一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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「いじめ」(私的制裁)の連鎖について

2007-08-08 07:58:32 | Opinion
大日本帝国の軍隊の話です。

将校(少尉以上)は下士官(伍長以上)をいじめ、下士官は兵長をいじめ、兵長は上等兵をいじめ、上等兵は一等兵をいじめ、一等兵は二等兵をいじめる、という構造があったようです。
二等兵は、だれもいじめる対象がないので、軍馬をいじめたとのこと。
したがって、その中隊の軍馬が傷ついたり、荒れたりしている場合には、その中隊に「いじめ」(「私的制裁」)がはびこっている、と判断できたそうです(飯塚浩二『日本の軍隊』による)。

なぜ、そんな話を思い出したかといえば、公園で寝ていた清掃作業員が火を付けられて殺されそうになった事件があったからです。

今の世の中、いつの間にか「階層秩序」のようなものが出来てしまっているようなのね。
学生は学生で、偏差値による所属学校のランク一覧表のようなものが出来ているようですし、大人は大人で所得に応じたランク付けのようなものもある。

したがって、誰もが、その「階層秩序」の中で、自分がどこに属するかを常に気にするようになっている。
今回の事件を起こした少年たちも、例外ではないでしょう(あるいは、もっとも厳しく捉えているかもしれない)。

おそらくは、自分たちは「階層秩序」の中で「下層」に属する、と意識していた/させられていたのではないでしょうか。したがって、より「上層」からは常に圧力が掛かってくる。
その圧力を逃すためには、より「下層」が必要になってくる。
それが彼らにとっての「ホームレス」だったのではないか。
「乞食は最低で、世の中の役に立っていないから、犬猫と一緒。汚くて街に迷惑をかけており、死ぬのを待っているだけ。死んでも仕方がない」
という発言が、それを裏付けているようです(また、江戸時代における身分構造をも連想させる)。

軍隊は階級社会ですから、上下関係がはっきりしている。
したがって、「いじめ」(私的制裁)も、その階級を下へ下へとたどっていく構造となっていました。
現在では、あいまいな形での「上下関係」ですから、「下へ下へとたどっていく」のも、かなり恣意的/個人意識的なものがあります。

しかし、異質なものに対する非寛容さが広がる原因には、このような「いじめの連鎖」につながるものがあるような気がします(暴力化するかどうかは、別の事情による)。
そして、この国の社会には、「いじめの連鎖」は、かなり根強く存在しているのかもしれません。

飯塚浩二
『日本の軍隊』
岩波現代文庫
定価:1,260 円 (税込)
ISBN978-4002600871

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