一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
活字中毒者のアナタのためのブログです。

●おわびとお知らせ

2005-08-13 00:03:56 | Information
本日から16日まで、blog版『一風斎の趣味的生活』を更新しているサーバーが、リニューアルのためお休みになります。
そこで、4日間だけ、その記事の更新を『一風斎の趣味的生活/もっと活字を!』で行ないますので、ご了承をお願いいたします。

一風斎啓白

舞台音楽の楽しみ(24)―― A. コープランド『ダンス・パネル』

2005-08-13 00:01:32 | CD Review
The Copland Collection
Orchstral Works
1948 - 1971
The Red Ponny
Music for A Great City
Down a Country Lane
Dance Panels
Three Latin-American
Sketches
(SONY Classical)


アメリカのダンス・シーンを語る際に、マーサ・グラハム (Martha Graham. 1894 - 1991) の名前を逸することはできますまい。
簡単に述べれば、イサドラ・ダンカン(Isadora Duncan. 1877 - 1927) が切り開いたアメリカでの芸術としてのダンスを、総合芸術へと高めたのがグラハムだったわけです。
いわば「第一世代」のダンカンに対して、「第二世代」のグラハム、そして「第三世代」のグラハムの弟子たち(例えば、マース・カニンハム)、という構図になる。

そのようなアメリカのダンス・シーンに音楽を提供した、最も有名な作曲家が今回取り上げるアーロン・コープランド (1900 - 1990)です。
彼は生涯にいくつかのバレエ音楽を作っていますが、『ビリー・ザ・キッド』と『アパラチアの春』が、前述したグラハムの振り付けです。

さて『ダンス・パネル』"Dance Panels"ですが、1959年作曲(62年改訂)のコープランド最後のバレエ作品です。
そのバレエの内容は、ということになると説明のしようがない。
というのは、資料がないということではなく、非常に抽象的なダンスだからですね。
ここでは、アメリカのダンスも次の世代(「第三世代」)に移ってきている。
今までのダンスが、総合芸術を目指してはいたが、ストーリー性のあるものだったのに対して、新しい世代は、体の動きを使って抽象的な概念までも表そうとする。
ですから、バレエ『ダンス・パネル』の内容は説明できないのね。

この動きの分り易い例としては、ジョン・ケージと組んだマース・カニンガムがいます(音楽でいえば、ジョン・ケージの『ソロイストと集団のための16のダンス』のように、「怒り」「ユーモア」「悲しみ」といったタイトルがつく)。

話をコープランドの音楽に戻しましょう。

『ダンス・パネル』は全7曲からなっています。しかし、個々の曲の題名は、情景を表すものではなく、イントロダクション、スケルツァンドなどと音楽の内容を示すものしかついていません(つまり、情景音楽ですらないのね)。そういって点からすれば、ケージの『……16のダンス』よりも、内容がつかみにくい。

ですから、バレエ音楽ということを忘れて、普通の7楽章の組曲を聴くつもりになった方がいい。
そういう意識で聴くと、この「組曲」はコープランドの作品の中でも、出来がいいのじゃないかしら。
どうしても、コープランドの音楽というと、『赤い子馬』などの映画音楽は別にしても、『アパラチアの春』『ビリー・ザ・キッド』『エル・サロン・メヒコ』『3つのラテン・アメリカのスケッチ』と、情景音楽的なものを多く作ってきたようなイメージが強い。

けれども、ここでコープランドが見せているのは、『ショート・シンフォニイ(第2交響曲)』『第3交響曲』の延長線上にある、シンフォニストとしての相貌です。
オーケストレーションが巧い作曲家であることが、まずはっきりと分ります。しかも、そのオーケストレーションに独自性がある。クールでクリアな音像を示し、しかも適度な叙情性もある(特に、第4曲 "Pas de trois - Lent" の叙情性のある音楽はお勧め)。
何より、音楽が下品(げび)ていないとこが、小生は好きですね。

このような上質なアメリカ音楽の流れが、おそらくは作曲家としてのレナード・バーンスタイン(特に初期)にもつながっていると思われます。
ちなみに、バーンスタインはジュリアード音楽院で、コープランドに作曲を学んでいます。

今みたいに力でごり押しするような国になる前、身体はでかいが人の良い、気前の良い国だったアメリカの音楽だといえるでしょう(バーンスタインには、ヴェトナム戦争の影が差してくるものね)。

   
今日のJuncoさんのお勧めは、
 William Grant Still: Symphony No. 1, 'Afro-American'
です。

例によって、珍しい曲が続々登場する
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