一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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最近の拾い読みから(171) ―『ジャズで踊ってリキュルで更けて―昭和不良伝 西條八十』

2007-08-07 07:33:32 | Book Review
「歌は世につれ、世はつれ―『唄を忘れたカナリア』から艶歌と軍歌と演歌へ、『吹けば飛ぶような』唄の道を歩んだ巨人の泣き笑い人生。流行歌を作り出した舞台に、名もなき人々のエレジーが流れる。中山晋平、古賀政男、サトー・ハチロー……つわもの共の夢の跡。歌に映る時代のいびつな顔を描きとる『昭和への鎮魂歌』」
というのが、出版社サイドの謳い文句。

さて、著者によれば、
「時代時代の『大衆の気分』を嗅ぎ取り、半世紀にわたってヒット曲を量産した作詞家西條八十の評伝がないのはなぜだろう。」
とのことですが、実は評伝小説がありますね。
吉川潮『流行歌(はやりうた)―西條八十物語』(新潮社刊)です。

吉川は、西條が疎開先・下館で入門した長唄三味線師の息子です。そういったつながりから書かれた評伝小説ですが、こちらは小説としてなかなか面白かった記憶があります(現在、手許に見当たらないので、引用などできない)。

一方、斎藤著は、時代順に、西條、野口雨情、北原白秋などと歌謡曲の歴史とその背景をたどっていきます。しかし、テーマ主義なので、小説的な面白さにはいささか欠けるものがあります。
また、そのテーマの展開のしかたが若干生硬なので、やや柔らかめの論文を読んでいる印象です。
「軍歌と革命歌・反戦歌は似ている。皆で一緒に歌うので、まず威勢がいい。
(中略)
軍歌や戦時歌謡の中には、天皇陛下のために死ぬのは日本人としての務めであるという建前とともに、仲間の死は悲しいという本音が同居している。だから『暁に祈る』のメロディーには哀調があるが、革命歌にはそれがなく、歌詞にも悲哀が含まれていない。
(中略)
だが、〈踏みにじられし民衆に、命を君は捧げぬ/プロレタリアの旗のため、同志は今や去り行きぬ〉の赤旗を日の丸に、プロレタリアを大君に替えると、そのまま『海行かば』になる
というような一節が、その例です。

ここは一つ、「昭和不良伝」としての流れを保ってもらいたかったところ(その点では、倉場富三郎と藤原義江を描いた『ピンカートンの息子たち―昭和不良伝』の出来の方が良い)。

また、巻末に多量の参考資料が並んでいますが、その割にはずっこけた事実誤認があるのは、いかなる事情によるものでしょうか(特に例は挙げないけれど、再版の時に直した方がいいよ)。

理屈で昭和歌謡史を捉えたい人には、まあよいのでしょうが、「時代時代の『大衆の気分』」の歴史を振り返りたい人には、若干不満の残る作品でありましょう。

斎藤憐(さいとう・れん)
『ジャズで踊ってリキュルで更けて―昭和不良伝 西條八十』
岩波書店
定価 2,520 円 (税込)
ISBN 978-4000234047

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