイミングゆえに、むしろ異例の厚遇ぶりを示した。
李強首相は決められた台詞。「敵対関係ではなくパートナーであるべきだ」と歯の浮くような発言を繰り出した。

 直前に中国政府は鉄鋼の減産方針を全国に通知し、過剰生産対応のジェスチャーを示したが、鉄鋼、造船、風力発電、太陽光パネル、そしてEVと、その廉価というよりダンピング輸出は世界市場を潰乱させた。

風力発電の世界シェアは中国メーカーがトップ5を独占し、「金風科技(Goldwind)」「遠景能源(Envision Energy)」「明陽智能(MingYang Smart Energy)」「運達股分(Windey)」「三一重能(Sany Heavy Energy)」の順となっている。メーカー乱立で収益は殆どないというのが業界の評判だ。

 中国製太陽光パネルはトリナ・ソーラー、カナディアン・ソーラー、ジンコソーラーホールディング、JAソーラーが譲位を独占しており、世界の太陽光パネル出荷量の上位四位を寡占した。じつに世界出荷量のうち71%が中国系企業が独占した。日本列島各地を埋め尽くしたが、不評ばかり。おまけに土砂災害を引き起こした。

ついで中国製EVがEU市場を攪乱し始めたため、EU委員会は重い腰を上げて規制に乗り出す。かくしてイエーレンの警告は世界市場すべての問題なのである。

 ようするに不動産関連で墜落した中国経済の補完を、EVを筆頭にクリーンエネルギー関連、バイオなどに転化しGDP成長率を堅持しようとしているのだ。

 ▼毛沢東の亡霊、ノルマという強迫観念が国有企業に取り憑いている

 習近平の経済の理解は社会主義時代のノルマであり、強迫観念のように国有企業の宿痾、中国人の体質なのである。だから馬雲やテンセントなど欧米並みの起業家が育っても、民間企業はかならず規制され、あるいは潰される。起業家精神は大きく削がれる。だから若者は国を棄てることになる。

 4月8日、訪中最終日に記者会見に応じたイエーレン財務長官は「中国政府による特定産業への補助金などの支援が原因だ」し、「米国や世界の労働者や企業に大きなリスクをもたらす」と改めて強調した。
 入れ違いにセルゲイ・ラブロフ・露西亜外相が北京に到着した。ロシアは中国との戦略的パートナーシップをさらに強化するため、とラブロフは語った。
 ラブロフ訪中はプーチン訪中の地ならしと言われる。

 またイエーレンは習近平とは会わなかったが、おりしも訪中している馬英九・台湾元総統が4月10日に北京で習近平と会談する段取り、日米首脳会談に日程を意図的にぶつけてきた。

 イエーレンは北京で潘功勝・中央銀王総裁とも会っているが、嘗てFRB議長の経験があるからだ。結局、中国は米国側に歩み寄る姿勢を示しつつ、一方でバイデン政権の半導体輸出規制にはつよく反発し、「米国の対中経済・貿易制限措置に深刻な懸念がある」とした。「米国は自由競争という資本主義原理に基づいて行動すべきである」と耳を疑うような発言もあった。

 半導体は技術窃取や台湾、韓国からのエンジニアのスカウト、米国における「千人計画」などで、すでに7ナノ半導体生産の技術を獲得したと、米国のシンクタンクが報告している。
 米国はこのため3ナノ、2ナノ生産工場をアリゾナ州に誘致し、台湾のTSMCに1兆円もの政府支援を行って、工場をいちどに三つ建設中である。

しかしTSMCは14ナノならびに1ナノの研究と開発ラボを台湾に集中させているため、米国は次世代半導体技術の中国への漏洩を警戒している。TSMCの熊本工場は28ナノで家電、スマホ向け需要に対応するためであり、予定されている熊本第二工場とて、7ナノにとどめる。
日本がIBM支援のもと、官民挙げていどむラピダスは、北海道千歳で2027年に2ナノ半導体生産を予定している。

 ▼中国の大手不動産会社、デフォルト続く

 さて不動産デベロッパーが倒産しているのに倒産しないという「ゾンビ軍団」はその後、どうなっているのか。

地方銀行、中小銀行の不良債権を肥大化させ、こんどは銀行の経営危機を招来させている。哈爾浜銀行は不良債権率が44%増えた。遼寧省の地銀、錦州銀行は上場廃止、江西省九江銀行は不良債権が三倍ちかくに膨らんだ。甘粛銀行は2・7倍、貴州銀行は五割近く不良債権を増やしていた。

準大手以下の27行の不良債権合計は2兆2300億円と今のところ軽いレベルだと言い張っているが、不動産大手のデフォルト処理が進んでおらず、とくに外貨建て債券が軒並みパンク、不動産不況の実態は、24兆円が不良債権だろうと推計される(それでも少なすぎるが、いずれ別稿で触れたい)。

中国最大のデベロッパー「碧桂園」も、ついに23年10月にドル建て債権99億ドルをデフォルト、第二位だった恒大集団の破産はいうに及ばず、世茂集団は二年前の米ドル債10億ドルのデフォルト、ドイツ銀行などが香港高等裁判所に法手続きを申請した。
このほか、大手の万科、華潤、融創、遠洋などが業績不振に陥っている。それぞまさしく供給過剰(生産過剰)の悪例ではないのか。


IS─K(イスラム国ホラソン派)次の標的は中国    7月のSCO(上海協力機構)北京大会が危ない

2024-04-09 22:10:40 | 日記
 「宮崎正弘の国際情勢解題」 
     令和六年(2024)4月9日(火曜日)弐
       通巻第8208号  
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 IS─K(イスラム国ホラソン派)次の標的は中国
   7月のSCO(上海協力機構)北京大会が危ない
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 サウスチャイナモーニングポスト(4月9日、電子版)が一面トップで伝えた。
 ロシアとイランで大がかりなテロを展開したIS─K(イスラム国ホラソン派)が次の標的は中国で7月に開催されるSCO(上海協力機構)ではないか、と。
北京はつねに厳戒態勢にあるが、テロリストは警戒に緩い場所を狙うから、120%の警戒など出来るわけがない。

背景には東トルキスタン独立運動がある。
タリバンがカブールを制圧する以前、アフガニスタンで相当数のETIM(東トルキスタン独立運動)など亡命ウイグル人が、タリバンに協力し、またタリバンの庇護下にあった。
タリバンが政権の座につくと、ウイグル人たちは居場所を喪った。中国の圧力に負けてタリバンがウイグル人過激派に国外に出るよううながし始めた。

IS─Kはアフガニスタンに拠点を抱えており、兵士のリクルートを展開している。タジク人のほか、ここに行き場所を喪ったウイグル人多数が、IS─Kに加入した形跡がある。

 米国司法省の解説では「IS─K」は「ISIS─K」とされ、次のようだ。
 「イスラム国ホラサン州(ISIS-K)は、アフガニスタンに拠点を置くテロ集団であり、アフガニスタンとパキスタンで活動している。ISIS-Kは、主にパキスタン・タリバン運動(Tehrik-e Taliban Pakistan)、アフガニスタン・タリバン(Afghan Taliban)、およびウズベキスタン・イスラム運動(Islamic Movement of Uzbekistan)の旧メンバーからなり、2015年、ISISに忠誠を誓った。
 2016年7月、アフガニスタン、カブールで平和的な抗議活動に爆撃を行って80人を殺害し、230人を負傷させた。2016年8月には、パキスタン、クウェッタの病院で94人の死者を出した銃撃および自爆テロに対し、犯行声明を出した。
 ISIS-Kは、2020年5月、アフガニスタン、カブールの産科病院で新生児と母親を含む24人の死者を出した攻撃に対しても、犯行声明を出している。
 2016年1月14日、米国国務省は、米国改正移民国籍法第219条に基づき、ISIS-Kを外国テロ組織に指定した。それ以前の2015年9月29日、国務省は、改正大統領令第13224号に基づき、ISIS-Kを特別指定国際テロリストとして指定した」


鍛冶俊樹の軍事ジャーナル (2024年4月8日号) *統合作戦司令部は米軍の手先?

2024-04-09 22:08:20 | 日記
鍛冶俊樹の軍事ジャーナル
(2024年4月8日号)
*統合作戦司令部は米軍の手先?
 大紀元に拙稿「統合作戦司令部は在日米軍司令部の出先機関になるのか?」が掲載された。以下、概要を紹介する。

 4月1日、参議院決算委員会で、「今月予定されている日米首脳会談で、在日アメリカ軍司令部の権限強化が議題になるか?」との質問に岸田総理は「指揮統制と言う観点の日米間の連携強化は相互運用性、即応性、を高めるためにも非常に重要な論点だ。こうした議論はこれからも深めていきたい」と答えた。
 2024年度末に陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」が市ヶ谷に創設される。米国は、そことの円滑な連携を目指し、在日米軍司令部の機能を強化する方針であり4月10日にワシントンで開く日米首脳会談で指揮統制の見直しで合意し、共同文書に盛り込む方向で調整している。
 実はこれについては、一昨年、私は、「鍛冶俊樹の軍事ジャーナル(2022年12月27日号)統合司令部とは何か?」で書いているので、これをそのまま引用する。

「「
 16日に閣議決定された安保3文書に、統合司令部の常設が明記されている。すでに防衛省には統合幕僚監部が常設されており、なぜ新たに統合司令部が必要なのか?理解に苦しむところであろう。
 米国では大統領に直属して統合参謀本部があり、統合的運用はこれだけで実現しているのである。日本の場合、統合幕僚長は防衛相の補佐に忙殺されて部隊の指揮まで手が回らないので、各部隊の一元的な指揮を執る統合司令官が必要だと説明されている。
 しかし、米国の場合、統合参謀本部議長が一人で担っている職務がなぜ日本では二人必要となるのか?不可解としか言いようがあるまい。この謎を解くヒントになるのは日経新聞などの解説図だ。

 そこには統合司令官から横に矢印が伸び米インド太平洋軍司令官につながっており「作戦を調整」と書いてある。つまり統合司令官は米軍との作戦を調整して陸海空3自衛隊を一元的に指揮するわけだ。
 日米同盟において、米軍は攻撃の役割を担い、自衛隊は防御の役割を担っており、反撃能力が規定された安保3文書でも、この基本的な役割に変更はないと明記されている。ならば作戦の主導権を握るのは米軍であるから、統合司令官は米軍主体の作戦を遂行することになろう。

 1970年に、三島由紀夫は、自衛隊に向けた檄文で次のように述べて自決した。「諸官に与えられる任務は、悲しいかな、最終的には日本からは来ないのだ」「アメリカは真の日本の自主的軍隊が日本の国土を守ることを喜ばないのは自明である。あと二年のうちに自主性を回復せねば、左派のいう如く、自衛隊は永遠にアメリカの傭兵として終わるであろう」
」」(引用終わり)
https://www.epochtimes.jp/share/215398?utm_source=copy-link-btn


トランプの選挙資金獲得キャンペーンに異常事態   『オバイデン』の二倍を集めたが、キャッシュが足りない

2024-04-09 22:07:01 | 日記
「宮崎正弘の国際情勢解題」 
     令和六年(2024)4月9日(火曜日)
       通巻第8207号  <前日発行>
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 トランプの選挙資金獲得キャンペーンに異常事態
  『オバイデン』の二倍を集めたが、キャッシュが足りない
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 全米の左翼人士でお金持ち、セレブたちがNYCに一堂に会して、そこにはオバマもクリントンも駆けつけ、民主党は一大集金大会を開いた。
バイデン大統領の選挙資金は一晩で2500万ドルも集まり民主党陣営は怪気炎を上げた。これはオバマの支援があったからとされ、またワシントンではバイデン政権を『オバイデン』と呼ぶ向きがある。

 バイデン献金集会から1週間後、4月4日にトランプ前大統領は、バイデンの二倍に相当する5050万ドルを集めた。「これは政治史上最大かつ最も成功した資金集めイベントの一つになる可能性が高い」(ブライアン・バラード上院議員)。

フロリダでの献金大会では、25万ドルから81万4,000ドルが「入場券」で、トランプの45分間の演説を聞いた。120人のゲストが招かれた。しかし民主党陣営の執拗な『トランプ資金枯渇作戦』によって裁判費用が天文学的になり、キャッシュ保有という文脈ではバイデンのほうが有利である。
バイデン選対は1億9,200万の現金をもち、トランプの約2倍である。

 トランプに献金しないことで、注目されたのが、イスラエル支援のユダヤ人、ミリアム・アデルソン(2016年にトランプ最大の寄付を為したシェルドン・アデルソン未亡人)だ。最大のスポンサーだった億万長者が、まだ1ドルも寄付していない。

アデルソン一家は挙げてイスラエル支持である。その安定した財政的、軍事的、政治的支援を確保し、ワシントンの政策をイスラエル路線に乗せることが最大目標であり、アデルソンは生前、ネタニヤフ首相と緊密に連携してきた。未亡人も緊密なイスラエル政府との繋がりがある。

2020年にはトランプ陣営に9000万ドルを寄付した。その前後に米国大使館のテルアビブからエルサレムへの移転、イラン核合意離脱、ゴラン高原に対するイスラエルの主権の承認などがあったからだ。

 ハマスの奇襲とイスラエル軍のガザ攻撃で事態が激変した。
 トランプはネタニヤフを「約束を守らない」と批判しはじめ、ガザ戦争へのイスラエルの対応を非難した。
トランプ派「私はユダヤ人ではない。それでも、私にとってイスラエルは非常に重要だ」と付け加えたが、アデルソンは1ドルも献金しないことで、トランプの冷水を浴びせていることになる。


人類の希望は混じり合う世界から        櫻井よしこ

2024-04-09 22:05:07 | 日記
わたなべ りやうじらう のメイル・マガジン
                 頂門の一針 6831号 

人類の希望は混じり合う世界から
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            櫻井よしこ


『週刊新潮』 2024年3月28日号
日本ルネッサンス 第1091回

伊藤穰一氏は心優しい天才だ。2011年から19年まで、科学の分野で世界最先端を走る米マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボでアジア人として初めて所長を務めた。現在は千葉工業大学学長として、社会に大いなる変革をもたらそうと挑戦中だ。伊藤氏の変革は米欧の真似ではない。日本の文化、伝統、哲学を踏まえて、日本独自のあたたかい変革で人類全体に貢献しようというものである。

その伊藤氏が日本の地平を切り拓く人材を育てたいとの思いで一歩を踏み出した。これまで必ずしも大切にされてこなかった人々に光をあてる試みだ。伊藤氏が4月発売の著書『普通をずらして生きる』(プレジデント社、松本理寿輝氏との共著)の中で語る。

「誤解を恐れずにいえば、私がMITで出会った人々のほとんどは、私の目にはニューロダイバージェントに映りました。またスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグやイーロン・マスクといったテック系経営者たちの奇矯な言動がクローズアップされてきたことも、ニューロダイバーシティの観点から評価すべきなのかもしれません」

ニューロダイバーシティという言葉を説明する前に、『普通をずらして生きる』からもうひとつ拾ってみる。

自閉症を持ちながら動物学者として世界で活躍してきたテンプル・グランディンという人物はしばしばこう語るという。「ほとんどの天才は自閉症である」と。しかし、その後にこう続けるそうだ。「ただし、ほとんどの自閉症は天才ではない」。

そして伊藤氏は続ける。自分もMITで数多くの突出した能力の持ち主と知り合ったが、その多くに自閉症やADHD(注意欠陥・多動性障害)の人々特有の行動様式をみた。そうした人々の多くが、生活全般では集団行動や他者への適応に苦労するものの、特定の思考・行動においては傑出した能力を示す、と。

そこでニューロダイバーシティである。「脳神経の多様性」と訳される。より正確に言えば、一人ひとりに固有の脳神経の働きがもたらす多様性である。日本語で自閉症または発達障害というと、否定的な意味合いがついて回る。そうではなく、障害も個性も全てを多様性としてとらえるのが「脳神経の多様性」の真の意味だ。

生き易い国を創る

逆側から見れば、自閉症でも発達障害でもないいわゆる普通の人々も多様性の一部なのだ。『普通をずらして生きる』ではそういう普通の人々をニューロティピカルと呼んでいる。それを含めて全てを前向きにとらえて、皆が自分の特徴から喜びや楽しさを生み出し、カッコよさをまとって生きる社会をつくりたいと伊藤氏らは考えている。

実は伊藤氏も松本氏も「個性を持つ子どもを育てて」いる父親であり、「自分の子どもを通わせたい学校を作る」プロジェクトを共同で進めている最中だ。自閉症の子どもも普通の子どもも共にすごす学校である。「普通をずらした」場で、障害や特性の有無にかかわらず、全てを多様性としてとらえるニューロダイバーシティの学校だ。

それがどれほど急務か。二つの数字がある。日本の公立学校に通う小中学生の内、学習面や行動面で著しい困難を示す児童生徒は8.8%に上る。1割近い。少なくない数だ。別の国際調査では自閉症の人の47%が自殺未遂をしており、自殺を検討した人は実に72%に上る。彼らにとって、いかに現代社会が困難に満ちた息苦しい場所であることか。彼らがもっと生き易い国を創ることは、創造性や新たに切り拓く力を失いつつあるといわれる日本を再び活性化させる起爆剤にもなるだろう。

もうひとつ、伊藤氏はある双子の兄弟の話を紹介している。兄弟は知能指数が各々60しかないが、記憶力と計算力は飛び抜けている。何万年前、或いは何万年後の日付でも瞬時に曜日を言い当て、自分たちが4歳になってからの日付では、その日の天気と出来事を詳細に語ることができる。彼ら2人だけの遊びは6桁の数字を言い合っては笑い合うというものだそうだが、その数字を調べてみると、全てが素数だというのだ。

こうした子どもたち、そして大人たちの特徴を理解して支援し、科学や医学に基づいてさらに彼らの能力を抽き出せる先駆的な教育や施策について、世界は、そして日本も遅れている。伊藤氏らはそうした子どもたちのための学校を今年秋、ニューロダイバーシティの考えを基にNeurodiversity School In Tokyo(NSIT)として東京都港区南青山に開校する。

冷たい社会

定員は当初15人程を予定するという。入学対象の児童は3歳から9歳まで、自閉症の子どもといわゆる普通の子どもを混ぜ合わせてすごさせる。迎える側は総合的立場から監督するディレクター、教師、保育士、セラピスト、発達支援の専門家など、充実した態勢だ。通常の学校に通う前のプレ・スクール、もしくは放課後の学校として子どもたちを見守る。言語は日本語と英語のバイリンガル。第4次産業革命とも呼ばれるAIやWeb3など、デジタル技術に基づく教育も当然行われ、先端を行くインターナショナル・スクールになるだろう。伊藤氏はこう語る。

「AIは価値観も、目指すべき未来も持っていない。選択肢を提示することはできても、自らの内在的動機から突き動かされて選ぶことはない。内在的動機をもたらすものは、多様な経験が折り重なってできた解釈の束である」

氏は哲学者の西田幾多郎が『善の研究』で提示した「純粋経験」の考えから、色々な子どもを混ぜて共に学ばせるNSITへのインスピレーションを得たと言う。

混ぜ合わせて、のびのびとすごさせ、彼らを導くのではなく、彼らの関心を抽き出し、思いの儘にすごさせることが、なぜ、大事なのか。

氏はざっと以下のように考える。現代人は多くのことを経験する前に「知識」として知ってしまっている。知識はAIも含む誰かによって意味づけされ、分類され、結論までパッケージとなって提示される。ビッグデータやAIによって右のプロセスは無限に反復される。反復の中では経験も解釈もあらかじめデザインされているために全てが予想通りの結論になりがちだ。人類全体の考えは多様性とは正反対の方向に行き、先細りする。深い洞察、叡智、哲学から離れ、多様性とは対極の何も混じり合うことのない冷たい社会が待ち受けている。

NSITで構想している混じり合う世界は、むき出しの手つかずの経験に満ちた驚きの世界になると伊藤氏は言う。ニューロティピカルの間では不変に見えた経験がニューロダイバージェントの手でぐちゃぐちゃにかき回され新たな相貌を見せる、と。私は学校の開校を心から楽しみにしている