一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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舞台音楽の楽しみ(29)――深井史郎『バレエ音楽〈創造〉』

2005-08-18 00:01:55 | CD Review
日本作曲家選輯
SHIRO FUKAI
Chantes de Jave - Creation
Quatre mouvements parodiques
Russian Philharmonic Orchestra - Dmitry Yablonsky
(NAXOS)


深井史郎(1907 - 1959) の『バレエ音楽〈創造〉』は、昭和15(1940)年の作品。既に日中戦争は始まっていたとはいえ、特に戦争の影は見られない音楽です。
けれども、60年目の8月15日を迎えて、「太平洋戦争」中に、作曲家はどのような作品を書いていたかを、ちょっと確認してみます。

この人、結構バレエ音楽を書いていて、『創造』の前には、昭和9(1934)年に『都会』と『悦び』、翌年には『エチュード』や『圧搾された瞬間』を、昭和12(1937)年には『南方十字星(サザンクロス)』を作っている。
このアルバムに収められている『パロディ的な四楽章』が昭和11(1936)年の作品だから、それまではモダニストと言ってもいいかもしれない。

けれども、一方で昭和12(1937)年頃から、雲行きが怪しくなってくる。この年の7月には、日中戦争が始まりますが、放送軍歌『特別陸戦隊頌歌』なんていう時局的な作品が眼に付くようになる(上海で海軍特別陸戦隊が、中華民国の正規軍と本格的な戦闘を繰り広げた。〈第2次上海事変〉)。

バレエ音楽で言えば、昭和17(1942)年に『あらしの中の病院船…啓吉公用スグ帰レ』『桜のたましい』『愉しきかな』、オペラ『敵国降伏』が昭和18(1943)年、翌年には歌曲『戦死せる彼等のために』など、といった具合。

別に、音楽家の戦争責任をいうつもりはありませんが、このような時代があったことを覚えておいた方がいい。
――戦争中であろうが、〈顕彰〉のために芸術を利用する(プロパガンダにつながる)のは不可、〈鎮魂〉のための芸術は、特に音楽の一つの社会的役割として認める、という立場を小生はとっています。この話を始めると長くなるので、また改めて……。

さて、深井史郎が、まだモダニストの本領を発揮できた時代の音楽に戻ります。

『バレエ音楽〈創造〉』は3部から成っています。
第1部が「神々の誕生」、第2部が「生物の誕生」、第3部が「人間の誕生」。
ここで、どうしても連想するのが、ミヨーの『世界の創造』"La creation du monde" (1923) ですね。
深井の『パロディ的な四楽章』が、ファリャ、ストラヴィンスキー、ラヴェル、ルーセルの音楽のパロディになっていることを考え合わせると、この『世界の創造』を知っていた可能性が高い(菅原明朗に師事したそうですから、彼のラインでフランス現代音楽を知ったのでしょう)。

ただ、ミヨーに比べると、やはりモダニズムといっても、「日本的な」と形容を付けざるを得ないでしょう。この時代、ヨーロッパのモダニズムには、十二音技法、印象主義、新古典主義、未来主義からジャズ、民族音楽、ポピュラー音楽まで、雑多なものが混在していた(はっきり言って、何でもありの面白い時代だった)。
それに比較すると、やはり深井に利用できた語法は少ないように思えます。
むしろ、第3部のフルート独奏に聴かれるように、日本的な語法が独自の色合いとなっている。この部分を徹底させて、リズム・オスティナートの上に乗っけると、伊福部の世界に近くなりそう(お勧め度★★☆☆☆)。

ところで、当時の日本のバレエ界というのは、どうだったのでしょう?
小生、あまり知らないので、ご教示いただければ幸甚。

どうやら、次回はミヨーになりそうだな……。

   
きょうのJuncoさんのお勧めは、
 JEROME MOROSSのバレエFrankie and Johnny
「ウエストサイドストーリーのパロディみたいな曲です。お薦め度(★☆☆☆☆)(^o^)」
とのコメントです。

例によって、コメント欄もぜひご覧くださいまし。