一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
活字中毒者のアナタのためのブログです。

舞台音楽の楽しみ(30)――D. ミヨー『世界の創造』

2005-08-19 00:09:28 | CD Review
MICHAEL TILSON THOMAS
NEW WORLD SYMPHONY
new world jazz
(RCA)


予告通りにダリウス・ミヨー(1892 - 1974)の『世界の創造』"La Creation du monde"(1923年作曲)です。
一口に1923年と言ってしまうと、ああそうか、で終わってしまうけど、本朝の年号に直すと、なんと大正12年の作曲! 関東大震災が起きた年です。
こんな年に作曲された音楽だなんて、信じられます?
ちなみに、初演時の美術は、フェルナン・レジェ(1881-1955)が担当(美術史の本だと、この作品を『天地創造』と訳しているものもある)。

前回とは〈創造〉つながりですが、深井の作品が1940年ですから、その間に17年の歳月がある。しかし、ミヨーのモダニズムの方が、本場ということもあるけれど、ずっと耳に新しい。

日本は音楽の面でも、美術の面でも、極東の後進国であったということの哀しさを感じますねえ(にもかかわらず、一等国であると見栄を張った無理と、それとは裏腹の夜郎自大な自信過剰さ。『三四郎』における広田先生の「お互いは哀れだなあ」という述懐を思い出す)。

そのモダニズムを感じさせる大きな理由には、オーケストレーションがあります。
つまりは、楽器編成(サクソフォンが代表的楽器)と、ジャズの語法、不協和音の多様、といったことね。

それを実際に音楽を聴いて、確認してみましょう。
全体は「序奏」付きの5部構成となっています。

「序奏」"Ouverture" はサクソフォンの独奏で始まります。
これがなかなかしみじみとした、ジャズでいえばスロー・バラード風の旋律。
ただ、途中で低音から入ってくるオーケストラは、不協和音がいかにも第一次大戦後の「今」を感じさせます。
「第1部」"premiere partie" は「つなぎ」の部分。ジャズのリズムに乗って、不協和音中心の展開。使用楽器も金管楽器がメインになり、ちょっと哀調はあるものの賑やかな演奏となります。
「第2部」"dexieme partie" は、「序奏」のテーマによく似た旋律が、デキシーランド・ジャズの葬送音楽風(ただし『聖者の行進』のような帰りの陽気さではなく、墓地に向かう時のしめやな方の音楽ね)。
「第3部」"troisieme partie"は、ヴァイオリンの演奏から始まり、車のクラクションのようなクラリネットやサクソフォンが入ってくる、軽やかな音楽。これがフォックストロットのリズムなのかしら?
「第4部」"quatrieme partie" は、一転して静かな音楽。「第3部」の盛り上がりが徐々に背景に退いて行き、クラリネットがブルース調の音楽を奏でる。
「第5部」"cinquieme partie"が終曲です。サクソフォンの演奏を主とした楽曲は、静かに幕を閉じます。

小生は、バーンスタイン指揮フランス国立管弦楽団の演奏より、このティルソン・トーマス指揮ニュー・ワールド・シンフォニイの演奏をとりますが、こちらの演奏は、それぞれのパートがトラックに分けられていないので、ご注意ください。なお、バーンスタイン盤のジャケットには、レジェが担当した舞台の再現写真が載っていますので、曲の雰囲気をつかむ参考になるでしょう。
(お勧め度★★★☆☆)

以下は、まったくの余談。
バレエに『世界の創造』と名づけられたことに関して、小生、ちょっと目を通した本の一節を思い出しましたので、ご紹介を。
バレエはイタリア・ルネサンスに誕生したとよく言われるわけですが、そこで起ったもっとも重要なこと、それは、バレエが世界の模型、宇宙の模型、あるいはその一部として構想されたということです。(三浦雅士『バレエ入門』)
この伝統は、18世紀になり、市民社会が発展するにつれて消えていったそうですが、改めて20世紀になって見直された、と考えることもできるでしょう。
如何なものでしょうか。

   
きょうのJuncoさんのお勧めは、
 P.SparkのMusic of Spheres (天球の音楽)
「いかにもスパークらしい素敵な吹奏楽の音楽です。(^_^)v(お薦め度 ★★★★☆)」
とのコメントです。

例によって、コメント欄もぜひご覧くださいまし。