「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和四年(2022)6月24日(金曜日)
通巻第7379号 <前日発行>
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ロシアから海外へでた人々は20万人
難民ではなく、雇用をもとめ、逃亡先に落ち着く傾向
****************************************
ウクライナ難民は合計で800万人、このうちの414万人をポーランドが引き受けた。ウクライナ西部はポーランド人や、ポーランドに親族がいる人が多く、嘗てはポーランド領土だった。
他方、ウクライナからロシアへのがれた難民は130万人である。主として東部在住。親露派でロシア語が母国語の地域からだ。
ウクライナ戦争勃発以後、ロシアから外国へ移住した、所謂『経済難民』は、およそ20万人とされる。
西側諸国へはロシア人の入国が厳しいため、ヴィザの要らない国へ。特にカフカスへ逃れたロシア人が多い。行き先はテルアビブ、アルマトイ、トビリシ、ビシケク、エレバンなど、なかにはバルト三国への渡航も目立った。
ジョージア(旧グルジア)へは2・5万、アルメニアに2万人が「移住」した。「難民」ではなく、移住である。というより、殆どは帰還である。とくにアルメニアへはユダや人が集中して移住しているために注目を集めている。
アルメニアはトルコとアララット山の帰属をめぐって対立してきたが、東方正教会をモスクワやウクライナより早く取り入れ、またキリル文字の原型となったアルメニア文字発祥の地でもあり、文化的な矜持が高い。
アルメニアはトルコとは犬猿の中だが、韓国とイスラエルが嫌いだ。後者は対立するアゼルバイジャンに武器を売っているからだ。アルメニアとアゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフ紛争で戦争を繰り返した。
産業、経済的には恵まれず、ソ連時代から建設労働者として、出稼ぎが盛んだった。ロシアへ出稼ぎに出たアルメニア人の仕送りはGDPの5%を占めたほどで、季節労働者として8万人から30万人が働きにでていた。もともとアルメニア人はディアスポラでアルメニア共和国に暮らすのは四割。残りはロシアなどにコミュニティを造っている。
このため、国内空洞化はとくに農業の衰退につながった。エレバンには細々としたユダヤ人コミュニティがある。ここへおよそ800名のユダヤ人が入植した(「モスクワニュース」、6月21日)。
▲ウクライナ復興に67兆円!
シュルツ独首相は「ウクライナ復興のために『マーシャルプラン』が必要だ」と言い出した。それもEUのみならずG7を主体に復興資金を構想しているらしい。
ゼレンスキー大統領は「復興には5000億ドルが必要」と金額まで提示している。67兆5000億円とは、日本の国家予算の三分の二である。
ウクライナの鉱業は鉄鋼、武器、造船であり、殆どの工場は空爆破壊されたから、ゼロからの出発となる。
イタリア政治は超党派政権である(「五つ星運動」「民主党」「同盟」「フォルツァ・イタリア」「自由と平等」「イタリア・ヴィーヴァ」)
ドラギ伊首相は少数政党乱立連合という綱渡り政権の舵を取るが、ウクライナ復興に言及し「ともに未来を歩もう」と演説すると、議会の多数が賛成した。抽象的な提示に過ぎないから賛成しやすかったとも言える。
EU諸国のウクライナ支援にはかなりの温度差がでた。モルドバは次にやられるかもしれないと身構え、ハンガリーは相変わらずEU主流に批判的。チェコ、ハンガリー、ポーランドはEUにはくわわったものの、通貨同盟ユーロとは距離を置き、通貨発行は主権の問題だとしている。
ユーロに加盟しないのは英国のほか、デンマーク、スウェーデン、ノルウェイ、オーストリア、スイスがある。いずれも底流に「独仏主導にうっかり乗せられるか」という潜在意識があるからかもしれない。
令和四年(2022)6月24日(金曜日)
通巻第7379号 <前日発行>
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ロシアから海外へでた人々は20万人
難民ではなく、雇用をもとめ、逃亡先に落ち着く傾向
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ウクライナ難民は合計で800万人、このうちの414万人をポーランドが引き受けた。ウクライナ西部はポーランド人や、ポーランドに親族がいる人が多く、嘗てはポーランド領土だった。
他方、ウクライナからロシアへのがれた難民は130万人である。主として東部在住。親露派でロシア語が母国語の地域からだ。
ウクライナ戦争勃発以後、ロシアから外国へ移住した、所謂『経済難民』は、およそ20万人とされる。
西側諸国へはロシア人の入国が厳しいため、ヴィザの要らない国へ。特にカフカスへ逃れたロシア人が多い。行き先はテルアビブ、アルマトイ、トビリシ、ビシケク、エレバンなど、なかにはバルト三国への渡航も目立った。
ジョージア(旧グルジア)へは2・5万、アルメニアに2万人が「移住」した。「難民」ではなく、移住である。というより、殆どは帰還である。とくにアルメニアへはユダや人が集中して移住しているために注目を集めている。
アルメニアはトルコとアララット山の帰属をめぐって対立してきたが、東方正教会をモスクワやウクライナより早く取り入れ、またキリル文字の原型となったアルメニア文字発祥の地でもあり、文化的な矜持が高い。
アルメニアはトルコとは犬猿の中だが、韓国とイスラエルが嫌いだ。後者は対立するアゼルバイジャンに武器を売っているからだ。アルメニアとアゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフ紛争で戦争を繰り返した。
産業、経済的には恵まれず、ソ連時代から建設労働者として、出稼ぎが盛んだった。ロシアへ出稼ぎに出たアルメニア人の仕送りはGDPの5%を占めたほどで、季節労働者として8万人から30万人が働きにでていた。もともとアルメニア人はディアスポラでアルメニア共和国に暮らすのは四割。残りはロシアなどにコミュニティを造っている。
このため、国内空洞化はとくに農業の衰退につながった。エレバンには細々としたユダヤ人コミュニティがある。ここへおよそ800名のユダヤ人が入植した(「モスクワニュース」、6月21日)。
▲ウクライナ復興に67兆円!
シュルツ独首相は「ウクライナ復興のために『マーシャルプラン』が必要だ」と言い出した。それもEUのみならずG7を主体に復興資金を構想しているらしい。
ゼレンスキー大統領は「復興には5000億ドルが必要」と金額まで提示している。67兆5000億円とは、日本の国家予算の三分の二である。
ウクライナの鉱業は鉄鋼、武器、造船であり、殆どの工場は空爆破壊されたから、ゼロからの出発となる。
イタリア政治は超党派政権である(「五つ星運動」「民主党」「同盟」「フォルツァ・イタリア」「自由と平等」「イタリア・ヴィーヴァ」)
ドラギ伊首相は少数政党乱立連合という綱渡り政権の舵を取るが、ウクライナ復興に言及し「ともに未来を歩もう」と演説すると、議会の多数が賛成した。抽象的な提示に過ぎないから賛成しやすかったとも言える。
EU諸国のウクライナ支援にはかなりの温度差がでた。モルドバは次にやられるかもしれないと身構え、ハンガリーは相変わらずEU主流に批判的。チェコ、ハンガリー、ポーランドはEUにはくわわったものの、通貨同盟ユーロとは距離を置き、通貨発行は主権の問題だとしている。
ユーロに加盟しないのは英国のほか、デンマーク、スウェーデン、ノルウェイ、オーストリア、スイスがある。いずれも底流に「独仏主導にうっかり乗せられるか」という潜在意識があるからかもしれない。