一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『徳川将軍家十五代のカルテ』を読む。

2005-08-05 00:41:18 | Book Review
著者は、整形外科医で作家。
その特異な立場を生かして書いた1冊が本書。

内容はタイトルどおりに、徳川15代将軍各々の病歴とその死因とを考察したものです。
徳川将軍家となると、時代が近いためか、基礎データがそれなりにあります。本書で紹介されている、その1つが、三河大樹寺(岡崎市)の位牌。
この位牌は「代々の将軍が薨じるたびにその場で身長を計り、これと同じ高さ」に拵えたもの。したがって、各将軍の身長を知る基礎データとなりうるのです。
もう1つは、やはり将軍家の菩提寺である芝増上寺に埋葬されていた遺体。
昭和33(1958)年から1年半にわたって、墓所の学術調査が行われたため、全身骨格を元にした身体計測がなされていたわけです。

以上によるデータで目立つのは、五代将軍綱吉が124cmと異常に身長が低いこと。
当時、庶民の平均身長が157cmほど(男子)であったから、異様と言ってもいいでしょう。
著者によれば、「成長ホルモン分泌異常による低身長症」というお見立てになります。この辺りは、著者が医者であることが説得力を生んでいる。
*低身長コンプレックスが、どのような政治行動に結びついたかは、本書をお読みください。

その他、身体面、健康面で特異な将軍と思われるのは、九代将軍家重。
幕府の公式記録『徳川実記』や、来日オランダ人の書き残した『日本風俗図誌』には、「話すことばが聞き取れない言語障害」であったように書いてあるそうです。
一般には「暗愚」との評もありますが、著者はそれに異論を唱え、「知的にすぐれた脳性麻痺者」と判断している。
暗愚の人といわれたのは言語障害のために自分の考えを他人に十分伝えられなかったからであろう。
というのが、著者の結論になります。

このような特異な例だけではなく、ごく普通の人間としての将軍を、病気や死から捉えた書として、興味深い記述をそこここに見出すことができます。
暑い季節の読書には、適度な記述の軽さと、内容のそれなりの充実さとを併せ持った本書は、恰好の一冊となることでしょう。

篠田達明
『徳川将軍家十五代のカルテ』
新潮新書
定価:本体680円+税
ISBN410610119x