なぜ電動キックボードは世界中で「禁止令」が相次ぐのか…何周も遅れて解禁する日本のお粗末な現状
プレジデントOnline より 231226青葉 やまと
⚫︎パリ、マルタで電動キックボードが「全面禁止」に
「未来のモビリティ」として注目された電動キックボードをめぐって、先行導入してきた世界の各都市で「禁止令」が相次いでいる。
2023年4月1日、フランス・パリでシェアサービスの電動キックボードに乗る人々。4月2日、市内で使用されている電動キックボードを禁止するかを問う住民投票が行われ、投じられた9割が反対票だった - 写真=EPA/時事通信フォト
かつて電動キックボードの「パイオニア」として導入を推進したパリでは、危険だとして批判が殺到。住民投票で9割が反対に回り、レンタル事業の全面禁止に至った。
地中海の島国・マルタもこれに続き、来春から全面禁止となる。
日本では「アプリで予約し、街角でレンタルできる」という手軽さから、海外に遅れて普及しつつある。本当に「未来のモビリティ」にふさわしいのだろうか。
⚫︎小さな段差が大きな事故につながる
イギリスでは、電動キックボードがバスと衝突。25歳女性が靱帯を断裂し、脚が「茹でたスパゲティ」のように曲がるという危険な事故が起きた。英「ヤフー!ライフ」が今年11月、その子細を報じている。
事故が起きたのは2021年8月23日、東イングランドのエルストリーの町だ。電動キックボードに乗ったラザルスさんが走行中のバスを抜かそうとしたところ、バスと歩道の段差との間に挟まれる形で転倒。衝撃で彼女は宙に投げ出され、重傷を負った。地面に叩きつけられ、通行人がやっとのことで歩道に引き上げた。
ラザルスさんは両膝の十字靱帯を完全に断裂。複数回の手術と大がかりな理学療法を受けることになった。ラザルスさんは当時の状況を、「道路の坂を下っていて、あまり集中していませんでした」と顧みる。
現場に到着した救急隊員は、救急車まで歩けるかどうかラザルスさんに尋ねた。だが、彼女が歩こうとすると、左足は思わぬ方向に曲がり、右足も別の方向にぐにゃりとねじ曲がった。まるで「茹でたスパゲッティ」のようだった、と彼女はいう。
事故後、ラザルスさんはパニック発作に悩まされたほか、歩くのも難しく、職を失った。「25歳にもなって歩き方を習得し直すなんて思いませんでした」と語る。幸いにも彼女はその後目覚ましい回復を遂げ、現在ではマラソンや登山にも挑戦するアクティブな日々を送っている。
⚫︎飲酒、放置、負傷者急増…
電動キックボードの急速な普及につれ、歩行者や乗り手に生じるリスクが無視できなくなってきた。世界中の多くの都市が、歩道の乱雑さや事故など、電動キックボードがもたらす負の影響に手を焼いている。
電動キックボードの利便性や利用の楽しさよりも、もはや危険性が目立つ。米CNNは、アメリカでは主要な観光地などで必ずといっていいほど目にするようになったと述べる。
その陰で歩行者たちは、歩道を疾走する電動キックボードをかわし、道端に乗り捨てられたレンタルの電動キックボードをよけて進むなど、肩身の狭い思いを強いられているという。
ブルームバーグは、歩道での危険な運転に加え、時には飲酒運転が大きな問題となっていると指摘する。
米消費者製品安全委員会は、2017年から2021年にかけて電動キックボードや電動スケートボードなど「マイクロモビリティ(超小型移動手段)」による負傷件数が127%増加したとのデータをまとめた。
従来利用されている自転車と比較して、電動キックボードの危険性は明らかだ。モーターを動力として人力以上のスピードを出すことができる反面、小さな車輪だけでバランスを取る構造上、どうしても安定的な走行が難しい。
小型ゆえに、電動車両を運転している自覚に乏しい問題もある。
電動キックボードで2人乗りをする若者
若者が集う大学キャンパスでは、構内でのマイクロモビリティの使用禁止に動く例が相次ぐ。名門・米カルポリ(カリフォルニア州立ポリテクニック大学)のサン・ルイス・オビスポ校では、過去10年間にわたりマイクロモビリティの使用を禁止しているが、それでも痛ましい事故が起きた。
地元メディアのカルマターズによると2020年、同大学の1年生がキャンパス付近を走行中、乗っていた電動スケートボードから転落して死亡している。こちらはスケートボードだが、マイクロモビリティの危険性を物語る事例だ。
⚫︎電動キックボード先進都市・パリが、禁止に舵を切る
規制への圧力が各地で高まるなか、ついにパリが動いた。歩行者に優しい都市として知られるパリは2018年、電動キックボードのレンタル事業を世界の大都市として初めて正式に許可し、歓迎姿勢を打ち出していた。かつて導入のパイオニアとして賞賛されたそのパリが一転、今や禁止に舵を切っている。
米フォーブス誌が詳しく報じているように、パリでは市の公式な認可のもと、Dott、Lime、Tierの3社が、計1万5000台という大量のレンタル電動キックボードを街頭に配備していた。だが、ニューヨーク・タイムズ紙が報じたパリ警察本部の発表によると、昨年の電動キックボードによる死亡事故は3件、負傷事故は459件にのぼる。
安全性への疑念から、レンタル事業の是非をめぐる4月の住民投票に発展。否定派が勝利し、パリの街からすべてのレンタル電動キックボードが8月31日を最後に姿を消した。個人での所有は引き続き許可される。
専門家たちは、電動キックボードが急に普及し、議論が追いつかなかったことに問題があったとみる。ニューヨーク市交通局の元トップ・エンジニアであるサム・シュワルツ氏は、米インサイダー誌(現ビジネス・インサイダー)に4月、こう語っている。
「あまりにも急速に普及したため、どうすればいいのかわからないのです。通常であれば10年から15年はかかる移動手段の変化を、わたしたちは2年から3年のあいだに目の当たりにしました」
⚫︎自動車は減らず、バスより環境に悪い研究結果も
課題はまだある。自動車利用からの転換を念頭に、環境に優しいと期待された電動キックボードだが、実は想定ほどエコではない。
電動キックボードの過剰な導入が問題となっている地中海のマルタでは、アーロン・ファルギア交通相がロイターに対し、電動キックボードの導入で自動車の利用が減るとの期待は誤りだと指摘した。
「国際的な研究および事例によれば、それまで徒歩や公共交通機関を利用していた人が電動キックボードに乗り換えているのであって、自動車からではありません」
製品のライフサイクル全体をみれば、むしろバス移動よりも環境負荷が高いとの分析がある。CNNが報じたノースカロライナ州立大学の研究によると、寿命の短さがカーボンフットプリントを押し上げているという。
研究を進めたジェレマイア・ジョンソン准教授は、アルミ製の電動キックボードはレンタル用途の酷使に絶えられず、平均わずか数カ月で廃車になっているとの実態を語った。
耐久性を高めた新型製品も出ているが、それでもレンタル用途での耐用性は長くて2年が限度だという。
歩行者との共存が難しく、環境面でのメリットも想定を下回る電動キックボードは、厳しい立場に追いやられている。
⚫︎アメリカで、シンガポールで…危険性の認識が広まる
こうしたことから世界の都市で、規制の動きが出ている。地中海の島国・マルタは、レンタル電動キックボードの規制に動いた。
来年3月1日から、電動キックボードのレンタルを全面的に禁止する。ロイター通信によると、歩行者や自動車利用者から多数の苦情が寄せられたためだという。
アメリカでは、サンフランシスコやサンディエゴなどの大都市が、安全面や駐車場に関する懸念から、厳しい規制の導入や禁止の検討を行っている。
危険性はスウェーデンでも問題となった。今年だけで死亡事故1件を含む241件の事故が発生しており、インフラ相は状況を「カオスだ」と表現している。
シンガポールでは、電動キックボードと衝突したサイクリストの死亡事故が発生。これを受けて来年、試験的な禁止措置が敷かれる可能性がある。
一方、ニューヨーク・タイムズ紙は、パリが電動キックボードを禁止したのに対し、同じフランスのマルセイユは禁止を検討したのち、最終的に規制を見送ったと報じている。
マルセイユ市の副市長は、電動キックボードが公共交通の流れを改善し、自動車への依存を減らすと強調した。
⚫︎電動キックボードに固執する必要はあるのか
潜在的なリスクを抱える電動キックボードは、世界の都市で活発な議論を巻き起こしている。迷惑で危険な乗り物という見方がある一方で、特に人口密集地では自動車に代わる環境に優しい乗り物という意見も根強い。
だが、危険性のあるキックボード型に固執する必然性は低いだろう。
EV関連ニュースを報じるエレクトレックによると、パリで電動キックボードのシェアが禁止されたことを受け、現地ではレンタル電動自転車の利用者数が急増した。
2022年9月に約75万回だったところ、2023年9月には約2.6倍にあたる200万回近くに跳ね上がったという。新たなモビリティとして注目される電動キックボードだが、より安定性の高い自転車で代用可能だったことを示している。
行動範囲を広げアクティブな毎日を支えてくれる電動キックボードは便利な半面、利用者側にも歩行者側にも予測できない危険がひそむ。
日本で導入の先駆けとなっている渋谷では、坂道の車道を、スピードを出して駆け抜ける危険な利用も見られる。
パリやマルタ、アメリカの都市や大学などで禁止令や規制を求める声が高まるなか、日本でも安全性をめぐる議論が求められる。
▶︎青葉 やまと フリーライター・翻訳者 1982年生まれ。
関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
💋幼な子が被害を受けない限り禁止無し! 毎度だが、行政は不作為、そして実際 被害が出てからか!おっとり刀で? 今でも右側、左側通行が乱雑に増え…歩きに不便!
安全より売上の本邦はという慣わし有り