中国語学習者のブログ

これって中国語でどう言うの?様々な中国語表現を紹介します。読者の皆さんと一緒に勉強しましょう。

第一回中日韓ビジネスサミットでの温家宝首相の講和

2009年10月30日 | 中国ニュース

今回は、このスピーチ原稿を教材に、中国語の表現について、勉強しましょう。
ネタ元は以下:
在首届中日韓工商峰会上的講話(2009年10月10日)
温家宝 2009年10月11日 
来源:人民網

韓国のイ・ミョンバク大統領の中国語表記は、李明博総統です。

 首先,我謹代表中国政府対首届中日韓工商峰会的召開表示熱烈祝賀,向三国工商界朋友們致以誠摯的問候!
 
 ここで、「致以誠摯的問候」はきまり文句。心からのごあいさつを申し上げる、という意味。「胡錦涛向台胞致以誠摯問候和衷心祝福」、などという言い方をします。
● 誠摯 cheng2zhi4 真摯である。心のこもった
 
 [訳]最初に、私は謹んで中国政府を代表し、第一回中日韓ビジネスサミットの開催を心よりお祝いし、三カ国のビジネス界の友人達に心からのごあいさつを申しあげます。

 十年来,中日韓経貿合作取得巨大成就,三国貿易額翻了両番,従1300多億美元増長到目前的5000億美元。

 「翻」は倍増する。「番」は量詞。「翻一番」は倍になる、ですが、「翻両番」は何倍になるのでしょうか?倍になったものがさらに倍になるので四倍です。では、「翻三番」は?答えは八倍です。

 [訳]この十年、中日韓は経済や貿易の協力で大きな成果を上げ、三カ国の貿易額は1300億ドル余りから現在の5000億ドルへと、四倍になった。

 ここで、三国の企業への希望、として、キーワードが三つ出てきます。
 1.開拓創新
 2.和衷共済
 3.建言献策

 ひとつめの開拓創新は、イノベーションの開拓。物事を革新し、新しいものを取り入れる、ということです。

 創新是企業的競争力和生命力。……。企業家們要在立足自主創新同時,利用三国地理相隣,文化相通,経済互補和融合度高的優勢,加大合作研発和生産的力度,形成具有地区特点的創新体系和制造体系,在未来世界経済格局中占据主動地位。

 ● 創新 chuang4xin1 古いものを捨てて新しいものを作り出す。新機軸を打ち出す。innovation 。
 解放思想 実事求是 与時俱進 開拓創新、というような使い方をします。
 ● 立足 li4zu2 立脚する
 ● 格局 ge2ju2 構成。枠組み
 ● 主動 zhu3dong4 反対語は「被動」。自発的、積極的という意味ですが、ここでは世界経済の枠組みの中での「主動地位」なので、主導的位置、と訳したらよいと思います。「取得主動」で主導権を取る、となります。

 [訳]イノベーションは企業の競争力と生命力である。……企業家の皆さんは自主的なイノベーションに立脚すると同時に、三カ国が隣接し、文化が相通じ、経済が互いに補完し合い、融合度合が高いという優位さを利用し、共同研究開発と生産の強さを強化し、地域の特徴を備えたイノベーションの体系と製造体系を形作り、未来の世界経済の枠組みの中で主導的な地位を占めなければならない。  

 二つ目の和衷共済は成語です。
 二是要和衷共済。這場国際金融危机的影響是広汎而深刻的。企業是直接的受害者,也是重振増長的中堅力量。但企業的生存和発展離不開良好的社会和国際環境。這就要求企業家有寛広的視野和開闊的思路,在克服自身困難同時,勇于承担社会責任和国際責任。要発揚同舟共済、共克時艱的精神,在共同発展、和諧発展中実現自身的可持続発展。

● 和衷共済 he2zhong1gong4ji4 
 衷:内心。済:渡。皆が心をひとつに、いっしょに川を渡る→心を合わせ、困難を克服する。任務達成のため、心を合わせ、協力する
 [類]同舟共済、斉心協力、風雨同舟
 [反]貌合神離、離心離、同床異夢
 この段落の後半で、「発揚同舟共済、共克時艱的精神」と、類似語の「同舟共済」も使われています。

 重振増長的中堅力量、という表現ですが、「重振」には重振軍威chong2zhen4jun1wei1(軍威を再び高める)というような言い方をし、重振増長で、再び成長するように振り向ける、という意味になります。

 [訳]二つ目は心を合わせ、協力する、ということだ。この度の国際金融危機の影響は、広範で深刻である。企業は直接の被害者であり、再び成長するための中核となる力である。しかし、企業の生存と発展は、良好な社会、国際環境と切り離すことはできない。このことは企業家に広い視野と幅広い思考を要求し、自身の困難を克服すると同時に、社会への責任と国際的な責任を負担するだけの勇気がなければならない。共に力を合わせ、現在の困難を克服する精神を発揚させ、共に発展し、調和のとれた発展をする中で自身の持続可能な発展を実現しなければならない。

 三つ目の建言献策、これは字の如く、建言や献策。提案です。

 歓迎你們利用三国工商峰会這一斬新平台,在充分討論醞醸基礎上,向三国領導人提出意見和建議。

 [訳]三カ国ビジネスサミットという斬新なプラットフォームで、十分に討論し準備された基礎の上で、三カ国のリーダーに意見や建議を提出されることを期待する。  

 最後のまとめの段落で使っている表現がおもしろいと思います。
 最后,我想用一幅画同大家共勉。剛才,我同李明博総統和鳩山首相一同参観了中日韓水墨画展。其中一幅由三国画家共同創作的画給我留下很深的印象。画中韓国的木槿花、日本的櫻花和中国的翠竹相依相偎,各展風采,構成了多姿多彩的傲雪迎春図。我以為,這是三国芸術家的心声,也是三国人民的心声,応該成為三国企業家的精神,成為中日韓合作的精神!

● 共勉 gong4mian3 互いに励まし合う。英語では、mutual encouragement 通常、「与…共勉」という使い方をする。例:与人共勉,与君共勉,与大家共勉
● 相依相偎 xiang1yi1xiang1wei1  互いに寄り添い、支え合う
● 傲雪迎春 ao4xue3ying2chun1 傲雪:「傲」は屈しないという意味。雪に屈しない。「紅梅傲霜雪」(紅梅は霜や雪に屈しない)という使い方をする。傲雪迎春は、雪に屈せず新春(正月)を迎える、ということで、雪が舞い散る中、梅の花が咲いている図であり、絵の題材として使われる。
● 多姿多彩 duo1zi1duo1cai3 色や形態が様々である。英語で言えば、colorful   [用例]生活,就像一張白紙,人類用不同的顔色不同的画筆将它画得多姿多彩。
● 翠竹 cui4zhu2 青竹。比喩として、生気が盛んであること。

 [訳]最後に、私は一幅の絵により皆さんといっしょに励まし合いたいと思う。先ほど、私はイ・ミョンバク大統領、鳩山首相といっしょに中日韓水墨画展を見学した。その中で一幅の三国の画家が共同で創作した絵が私に深い印象を残した。絵の中で、韓国の槿(むくげ)、日本の桜と中国の青竹が互いに寄り添い、それぞれが風采を放ち、色とりどりの、傲雪迎春図を構成していた。私は、これは三国の芸術家の心の声であり、三国の人民の心の声でもあり、三国の企業家の精神となるに違いなく、中日韓の協力精神となるに違いないと思う。

 和衷共済、 発揚同舟共済、共克時艱的精神という三カ国企業へのメッセージを、一幅の絵になぞらえ、短いですが、よくまとまったスピーチだと思います。


紅楼夢 第一回を読む (その3)

2009年10月25日 | 紅楼夢

さて、お話は一気に地上の現実の世界に移り、最初の登場人物として甄士隠が出てきて、いよいよこの長い物語の幕開けとなります。そして、物語のことばの端々に、今後の物語の展開の暗示がちりばめられています。


当日地陷東南,這東南一隅有処曰姑蘇,有城曰閶門者,最是紅塵中一二等富貴風流之地.這閶門外有個十里街,街内有個仁清巷,巷内有個古廟,因地方窄狭,人皆呼作葫芦廟.廟旁住着一家郷宦,姓甄,名費,字士隠.嫡妻封氏,情性賢淑,深明礼義.家中雖不甚富貴,然本地便也推他為望族了.因這甄士隠禀性恬淡,不以功名為念,毎日只以観花修竹,酌酒吟詩為楽,倒是神仙一流人品.只是一件不足:如今年已半百,膝下無儿,只有一女,乳名喚作英蓮,年方三歳.
[訳]そのころ、地は東南に窪み、この東南の片隅に姑蘇と呼ばれるところがあり、閶門と呼ばれる城門があり、浮世でも一二の富貴風流の地であった。この閶門外に十里街という通りがあり、通りに仁清巷という路地があり、路地には古い廟宇があり、狭い場所なので、人は皆ひょうたん廟と呼んでいた。廟の傍に田舎役人が住んでいて、姓は甄、名は費、字(あざな)は士隠と言った。正妻は封氏と言い、善良でやさしく、礼儀をわきまえていた。家はさして富貴ではないが、当地では彼を名望ある家柄と見做していた。この甄士隠は生まれつきあっさりしていて無欲で、功名を上げようという気もなく、毎日ただ花を眺め竹の手入れをし、酒を汲んでは詩を吟じることを楽しみとし、あくせくせず悠々自適な人物であった。ただひとつ物足りないのは、今年既に五十になるのに、男の子がおらず、娘が一人だけおり、乳名を英蓮と言い、年はやっと三歳であった。
● 郷宦 xiang1huan4 田舎の役人
● 嫡妻 di2qi1 正妻
● 賢淑 xian2shu1 =賢惠:善良でやさしい婦人
● 望族 wang4zu2 名望ある家柄
● 禀性 bing3xing4 生まれつき
● 恬淡 tian2dan4 あっさりしていて無欲である
● 酌酒 zhuo2jiu3 酒を注ぐ
● 吟詩 yin2shi1 詩を吟じる
● 神仙 shen2xian (仙人の意から)→〔喩〕なんの苦労も気がかりもなく、悠々自適の生活をする人
● 一流 yi1liu2 同類。同じ仲間


一日,炎夏永昼,士隠于書房閑坐,至手倦抛書,伏几少憩,不覚朦朧睡去.夢至一処,不辨是何地方.忽見那廂来了一僧一道,且行且談.只聴道人問道:“你携了這蠢物,意欲何往?”那僧笑道:“你放心,如今現有一段風流公案正該了結,這一干風流冤家,尚未投胎入世.趁此机会,就将此蠢物夾帯于中,使他去経歴経歴。”那道人道:“原来近日風流冤孽又将造劫歴世去不成?但不知落于何方何処?”
 [訳]ある日のこと、夏の暑い盛りの昼下がり、士隠が書斎でぼんやり座っていたが、書きものに飽き書を放り出し、床几に伏してしばし休息したが、思わず朦朧と眠りに落ちた。夢の中であるところに行ったが、それがどこだか分からなかった。ふと、あちらから僧侶と道士がやって来て、歩きながら話をしていたが、道士がこう問うのだけが聞こえた。「あなたが持ってきたこのやくざものを、どこにやろうとお思いか。」その僧侶は笑って言った。「安心しなさい。今とある色ごとのもめごとを解決しようとしているが、この色ごとの仇役は、まだ生を受けて浮世で暮らしたことがない。この機会に、このやくざものをその中に挟み込んで、きゃつに浮世の経験をさせてみようと思うのじゃが。」その道士は言った。「確か最近色ごとの仇役が劫(ごう)を一回経験してきたのではありませんでしたか。どの方面のどこに降りたのか知りませんが。」
● 了結 liao3jie2 解決する
● 一干 yi1gan1 ある事件に関係のある(すべての人を指す)
● 投胎 tou2tai1 生まれる。生を受ける
● 冤孽 yuan1nie4 前世の因業(いんごう)
● 造劫歴世 zao4jie2li4shi4 劫(ごう)を一回経験した

那僧笑道:“此事説来好笑,竟是千古未聞的罕事.只因西方霊河岸上三生石畔,有絳珠草一株,時有赤瑕宮神瑛侍者,日以甘露灌漑,這絳珠草始得久延歳月.后来既受天地精華,復得雨露滋養,遂得脱却草胎木質,得換人形,僅修成个女体,終日游于離恨天外,飢則食蜜青果為膳,渇則飲灌愁海水為湯.只因尚未酬報灌漑之,故其五内便郁結着一段纏綿不尽之意.恰近日這神瑛侍者凡心偶熾,乗此昌明太平朝世,意欲下凡造歴幻縁,已在警幻仙子案前挂了号.警幻亦曾問及,灌漑之情未償,趁此倒可了結的.那絳珠仙子道:‘他是甘露之惠,我并无此水可還.他既下世為人,我也去下世為人,但把我一生所有的眼涙還他,也償還得過他了.’因此一事,就勾出多少風流冤家来,陪他們去了結此案。”
[訳]その僧侶は笑って言った。「このことは話すとおかしいことだが、長い年月聞いたことのない珍事であった。西方の霊河の岸の三生石の畔に、絳珠草がひと株あり、赤瑕宮の神瑛の従者が、毎日甘露をかけてやっていたが、この絳珠草は寿命が延び、やがて天地の精華を受け、また雨露の滋養を得て、ついには草胎木質から脱却し、人の形に変わるを得、ただ女体を修成し、一日中、離恨天の外に遊び、餓えれば蜜青果を食して膳とし、渇けば灌愁海の水を飲んで湯とした。ただ未だ灌漑のに報いていなかったので、体中気がふさぎ、悶々としていた。ちょうどこの神瑛の従者が下界への思いが俄かに激しくなり、この昌明太平の世に下界に降りて、幻の縁(えにし)を経験したいと思い、警幻仙子の所に行って届け出をした。警幻が質問をしていくと、灌漑の情がまだ償われておらず、この機会にそれを精算することにした。かの絳珠仙子が言うには、「あの方に甘露の恵をいただいたが、私はこの水をお返しすることはできません。あの方が下界に降りて人間になられるなら、私も下界に行って人となり、私の一生の涙でもってお返しすれば、あの方に償ったことになりましょう。」このことで、多くの色ごとの仇役が呼び出され、彼らといっしょにこの事件を解決に行くことになったのである。」
● 五内 wu3nei4 五臓
● 郁結 yu4jie2 気がふさぎ、晴れ晴れしない
● 纏綿 chan2mian2 まとわりつく
● 昌明 chang1ming2 政治や文化が盛んである。繁栄している
● 下凡 xia4fan2 神仙が下界に下りる
● 造歴幻縁 zao4li4huan4yuan2 幻の縁(えにし)を経験する

那道人道:“果是罕聞.実未聞有還涙之説.想来這一段故事,比歴来風月事故更加瑣砕細膩了。”那僧道:“歴来几个風流人物,不過伝其大概以及詩詞篇章而已,至家庭閨閣中一飲一食,総未述記.再者,大半風月故事,不過偸香窃玉,暗約私奔而已,并不曾将儿女之真情発泄一二.想這一干人入世,其情痴色鬼,賢愚不肖者,悉与前人伝述不同矣。”
[訳]その道士が言うには、「確かに聞いたことのない話だ。涙で償うというのは聞いたことがない。思うにこのお話は、これまでの色ごとの事件に比べこまごまとしてわずらわしいようだが。」その僧侶は言った。「これまでの何人かの色恋沙汰になった人物は、そのことの大筋と詩や文章が伝わっているだけで、家庭の閨房での一飲一食のことは、述べられていない。また、大半の色ごとの話は、香や玉を盗んだとか、示し合わせて駆け落ちしたとかいうことばかりで、若い男女の本当の気持ちは少しも表わされていない。思うに今回一群の人が下界に降り、その情痴色鬼、賢愚不肖なるは、悉く前人の伝述とは異なりましょう。」

那道人道:“趁此何不你我也去下世度脱几個,豈不是一場功?”那僧道:“正合吾意,你且同我到警幻仙子宮中,将蠢物交割清楚,待這一干風流孽鬼下世已完,你我再去.如今雖已有一半落塵,然猶未全集。”道人道:“既如此,便随你去来。”
[訳]その道士が言うには、「この機会に我々もいっしょに下界に降り、済度し解脱するというのも、功徳になるのではありますまいか。」僧侶が言うには、「私もそう思う。いっしょに警幻仙子の宮中に行き、やくざものをきっちり受け渡したら、これらの色恋沙汰の亡霊たちが皆下界に降りてしまってから、私たちも行くとしよう。今はもう半分くらいが浮世に下ったが、まだ全員がそろっていないので。」道士は言った。「そういうことなら、あなたといっしょに行くことにしよう。」
● 度脱 du4tuo1 済度し解脱する
● 交割 jiao1ge1 受け渡し。決済
● 孽鬼 nie4gui3 よこしまな亡霊
● 落塵 luo4chen2 浮世に下りる

却説甄士隠俱聴得明白,但不知所云“蠢物”系何東西.遂不禁上前施礼,笑問道:“二仙師請了。”那僧道也忙答礼相問.士隠因説道:“適聞仙師所談因果,実人世罕聞者.但弟子愚濁,不能洞悉明白,若蒙大開痴頑,備細一聞,弟子則洗耳諦聴,稍能警省,亦可免沈倫之苦。”二仙笑道:“此乃玄机不可預泄者.到那時不要忘我二人,便可跳出火坑矣。”士隠聴了,不便再問.因笑道:“玄机不可預泄,但適云‘蠢物’,不知為何,或可一見否?”那僧道:“若問此物,倒有一面之縁。”説着,取出逓与士隠.士隠接了看時,原来是塊鮮明美玉,上面字迹分明,鐫着“通霊宝玉”四字,后面還有几行小字.正欲細看時,那僧便説已到幻境,便強従手中奪了去,与道人竟過一大石牌坊,上書四个大字,乃是“太虚幻境”.両辺又有一幅対聯,道是:
[訳]はてさて甄士隠はすっかり聞いて理解したが、言われている「やくざもの」が何のことかわからない。思わず前に出て拝礼し、にっこり笑って聞いた。「おふたりの仙師に伺いたい。」かの僧侶、道士も急いで返礼して挨拶をした。士隠はそこで説明した。「ちょうど仙師が因果について話されているのを聞き、実に人の世ではめったに聞けないことでした。しかし私は愚鈍なので、はっきりとはわかりません。愚かさをさらけ出すようですが、一部始終をお聞かせいただけるなら、私は耳を洗って詳しく伺い、多少用心すれば、罪悪の泥沼にはまり込む苦しみから免れることもできるでしょう。」二人の仙人は笑って言った。「これすなわち玄妙の道理で、予め漏らすことはできぬ。その時に我々二人を忘れなければ、泥沼の状態から抜け出すことができましょう。」士隠は聞くと、これ以上問うことができず、笑って言った。「玄妙の道理は予め漏らせぬとのことですが、先ほど言われた「やくざもの」とはどういう物ですか。ひと目見せていただけませんか。」僧侶は言った。「この物のことを聞くのであれば、多少の縁(えにし)があるのであろう。」そう言うと、取りだして士隠に手渡した。士隠が受け取って見ると、それは美しい玉であり、その上には字迹も鮮やかに「通霊宝玉」の四文字が刻まれており、その後ろにも何行かの小さな文字があった。よく見ようとした時、僧侶は既に幻境に着いたと言うや、強引に手の中から奪い取り、道士と共に大きな石の牌楼を通り過ぎた。その牌楼には、上に「太虚幻境」の四文字が書かれ、両側には一幅の対聯があった。それには。次のように書かれていた:
● 洞悉 dong4xi1 はっきりわかる
● 大開痴頑 da4kai1chi1wan2 愚かさをさらけ出す
● 備細 bei4xi4 一部始終。詳細
● 諦聴 di4ting1 詳しく聞く
● 警省 jing3xing3 用心深い
● 沈倫之苦 chen2lun2zhi1ku3 罪悪の泥沼にはまりこむ苦しみ
● 玄机 xuan2ji1 (道教)玄妙な道理
● 預泄 yu4xie4 あらかじめ漏らす
● 火坑 huo3keng1 泥沼の生活

假作真時真亦假,無為有処有還無.
[訳]うそが真の時は真もまたうそであり、無が有になるところでは有は無に還る

士隠意欲也跟了過去,方挙歩時,忽聴一声霹靂,有若山崩地陷.士隠大叫一声,定睛一看,只見烈日炎炎,芭蕉冉冉,所夢之事便忘了大半.又見奶母正抱了英蓮走来.士隠見女儿越発生得粉粧玉琢,乖覚可喜,便伸手接来,抱在懐内,斗他頑耍一回,又帯至街前,看那過会的熱鬧.方欲進来時,只見従那辺来了一僧一道:那僧則癩頭跣脚,那道則跛足蓬頭,瘋瘋癲癲,揮霍談笑而至.及至到了他門前,看見士隠抱着英蓮,那僧便大哭起来,又向士隠道:“施主,你把這有命無運,累及爹娘之物,抱在懐内作甚?”士隠聴了,知是瘋話,也不去睬他.那僧還説:“舍我罷,舍我罷!”士隠不耐煩,便抱女儿撤身要進去,那僧乃指着他大笑,口内念了四句言詞道:
[訳]士隠はついて行こうと思い、足を上げた時、突然雷鳴が聞こえ、山が崩れ地面が陥没したようで、士隠が大声をあげたところ、ふと目覚めて、見てみると、太陽がかんかん照りつけており、芭蕉はしなやかに垂れ、夢で見たことは大半を忘れてしまった。乳母が英蓮を抱いてやって来るのが見えた。士隠は娘が白粉を塗り玉を磨いたように真っ白な肌に育っているのを見ると、おりこうさんで好ましく、手を伸ばして英蓮を乳母から受け取ると、胸の中に抱きかかえ、ひとしきり遊ばせると、彼女を連れて通りの方へ行ったところ、そちらはたいへんにぎやかであった。ちょうど通りに出ようとしたところ、あちらから僧侶と道士が歩いて来た。僧侶はかさぶた頭で髪は抜け、はだしで、道士はびっこをひいて髪はぼうぼう、きちがいじめた様子で、盛んにぺちゃくちゃしゃべりながらやって来た。彼らの前までやって来て、士隠が英蓮を抱いているのを見ると、僧侶は大声で泣き出し、士隠に言った。「旦那さま、あなたはこの不幸な星の下に生まれた、災いが父母に及ぶ物を、胸に抱いてどうするのですか。」士隠はそれを聞くと、でたらめな話と思い、相手にしなかった。僧侶はまた言った。「捨てておしまいなさい、捨てておしまいなさい。」士隠はがまんできず、娘を抱いてうしろを向いて立ち去ろうとすると、僧侶は彼を指さして大笑いすると、口の中で四句のことばを念じて言った:
● 霹靂 pi1li4 雷
● 定睛 ding4jing1 ひとみを凝らす。じっと見る
● 炎炎 yan2yan2 太陽がかんかん照りつける様
● 冉冉 ran3ran3 しなやかに垂れる
● 粉粧玉琢 fen3zhuang1yu4zhuo2 おしろいを塗り玉を磨いた(ように真白)
● 乖覚可喜 guai1jue2ke3xi3 賢く喜ばしい
● 斗 dou4 手合わせをする
● 頑耍 wan2shua3 遊ぶ
● 過会 guo4hui4 たいへん
● 癩頭跣脚 lai4tou2xian3zu2 かさぶた頭で髪の毛も抜け、はだしで
● 跛足蓬頭 bo3zu2peng2tou2 びっこで髪はぼうぼう
● 瘋瘋癲癲 feng1fengdian1dian きちがいじみている
● 揮霍 hui1huo4 金銭を湯水のように使う。動作が敏捷である
● 施主 shi1zhu3 施主。檀家。僧侶が在家の人に対し用いる呼び方
● 有命無運 you3ming4wu2yun4 不幸な星の下に生まれた
● 爹娘 die1niang2 父母。両親
● 睬 cai3 相手にする

慣養嬌生笑你痴,菱花空対雪澌澌.好防佳節元宵后,便是煙消火滅時.
[訳] 甘やかされて大きくなり、おまえの愚かさを笑う。菱の花は空しく対し、雪はしんしんと降る。なんぞ防げよう、佳節元宵の後、煙消火滅の時を。
● 慣養嬌生 guan4yang3jiao1sheng1 =嬌生慣養:甘やかされて大きくなる
● 菱花 ling2hua1 “菱”は英蓮の後の名“香菱”を指す
● 雪澌澌 xue3si1si1 “雪”は“薜”と諧音(音が同じ、もしくは似ている)で、英蓮の薜家での悲惨な運命を暗示する。“澌澌”雪がしんしんと降る
● 好防 hao3fang2 なんぞ防げようか

 さて、お話は甄士隠の家族に巻き起こる不幸、娘の英蓮の将来の暗い宿命を暗示しつつ展開しますが、続きは次回とさせていただきます。

紅楼夢 第一回を読む (その2)

2009年10月24日 | 紅楼夢
紅楼夢 第一回 (その二)

前回、浮世に降りて様々な人生模様を経験した石は、また元の青梗峰のふもとに戻ります。今回は、その続きを読んでいきます。

后来,又不知過了几世几劫,因有个空空道人訪道求仙,忽従這大荒山無稽崖青梗峰下経過,忽見一大塊石上字迹分明,編述歴歴.空空道人乃従頭一看,原来就是無材補天,幻形入世,蒙茫茫大士,渺渺真人携入紅塵,歴尽離合悲歓炎凉世態的一段故事.后面又有一首偈云:
[訳]その後、何世何劫(ごう)過ぎたか知らないが、空空道人という人が道を求め仙人になる修業のため、偶然にこの大荒山無稽崖青梗峰の下を通り過ぎ、ふと大きな石の上の文字がはっきりと書かれており、お話がひとつひとつ述べられているのを見た。空空道人はそこで最初から一読したところ、才がなく天を繕うことができなかったが、形を変え人間社会に入り、茫茫大士、渺渺真人に連れられ浮世に入り、離合集散、悲しみや歓び、移ろいやすい人情を経験し尽くした物語であり、後に一首の偈(げ)が書かれ、それが言うには;
● 字迹 zi4ji4 筆跡。文字
● 茫茫 mang2mang2 広々として、果てしがない
● 渺茫 miao3mang2 渺茫(びょうぼう)とする。ぼんやりして、はっきりしないこと。
● 炎凉 yan2liang2 暑さと涼しさ→人情の移り変わりの激しさのたとえ。相手の地位などが変わるとすぐに態度を変えること
[例]人情冷暖,世態炎凉:人情は変わりやすく、世間は薄情なものだ
● 偈 ji4 偈(げ)。仏の教えを詩の形で述べたもの

(以下、偈の内容)
無材可去補蒼天,枉入紅塵若許年.
[訳]才無く蒼天を繕いにゆくことなく、いたずらに浮世に入ること若干年。
● 枉 wang3 むだに。いたずらに

此系身前身后事,倩誰記去作奇伝?詩后便是此石墜落之郷,投胎之処,親自経歴的一段陳迹故事.其中家庭閨閣瑣事,以及閑情詩詞倒還全備,或可適趣解悶,然朝代年紀,地與邦国,却反失落無考.
[訳]これは我が身の前世のことを後に記したものだが、はて誰に頼んでこのような伝奇小説としたものだろう。詩の後が、この石が降り立った町、生まれ変わった所のことや、自ら経験した事跡の物語である。その中には家の閨房での些細な事や、なぐさみの詩が全て揃っており、或いは暇つぶしに適しているかもしれないが、いつの王朝のことか、年代や、場所、どこの国(地方)でのことか、その考察が抜け落ちていた。
● 倩 qian4 人に頼み。代わりに
● 投胎 tou2tai1 生まれる(人間が死後、その霊魂が母胎に入り、もう一度生まれる)
● 陳迹 chen2ji4 昔の事柄。過ぎ去った事柄。古い記憶
● 瑣事 suo3shi4 こまごまとした事

空空道人遂向石頭説道:“石兄,你這一段故事,据你自己説有些趣味,故編写在此,意欲問世伝奇.据我看来,第一件,無朝代年紀可考,第二件,并無大賢大忠理朝廷治風俗的善政,其中只不過几个異様女子,或情或痴,或小才微善,亦無班姑,蔡女之能.我縦抄去,恐世人不愛看呢。”
[訳] 空空道人はそこで石に言うには、「石さん、この物語は、あなたが言うにはおもしろいので、ここに書き記し、伝奇小説として世に問いたいとのことですが、私が見たところ、第一に、いつの王朝のことか年代が考察できません。第二に、大賢大忠が朝廷を管理し風俗を治める善政をしたことが書かれておらず、ただ何人かの変わった女性の痴情のこと、或いは小才微善のことしか書かれておらず、班姑、蔡女のような徳のある人のことも書かれていません。私はよしんばこのまま書き写して世に問うても、世間の人々が読んでくれないのではないかと思いますが。」
● 班姑、蔡女 二人の歴史上の才女。班姑:班昭のこと。後漢の人で、兄、班固は歴史書《漢書》を著した。班姑は後漢の宮中に出入りし、皇后や女官達に書を教え、女性に対する教育書、《女戒》を著した。 蔡女:蔡文姫。後漢末~三国時代の人。本名は蔡琰。琴の名手。父親の蔡邕は曹操の親友である。23歳の時、匈奴に拉致され、左賢王・納の王妃にされ、南匈奴に居ること12年。このことを知った曹操が建安十三年(208年)に使者を派遣し、黄金千両、白壁一双で以て魏に連れ戻した。その後、董祀の妻となり、娘は晋の司馬懿の息子の司馬師の妻となった。

石頭笑答道:“我師何太痴耶!若云無朝代可考,今我師竟假借漢唐等年紀添綴,又有何難?但我想,歴来野史,皆蹈一轍,莫如我這不借此套者,反倒新奇別致,不過只取其事体情理罷了,又何必拘拘于朝代年紀哉!
[訳]石は笑って言った・「わが師はなんとばかなことをおっしゃるのか。もしいつの時代のことかわからないとおっしゃるなら、先生が仮に漢や唐の年代をつけて文を綴ることは、別に難しくもござりますまい。けれど私が思いますに、これまで野史(私撰の歴史書)は皆同じ過ちを犯しており、私は同じ轍を踏まないよう、また却って変わっていて気が利いており、事の事情と情理を言っているだけなので、どうして王朝や年代にこだわる必要があるだろう。
● 蹈一轍 [類]重蹈覆轍 chong2dao3fu4zhe2 覆轍(ふくてつ)を踏む。同じ過ちを繰り返す
● 別致 bie2zhi4 奇抜である。ちょっと気が利いていて趣がある

再者,市井俗人喜看理治之書者甚少,愛適趣閑文者特多.歴来野史,或訕謗君相,或貶人妻女,奸淫凶悪,不可勝数.更有一種風月筆墨,其淫穢汚臭,屠毒筆墨,壊人子弟,又不可勝数.至若佳人才子等書,則又千部共出一套,且其中終不能不渉于淫濫,以致満紙潘安,子建,西子,文君,不過作者要写出自己的那両首情詩艶賦来,故假擬出男女二人名姓,又必旁出一小人其間撥乱,亦如劇中之小丑然.
[訳]また、市井の俗人で理治の書を読むのが好きな者はごく少なく、手慰みの文章を好む者は多く、これまでの野史は君主の悪口を言ったり、人妻をけなしたり、みだらで凶悪なものは、数えきれないほど多い。さらにある種の色ごとの文章は、みだらで汚らわしく、有害な文章で、若者に悪い影響を与えるものも、数えきれない程多い。佳人才子等の書は、皆同じような調子であり、その中で遂にはみだらな行いにかかわらざるを得ず、紙面中が潘安、子建、西子、文君といったお決まりの人物の話となり、作者は自分の情詩艶賦を書いては、仮に男女二人の名前になぞらえ、また傍からは小人が間に入って来て、劇中の道化のような役回りをすることになるのである。
● 訕謗 shan4bang4 皮肉を言い、悪口を言う
● 奸淫 jian1yin2 みだらな
● 不可勝数 bu4ke3sheng4shu4 数えきれない
● 淫穢 yin2hui4 淫猥である。みだらである
● 千部共出一套 qian1bu4gong4chu1yi1tao4 =千部一腔 qian1bu4yi4qiang1 皆同じ調子である
● 淫濫yin2lan4 みだらな行いであふれる
● 潘安 潘岳。西晋時代の文学家。一般に中国第一の美男子として知られ、,「貌若潘安」というのは、中国人の男性の容姿への最高の褒め言葉。
● 子建 曹植。三国時代の魏の人で、曹操の妻・卞氏が生んだ第三子。詩才があったが、兄・曹丕に疎まれ、罪に落され殺害された。
● 西子 西施のこと。西施、王昭君、貂蝉、楊玉環は中国古代の四大美人と呼ばれ、西施はその第一で、美人の代名詞。
● 文君 卓文君。前漢時代の才女。富豪・卓王孫の娘で、文人・司馬相如と駆け落ちをした。後、相如の心変わりを怒って《白頭吟》を作った。
● 艶賦 yan4fu4 なまめかしい賦(詩)
● 抜 bo1 こじ入れる
● 小丑 xiao3chou3 道化

且鬟婢開口即者也之乎,非文即理.故逐一看去,悉皆自相矛盾,大不近情理之話,竟不如我半世親睹親聞的這几个女子,雖不敢説強似前代書中所有之人,但事迹原委,亦可以消愁破悶,也有几首歪詩熟話,可以噴飯供酒.
[訳]かつ女が口を開いてぶつぶつ言うのは、文でなければ理であり、ひとつひとつ見ていくと、皆相矛盾しており、たかだか情理の話に過ぎず、私がこの半生で自ら見聞きした数人の女性にも及ばない。前の時代の書物の中の人物よりましだとはよう言わないが、事跡や事の顛末は、憂いを消しうさを晴らすことができ、またたわむれに書いた詩やよく知られた話もあり、おかしくて吹き出したり酒の肴にすることができるのである。
● 鬟 huan2 婦人の結い髪
● 婢 bi4 はしため。下女
● 大不近 da4bu4jin4 =大不了
● 半世 ban4shi4 半生
● 強似 qiang2si4 ~よりましである
● 原委 yuan2wei3 事の顛末
● 歪詩 wai1shi1 たわむれに書いた詩
● 噴飯 pen4fan4 (むせて口の中のご飯を吹き出す)吹き出す。失笑する

至若離合悲歓,興衰際遇,則又追踪躡迹,不敢稍加穿鑿,徒為供人之目而反失其真伝者.今之人,貧者日為衣食所累,富者又懐不足之心,縦然一時稍閑,又有貪淫恋色,好貨尋愁之事,那里去有工夫看那理治之書?所以我這一段故事,也不愿世人称奇道妙,也不定要世人喜悦検読,只願他們当那醉淫飽卧之時,或避世去愁之際,把此一玩,豈不省了些寿命筋力?
[訳]離合集散、悲喜こもごも、興隆衰退のめぐりあわせの如きは、事跡を追求し、敢えて多少のこじつけをするようなことはせず、ただ人の目に供すると、却ってその真意を伝えることができない。今の人は、貧しきは日々衣食の蓄積を思い、富める者も懐の不足を思い、たとえ一時のちょっとした暇にも、淫らなことや色恋沙汰を追い求め、良い品物の事を心配しており、どこに時間があってどのような理治の書を読むというのだろうか。したがって私のこの物語では、世人に珍しいことや不思議なことを説こうとは思わず、必ずしも世人に喜んで読んでもらおうとは思わず、ただ人々が酒を過ごし満腹で横になった時に、或いは世間を避けて憂いを晴らす際に、これをご覧いただけば、寿命を延ばし緊張を緩めないことがありましょうか。
● 際遇 ji4yu4 (主としてよい)めぐりあわせ
● 追踪躡迹 zhui1zong1nie4ji4 =按迹循踪 事跡に基づく
● 穿鑿 chuan1zao2 こじつける
● 縦然 zong4ran2 たとえ~としても

就比那謀虚逐妄,却也省了口舌是非之害,腿脚奔忙之苦.再者,亦令世人換新眼目,不比那些胡牽乱扯,忽離忽遇,満紙才人淑女,子建文君紅娘小玉等通共熟套之旧稿.我師意為何如?”
[訳]かのうそ偽りの追及に比べれば、ことばから起こるいざこざや、それにより忙しく走り回る苦しみを省くことができます。また、世人の目先を換えることは、あのでたらめにこじつけ、離合集散し、どの頁も才人淑女、子建、文君、紅娘、小玉といった誰でも知っている陳腐な話とは比べものにならないでしょう。我が師のご意見は如何でありましょう。
● 謀虚逐妄 mou3xu1zhu2wang4 うそ偽りを求める
● 口舌是非 kou3she2shi4fei1 おしゃべりから起こるいざこざ
● 腿脚奔忙 tui3jiao3ben1mane2 忙しく走り回る。東奔西走する
● 紅娘 《西廂記》に登場する主要人物の一人で、聡明な侍女

空空道人聴如此説,思忖半晌,将《石頭記》再検閲一遍,因見上面雖有些指奸責佞貶悪誅邪之語,亦非傷時罵世之旨,及至君仁臣良父慈子孝,凡倫常所関之処,皆是称功頌,眷眷无窮,実非別書之可比.雖其中大旨談情,亦不過実録其事,又非假擬妄称,一味淫邀艶約,私訂偸盟之可比.因毫不干渉時世,方従頭至尾抄録回来,問世伝奇.従此空空道人因空見色,由色生情,伝情入色,自色悟空,遂易名為情僧,改《石頭記》為《情僧録》.東魯孔梅溪則題曰《風月宝鑑》.后因曹雪芹于悼紅軒中披閲十載,増刪五次,纂成目録,分出章回,則題曰《金陵十二釵》.并題一絶云:
[訳]空空道人はこれを聞くと、しばらく思案していたが、《石頭記》をもう一度検討しつつ読み進めた。内容には悪賢い立ち回りのうまい者を責め、悪を貶め邪を懲らしめる言葉があるが、時世を批判するような趣旨ではないし、君子の仁、家臣の良、父の慈しみ、子の孝に至っては、凡そ人倫の道の関わる処であり、皆功や徳を誉め称え、深い思いやりの気持ちは、他の書の比ではない。その中には大いに愛情を語っているところがあるが、その事実を記録しているに過ぎず、想像をたくましくして、ひたすら淫らなことを追い求め、色ごとを誘い、人目を盗んで契を結ぶものとは比べられない。少しも時世を干渉するものでないので、最初から終わりまで書き写し、世にこの伝奇を問うことにした。これより空空道人は空により色を見、色により情を生じ、情を伝って色に入り、色より空を悟り、遂に名を改め情僧とし、《石頭記》を改め《情僧録》とした。東魯の孔梅溪は《風月宝鑑》と題した。後に曹雪芹が悼紅軒に於いて書をひも解くこと十年、添削すること五度、目録を編纂し、章回に分け、《金陵十二釵》と題した。さらに一絶を題して云うには:
● 思忖 si1cun4 思案する
● 半晌 ban4shang3 やや久しく
● 検閲 jian3yue4 検討しつつ読む
● 奸佞 jian1ning4 卑屈でごますりをする(人)
● 倫常 lun2chang2 人倫の道
● 眷眷 juan4juan4 懇ろに思う。深く思いやる
● 一味 yi1wei4 ひたする。一途に
● 披閲 pi1yue4 =披覧:書籍を開けてみる
● 増刪 zeng1shan1 添削する
● 纂 zuan3 編纂する

満紙荒唐言,一把辛酸涙! 都云作者痴,誰解其中味?
[訳]満紙 荒唐の言、一把 辛酸の涙。皆云う作者は痴なりと、誰か知るその中味を。
(文章全体、荒唐無稽の言葉で満ちている。辛酸の涙が溢れる。皆が作者は気が狂っていると言うが、この文の真の意味を理解している者は誰もいない)

出則既明,且看石上是何故事.按那石上書云:
[訳]文の出処は明らかになった。はてさて石の上にはどのような物語が書かれていたのか。石の上の書によれば……

これより話の舞台は下界に降り、様々な登場人物が出てくることになります。ここから先は、次回に見ていきましょう。

紅楼夢を読む

2009年10月18日 | 紅楼夢
 紅楼夢を読んでみましょう。紅楼夢は中国の清代に書かれた小説で、栄国府の貴公子、賈宝玉と林黛玉ら十二人の美女との関わり、栄国府と寧国府というふたつの名家の盛衰を描いたもの、というと、日本の源氏物語のようですが、そういう男女の掛け合いの要素意外に、中国の貴族文化華やかなりし時代の風俗習慣が反映されており、歴史や文化の研究の参考にもなります。
 現代中国語ではあまり使わないことばが出てきたり、詩やかけことばが使われたりするので、読むのはたいへんですが、すこしずつ、いっしょに読んでいきましょう。

第一回  甄士隠夢幻識通霊 賈雨村風塵懐閨秀
[訳]甄士隠は夢に通霊に通じ、賈雨村は風塵に閨秀を懐う
● 甄士隠 zhen1shi4yin3 は、「真事隠」(真実を隠す)と音が同じ。
● 通霊 tong1ling2 消息によく通じている
● 賈雨村 jia3yu3cun1は「假語村」と音が同じで、「假語村言」(うそや野卑なことば)に通じる
● 風塵 feng1chen2 乱世。浮世
● 閨秀 gui1xiu4 名家の娘

 此開卷第一回也.作者自云:因曾歴過一番夢幻之后,故将真事隠去,而借"通霊"之説,撰此《石頭記》一書也.故曰"甄士隠"云云.
[訳]これは開巻第一回である。作者自ら曰く:嘗て夢、幻のような世の中を経験したので、真実を隠していたが、消息に通じていることを頼みに、この《石頭記》なる一書を撰した。ゆえに「甄士隠」云々と言うのである。

 但書中所記何事何人?自又云:"今風塵碌碌,一事無成,忽念及当日所有之女子,一一細考較去,覚其行止見識,皆出于我之上.
[訳]しかし書中に書いたのは誰のどういう事跡であろうか?自らまた言う。今、浮世であくせく働くも、何事も成し遂げられない。ふと嘗て会った女性達のことに思い廻り、ひとりひとり思い出して比較してみると、その品行や見識は皆、私などよりずっとりっぱであった。
● 碌碌 lu4lu4 あくせく働く
● 一事無成 yi1shi4wu2cheng2 何事も成し遂げられない
● 行止見識 xing2zhi3jian4shi2 品行や見識

 何我堂堂須眉,誠不若彼裙釵哉?実愧則有余,悔又無益之大無可如何之日也!
[訳]私はこのようにりっぱな髭と眉を蓄えた偉丈夫であるのに、誠にかの女性達にも及ばないとは。実に恥ずかしくてたまらず、悔やんでも如何ともし難い。
● 堂堂 tang2tang2 堂々とした
● 須眉 xu1mei2 ひげとまゆ。堂堂須眉でりっぱな男子の意味。
● 裙釵 qun2chai1 スカートとかんざし。女性のこと。
● 無可如何 wu2ke3ru2he2 =無可奈何 どうしようもない

 当此,則自欲将已往所頼天恩祖,錦衣紈絝之時,飫甘饜肥之日,背父兄教育之恩,負師友規談之,以至今日一技無成,半生潦倒之罪,編述一集,以告天下人:我之罪固不免,然閨閣中本自歴歴有人,万不可因我之不肖,自護己短,一并使其泯滅也.
[訳]ここに、自ら嘗て天の恩、祖先の徳を頼みに、華美な服装をし、美食三昧の日々、父母兄弟の教育の恩に背き、師や友人の忠告に背き、今日に至るも一技も成せず、やがて落ちぶれた罪を、一冊の本にまとめ、天下の人々に告げるものである。私の罪は固より免れないが、閨房には一人一人りっぱな女性がいたのであり、私が愚かで、自分の落ち度をかばったとしても、それといっしょに彼女たちの功績を消し去ってはならない。
● 紈絝 wan3ku4 絹のズボン。華美な服装のこと
● 飫 yu4 満腹になる
● 饜 yan4 満腹する
● 潦倒 liao2dao3 落ちぶれる
● 閨閣 gui1ge2 =閨房。女性の寝室
● 歴歴 li4li4 一つ一つはっきりと
● 不肖 bu4xiao4 不肖。愚か
● 泯滅 min3mie4 消えてなくなる

 雖今日之茅椽蓬牖,瓦灶縄床,其晨夕風露,階柳庭花,亦未有妨我之襟懐筆墨者.雖我未学,下筆無文,又何妨用假語村言,敷演出一段故事来,亦可使閨閣昭伝,復可悦世之目,破人愁悶,不亦宜乎?"故曰"賈雨村"云云.
[訳]今日のあばらや、侘び住まいも、朝夕は涼しい風も吹き露の潤いもあり、庭には草花が茂っているが、かといって私の胸中の思いを書きだすのを妨げるものではない。私は学問も無く、筆を取っても何も書けないが、野卑なことばで、物語を語るのを妨げはしない。閨房のことをあからさまに伝え、世間の目を悦ばせ、人の憂いを慰めるのも、良いではないか。それゆえ「賈雨村」云々と言うのである。
● 茅椽蓬牖 mao2chuan2peng2you3 カヤの垂木とヨモギの窓。あばらやを表す
● 瓦灶縄床 wa3zao4sheng2chuang2 素焼きの竈に縄のベッド(ハンモック)。貧しい住まいを表す
● 襟懐 jin1huai2 胸中
● 假語村言 jia3yu3cun1yan2 うそや野卑なことば
● 敷演 fu1yan3 敷衍する。わかりやすく説明する
● 昭 zhao1 あからさまに

 此回中凡用“夢”用“幻”等字,是提醒閲者眼目,亦是此書立意本旨. 列位看官:你道此書従何而来?説起根由雖近荒唐,細按則深有趣味.待在下将此来歴注明,方使閲者了然不惑.
[訳]今回、よく「夢」や「幻」の字を用いるのは、読者に注意を促しており、これもこの本の着想の本旨である。お聴きの皆さん、この本はどこから来たとお考えか。根本を説けば荒唐無稽に近いが、細かく見れば深く味わいがある。以下にこの来歴に注釈を加えれば、読者の皆さんにもよくわかり、戸惑うことがないだろう。
● 看官 kan4guan1 お聴きの皆さん

 原来女媧氏煉石補天之時,于大荒山無稽崖煉成高十二丈,見方二十四丈頑石三万六千五百零一塊.媧皇氏只用了三万六千五百塊,只単単剩了一塊未用,便棄在此山青梗峰下.誰知此石自経鍛錬之后,霊性已通,因見衆石俱得補天,独自己無材不堪入選,遂自怨自嘆,日夜悲号慚愧.
[訳]もともと女媧氏が石を鍛練し天を繕った時、大荒山無稽崖で高さ十二丈、四方が二十四丈の石ころ三万六千五百と一個を鍛練した。媧皇氏は三万六千五百個だけ用い、ただ一個だけ使わずに残し、この山の青梗峰の下に棄て置いたが、誰知ろう、この石は自ら鍛練し、霊性已に通じ、多くの石が皆天を繕うのに用いられ、ただ自分だけが才能が無く選ばれなかったことから、自分を恨み嘆き悲しみ、日夜号泣し恥じていた。
● 女媧 nv3wa1 女媧。中国の伝説上の皇帝で、伏義の妹。人面蛇身
● 煉 lian4 鍛錬する
● 見方 jian4fang1 四方
● 頑石 wan2shi2 石ころ

 一日,正当嗟悼之際,俄見一僧一道遠遠而来,生得骨骼不凡,豊神迥異,説説笑笑来至峰下,坐于石辺高談快論.
[訳]ある日、正に嘆き悲しんでいると、俄かに(仏教の)坊さんと道師(道教の坊さん)が遠くからやって来た。体つきが普通でなく、風采も他と異なり、談笑しながら峰の下まで来て、石の横に座ると大いに弁舌を振るった。
● 嗟悼 jie1dao4 嘆き悲しむ
● 俄 e2 にわかに
● 骨骼 gu3ge2 骨格
● 豊神 feng1shen2 =豊采、豊姿: 風采。容姿
● 迥異 jiong3yi4 =迥別 大いに異なる
● 高談快論 gao1tan2kuai4lun4 =高談闊論: 大いに弁舌を振るう。大いに議論をする

 先是説些雲山霧海神仙玄幻之事,后便説到紅塵中栄華富貴.
[訳]先ずは雲山霧海神仙玄幻の仙界の事を言い、その後は俗世間の栄華富貴の事に話が及んだ。
● 紅塵 hong2chen2 浮世。俗世間

 此石聴了,不覚打動凡心,也想要到人間去享一享這栄華富貴,但自恨粗蠢,不得已,便口吐人言,向那僧道説道:“大師,弟子蠢物,不能見礼了.
[訳]この石は聞いていたが、思わず俗念を動かし、人の世に行ってこの栄華富貴を味わいたいと思ったが、自分ががさつ者であるので、如何ともし難く、口から人のことばを吐き、その坊さんと道師に言った。「師匠、拙者はがさつ者ゆえ、お辞儀もできません。
● 凡心 fan2xin1 俗念
● 蠢物 chun3wu4 がさつ者

 適聞二位談那人世間栄耀繁華,心切慕之.弟子質雖粗蠢,性却稍通,况見二師仙形道体,定非凡品,必有補天済世之材,利物済人之.
[訳]ちょうどお二人が人の世の栄耀繁華をお話になるのを聞き、羨ましくてならなかったのです。拙者はがさつ者ですが、多少は霊に通じており、ましてやお二人は仙形道体で、普通の方ではないとお見受けしました。必ずや補天済世の人材であり、利物済人の徳をお持ちのはず。

 如蒙発一点慈心,携帯弟子得入紅塵,在那富貴場中,温柔郷里受享几年,自当永佩洪恩,万劫不忘也。”
[訳]もし多少のお慈悲を以て、拙者を浮世にお連れいただき、かの富貴の場で、ぬくぬくと何年か楽しむことができましたら、その大恩に永遠に敬服し、決して忘れるものではございません。
● 万劫不忘 wan4jie2bu4wang4 永遠に忘れない。
 *仏教では、世界の生成から壊滅までの過程を「一劫」(ごう)という

 二仙師聴听畢,斉憨笑道:“善哉,善哉!那紅塵中有却有些楽事,但不能永遠依恃,况又有‘美中不足,好事多魔’八个字緊相連属,瞬息間則又楽極悲生,人非物換,究竟是到頭一夢,万境帰空,倒不如不去的好。”
[訳]二人の仙師はそれを聞くと、けたけた笑って言った。「善哉,善哉!かの浮世には確かに楽しい事があるが、それを永遠に頼みとすることはできない。ましてや「美中不足、好事多魔」(玉に瑕なり、好事魔多し)の八文字と密接に繋がっていて、あっという間に楽が極まり悲が生まれる。人は物のように取り換えることができないので、結局のところ、夢の世界に達するか、万事空(くう)に帰するか。まあ行かぬ方がよいじゃろう。
● 憨笑 han1xiao4 ばか笑いをする。
● 依恃 yi1shi4 頼みとする
● 物換 wu4huan4 [参考]物換星移 事物が変化し星が移る→月日が移り変わり、世の中の様相が変化する
● 到頭 dao4tou2 ぎりぎりのところまでいく。極限に達する

 這石凡心已熾,那里聴得進這話去,乃復苦求再四.二仙知不可強制,乃嘆道:“此亦静極慫級,無中生有之数也.既如此,我們便携你去受享受享,只是到不得意時,切莫后悔。“
[訳]この石の俗念は既に激しく、こう言っても言うことを聞かず、また頼むことしきり。二人の仙人はこれ以上強制できず、嘆いて言った。「これもまた静極まり慫となり、無に生ができる定めであろう。かくなる上は、おまえを連れて行って楽しむこととしよう。ただ、思うようにならなくとも、後悔するでないぞ。」
● 熾 chi4 盛んである。激しい
● 慫 song3 驚き恐れる
● 数 shu4 =天数:天の定め。運命

 石道:“自然,自然。”那僧又道:“若説你性霊,却又如此質蠢,并更無貴之処.如此也只好跕脚而已.也罷,我如今大施佛法助你助,待劫終之日,復還本質,以了此案.你道好否?”
[訳]石は言った。「当然ですとも。」その僧はまた言った。「もしおまえが霊に通じていると言っても、こんながさつ者で、それ以上優れたところが無いなら、こうして、びっこをひいているしかない。まあよかろう、私は今大いに仏法を施しおまえを助けたのだから、劫が終わるのを待って、根本に戻ったら、この件は終わりにしよう。それでよろしいかな。」
● 跕脚 dian3jiao3 びっこ(をひく)
● 也罷 ye3ba4 仕方がない。まあよかろう

 石頭聴了,感謝不尽.那僧便念咒書符,大展幻術,将一塊石登時変成一塊鮮明瑩潔的美玉,且又縮成扇墜大小的可佩可拿.
[訳]石はそれを聞くと、感謝に絶えなかった。その僧は念仏を唱え、幻術を施し、一個の石をたちまち透き通ってきれいな美玉に変え、大きさも扇子の柄に下げる飾りの大きさにまで小さくした。
● 登時 deng1shi2 たちどころに。たちまち
● 鮮明瑩潔 xian1ming2ying2jie2 透き通ってきれいな
● 扇墜 shan4zhui4 扇子の柄に下げる飾り
● 佩 pei4 ぶら下げる

 那僧托于掌上,笑道:“形体倒也是个宝物了!還只没有,実在的好処,須得再鐫上数字,使人一見便知是奇物方妙.然后携你到那昌明隆盛之邦,詩礼簪纓之族,花柳繁華地,温柔富貴郷去安身楽業。”
[訳]その僧は石を手のひらに載せ、笑って言った。「形は確かに宝物になった。しかしまだ何もない。本当の良いところは、まだ数や字を彫りこまなければならない。ひと眼で珍しいものとわかってこそ妙である。それからおまえを連れてあの繁栄栄華を誇る都へ行き、教養のある美しく着飾った人々や、色街や繁華な場所、やさしく富貴を誇る人々の所に身を落ちつかせ、楽しませることとしよう。」
● 托于掌上 tuo1yu2zhang3shang4 手のひらに載せる
● 鐫 juan1 彫る
● 昌明 chang1ming2 政治や文化が盛んである。繁栄している
● 隆盛 long2sheng4 勢いが盛んである。繁盛する
● 簪 zan1 かんざし
● 纓 ying1 冠のひも。装飾した房がついている
● 花柳 hua1liu3 色街。歓楽街

 石頭聴了,喜不能禁,乃問:“不知賜了弟子那几件奇処,又不知携了弟子到何地方?望乞明示,使弟子不惑。”
[訳]石はそれを聞くと、嬉しくてたまらず、質問した。「私にどのような珍しいことを授けていただけるのですか。どこに連れて行ってくれるのですか。どうか明かして、私が戸惑わないようにしてくれませんか。」

 那僧笑道:“你且莫問,日后自然明白的。”説着,便袖了這石,同那道人飄然而去,竟不知投棄何方何舍.
[訳]その僧は笑って言った。「聞くでない。そのうちわかることじゃ。」そう言うと、この石を袖の中にしまうと、道師といっしょに飄然と立ち去り、何処へ行ったか、遂にわからなかった。
● 袖 xiu4 袖の中に隠す

 このあと、また果てしもない年月が経ってから、青梗峰の下を空空道人という人が通りかかり、石の上に何やら字が書いてあるのを見つけ、その内容にいたく感心するのであるが、それはまた次回に読んでいきたい。

秦の始皇帝陵の考古学上の新発見

2009年10月16日 | 中国史
今回は考古学の話題である。

秦始皇陵園出土王子頭骨 有望模擬秦始皇
[訳]秦の始皇帝の陵墓地区から王子の頭骨が出土、秦の始皇帝のシミュレーションができるのではないかと期待される
2009年10月12日 出典:《華商報》

 自上世紀50年代,考古人員開始対陵園進行考古調査和勘探。
 [訳]1950年代から、考古学者は陵墓に対する考古調査と遺跡の探査を開始した。
 ● 勘探 kan1tan4 地下資源を調査する。探査する
 *1950年代、と言う場合、「上世紀50年代」という言い方をする。  

 この半世紀、発見された大型の建造物の遺構は十数か所、大型の陪葬坑、陪葬墓、墓の建設者の墓は600余り、出土文物は五万件、というから、大変なスケールである。 
 今回、秦の始皇帝の陵墓地区の出土品116件が展示された。

 記者邀請秦兵馬俑博物館副研究館員王芸掲開這些“精品”背后一個個神秘故事。
 [訳]記者は秦兵馬俑博物館の副研究館員の王芸yun2にこれら「選り抜きの出土品」の背後の神秘的な物語のひとつひとつを明らかにしてもらった。
 ● 掲開 jie1kai1 本を開ける。明らかにする

【銅の矢じりで射殺された王子】

 在116件展品中,唯一一件插銅鏃的顱骨引起了不少人的関注。
 [訳]116件の展示品の中で、銅の矢じりが突き刺さった頭がい骨が唯一、多くの人の注目を集めた。
 ● 鏃 zu2 矢じり
 ● 顱骨 lu2gu3 頭がい骨

 王芸説,該顱骨出土于陵園外城的上焦村。在上焦村考古人員共発現了17座陪葬墓。這些墓主人都是秦朝惨遭殺害的王子和公主,他們去世時大多僅有一二十歳。 
 [訳]王芸によれば、この頭がい骨は陵園の外城の上焦村で出土した。上焦村で、考古学者は全部で17基の陪葬墓を発見した。これらの墓の主は秦朝で惨殺された王子や王女であり、彼らはこの世を去る際、多くが僅か十~二十歳であった。

 此次展出的顱骨則可能為一王子在玩耍時,惨遭射殺。因為該顱骨的下顎骨向前凸出,表現出十分痛苦和驚恐的模様。根据目前的科技水平,人們可根据顱骨来模擬王子生前的模様,而王子与秦始皇必定有相似的地方,也可模擬出秦始皇的模様。
 [訳]今回展示された頭がい骨はおそらく、ひとりの王子が遊んでいる時、無残にも射殺されたのだろう。なぜならこの頭がい骨の下顎の骨が前に向って突き出されているからで、たいへん苦痛で恐怖にかられた様子が表れている。現在の科学レベルでは、人々は頭がい骨から王子の生前の様子をシミュレーションすることが可能であり、王子と秦の始皇帝はよく似たところがあったはずなので、秦の始皇帝の様子もシミュレーションできるかもしれない。
 ● 玩耍 wan2shua3 遊ぶ
 ● 下顎 xia4he2 下顎

 秦二世胡亥称帝登基后,将秦始皇的小王子和小公主們一一捕殺,有的被斬首示衆,有的被射殺。17座墓葬的発現,也為人們証明了2000多年前的那些血案。目前,少部分墓葬已被発掘,出土了不少文物精品,其中一件張口鼓目的銀蟾蜍,極其珍貴;還有一枚“栄禄”的印章,王芸推測可能当時有王子名叫“栄禄”。
 [訳]秦の二世の胡亥が皇帝を称して即位して後、秦の始皇帝の王子、王女はひとりひとり捕えられ殺され、中には斬首され公衆の面前に晒されたり、弓矢で射殺された者もいた。17基の墓の発見は、人々に2000年余り前のこれらの殺人事件を証明することでもある。現在、一部の墓は既に発掘され、多くの文物の逸品が出土している。その中に口を開き目をふくらませた銀のヒキガエルがあり、極めて貴重である。また、「栄禄」と彫られた印章があり、王芸は当時、王子の名が「栄禄」と呼ばれたのではないかと推測する。
 ● 登基 deng1ji1 即位する
 ● 墓葬mu4zang4 墓。古墳
 ● 血案 xue4an4 殺人事件
 ● 蟾蜍 chan2chu2 ヒキガエル
 ● 極其 ji2qi2 きわめて

【文官俑は袖手俑と改名された】

 在陵園発掘中,曽在K0006号坑中出土了8尊頭戴長冠,低眉,腰挂削及砥石(磨刀石)的立姿陶俑。在古代“削”就是小刀,用以刮掉竹簡上的字,専家推測,這些陶俑的作用是皇上如果有什麼旨意,他們馬上就会拿出竹簡,記載下来,如果写錯則立即会用“削”刮掉重写。
 [訳]陵園の発掘で、嘗てK0006号坑で8体の頭に長い冠を被り、眉毛が低く、腰に「削」と砥石をぶら下げた立ち姿の陶俑が出土した。古代の「削」とは小刀のことで、竹簡の文字を削って消すのに用いられた。専門家の推測では、これらの陶俑の役割は、皇帝が何か指図があれば、彼らは直ちに竹簡を取り出し、書き残し、もし書き間違えば直ちに「削」で削り消し、書き直すことであった。
 ● 尊 〔量詞〕大砲や仏像を数える。門、体。
 ● 砥石 di3shi2(=磨刀石mo2dao1shi2) 砥石
 ● 頷首 han4shou3 うなずく

 這些陶俑的発現一改以往兵馬俑皆“武”的模様,被人称為“袖手文官俑”。然而,這次在展出時却隠去“文官”字様。這是為何?王芸解釈説,在K0006号坑中,除了袖手俑外,還有御手俑,還有馬、車、銅鉞。文官俑的叫法引起了很大争議,也有人将其認為是司法人員,但都没有確定。這些陶俑不是武将,是不是文官難以確定,在此次展出中,因其双手均籠于袖中,故称其為袖手俑。
 [訳]これらの陶俑の発見はこれまでの兵馬俑は皆「武」の身なりであるというのを一変させ、「袖手文官俑」と呼ばれるようになった。しかし、今回の展示では「文官」の文字は隠し去られた。これはどうしてか?王芸の解説によれば、K0006号坑の中に、袖手俑の他、御者俑、馬、車、銅の鉞(まさかり)があるからである。文官俑の呼び方は大きな論争を巻き起こし、司法官ではないかと考える人もいるが、確定はしていない。これらの陶俑が武将でなければ、文官かどうかは確定し難く、今回の展示では、その両手を袖で覆っていることから、「袖手俑」としている。
 ● 模様 mu2yang4 容貌。格好。身なり
 ● 袖手 xiu4shou3 手を袖の中に入れていること。懐手。 
 *転じて、自ら手を下す労をいとい、何もしないこと
   →〔成語〕袖手傍観 手をこまねいて見ている
 ● 御手 yu4shou3 御者
 ● 鉞 yue4 まさかり
 ● 籠 long3 覆う。包む

【14面のさいころでどうやって遊ぶのか】

 在衆多文物中有一件小玩意——石博煢(qióng),与今天的骰子十分類似,却有14面,它出土于何処,是干什麼的呢?
 [訳]多くの文物の中に、小さなおもちゃ、石博煢がある。今日のさいころとたいへん似ているが、14面ある。これはどこで出土し、何に使われたのだろうか。
 ● 玩意 wan2yi4 おもちゃ
 ● 骰子 tou2zi さいころ

 秦の始皇帝はその陵園に内城と外城を作り、殿寝(御霊所)には正殿、偏殿があった。殿内には青石が敷かれ、たいへん凝っていた。正殿は始皇帝の霊魂が主に居るところであり、偏殿は霊魂が休息し遊ぶ場所であった。石博煢は偏殿で出土し、秦始皇が遊ぶためのものであった。このさいころは14面で、各面に一個の字が刻まれており、そのうち一面に「驕」、一面に「酉艮」、それ以外の12面には、順番に1から12までの数字が刻まれていた。

 専門家は、石博煢はさいころの雛型である可能性があると推測するが、14面のさいころをいったいどうやって遊ぶのか、またどのように進化発展して今日の6面になったのかは、知る由も無い(不得而知)。

【秦陵の第一の鼎は百戯俑の中に身を隠している】

 “鼎”在古代属于礼儀器物。在這116件(組)文物中,号称秦陵第一大鼎竟和雑耍陶俑一起組合展出,譲人疑惑。
 [訳]「鼎」は古代には儀礼をする器物であった。この116件(組)の文物中、秦陵第一の大鼎と称しながら、意外にも寄席演芸の陶俑といっしょに展示され、腑に落ちないように思われた。
 ● 雑耍 za2shua3 寄席演芸

 該大鼎号称秦陵第一大鼎,也是目前秦陵出土的唯一一個青銅大鼎,重約200多公斤。王芸解釈説,大鼎出土于百戯俑。百戯俑坑目前出土了10余件陶俑,陶俑挙止神態各異個個滑稽可笑。在衣着上,全部赤裸上身,有的還有“啤酒肚”,腰間系着小裙子,為当時雑耍打扮。縁何将有礼儀象征的大鼎埋于百戯俑坑?王芸推測説,秦始皇統一后,十分貶低原国家的礼儀,将鼎置于百戯俑坑。
 [訳]この大鼎は秦陵第一の大鼎と称し、また現在秦陵で出土した唯一の青銅の大鼎であり、重さは200キロ余りある。王芸の説明によれば、大鼎は百戯俑の坑内で出土した。百戯俑坑ではこれまで10数体の陶俑を出土し、陶俑の挙止ふるまいや表情は各々異なり、それぞれ滑稽で可笑しい。上着を着ている者、上半身が裸の者、中には「ビール腹」の者や、腰に小さなスカートをはいた者もあり、当時の寄席芸人の扮装をしている。何の由縁で儀礼の象徴である大鼎が百戯俑坑に埋められたのだろうか。王芸の推測によれば、秦の始皇帝の統一後、元の国の儀礼がたいへん低く評価され、鼎を百戯俑坑に置いたのではないか、ということである。
 ● 挙止 ju3zhi3 挙止。ふるまい
 ● 神態 shen2tai4 表情や態度。顔色
 ● 貶低 bian3di1 人に対する評価や物の値段を下げる

【金が無く罰金が払えず、陵墓の造営で弁済する】

 秦の始皇帝の陵墓建設の際、大量の建設労働者が日夜働き、多くの人がそのため陵園に葬られた。考古学者は陵園で多くの陵墓建設者の墓を発見した。これらはどういう人たちで、どのような由縁でここで働くことになったのだろうか。

 王芸説,修陵人共有三種人:一種是当時的工匠;一種是当時的囚犯,這些都可従一些囚所用的工具中看出;還有另外一種人則是“以工抵帳”的人,這部分人都是違反了当時的規章制度,需要罰款,但又無銭交罰款,没銭就被征来修陵,据史料記載,当時一個工是8銭,如果吃飯的話是6銭。
 [訳]王芸によれば、陵墓建設に三種類の人がおり、ひとつは当時の工匠である。ひとつは囚人であり、これらは拘禁に用いる工具から見てとれる。もうひとつは「労役で債務を弁済する」人で、こういった人は当時の規則や制度に違反し、罰金を払う必要があるが、金が無く罰金が払えず、金が無いので徴用されて陵墓の建設に来たのであり、史料の記載によれば、当時ひとりの工賃は8銭で、食事付きの場合は6銭であった。
 ● 抵帳 di3zhang4 債務を弁済する
 ● 規章制度 gui1zhang1zhi4du4 規則や制度。広く法律一般をいう

【石鎧甲坑の中は木の床板が敷かれていた】

 在展覧中,厚重的石盔甲、石頭盔引人駐足,這些鎧甲是当時戦士們所穿的嗎?
 [訳]展示の中で、重厚な石の甲冑、石の兜が人を引きつけ、足を止めさせた。これらの鎧は当時の戦士達が身に着けたものだろうか?
 ● 盔甲 kui1jia3 甲冑(かっちゅう)
 ● 頭盔 tou2kui1 兜(かぶと)
 ● 引人駐足 yin3ren2zhu4zu2 人を引きつけ、足を止めさせる 
 [類]引人注目 yin3ren2zhu4mu4 人目を引く;引人入勝 yin3ren2ru4zheng4 人を引きつけ夢中にさせる
 ● 鎧甲 kai3jia3 鎧(よろい)  

 王芸解釈説,此次展出的石鎧甲出土于石鎧甲坑,属于陪葬品,并們所穿戴。与其他陪葬坑底部鋪設青石不同的是,石鎧甲坑内均鋪有木地板,根据石鎧甲坑発現時的状態,這些鎧甲都是呈放射性,推断石鎧甲坑可能為甲衣庫,還有一件馬甲(馬穿的盔甲)。
 [訳]王芸の説明によれば、今回展示された石の鎧は石鎧甲坑より出土したが、陪葬品であり、人が身に着けるものではない。他の陪葬坑底部に青石が敷かれていたのと異なり、石鎧甲坑の中は木の床板が敷かれ、石鎧甲坑が発見された時の状態では、これらの鎧は放射状に置かれており、石鎧甲坑はひょっとすると鎧兜の倉庫であったのではないかと推断され、その他、馬の防具(馬が身に着けた甲冑)も一件あった。

 1974年、秦の兵馬俑坑の発見は世界を震撼させた。昨日、世界の八番目の奇跡と称えられる「秦の兵馬俑」は発見55周年を迎え、博物館の徽章が作られた。

 昨日、“秦兵馬俑発現35周年暨(ji4)秦兵馬俑博物館開館30周年紀念大会”(秦兵馬俑発見35周年、及び秦兵馬俑博物館開館30周年記念大会)が開催された。

 在紀念大会上,秦始皇兵馬俑博物館正式発布了館徽,該館徽将兵馬俑進行几何抽象,転化為点線面,毎一個俑被概括為圓点,集体的俑構成了面,衆多圓点類似于兵馬俑的方陣,而圓点則被一条弧線籠罩,弧線象征着広博的蒼穹和連綿起伏的驪山,也是博物館1号坑陳列大庁穹頂的象征。点陣外形設計酷似帝陵封土,又暗指兵馬俑博物館為秦始皇帝陵博物院的部分。
 [訳]記念大会で、秦始皇兵馬俑博物館は館徽(徽章)を公表した。この館徽は兵馬俑を幾何、抽象化し、線と面に変え、俑(土偶)のひとつひとつを円で概括し、集団の俑は面を構成し、多くの円は兵馬俑の陣形に似せ、円は一本の弧線で覆われ、弧線は広い大空と連綿と起伏する驪山を象徴し、また博物館1号坑の陳列ホールのアーチ型の屋根を象徴する。格子の外形の設計は始皇帝陵の封土に非常に似ていて、又暗に兵馬俑博物館は秦始皇帝陵博物館の一部分であることを指している。
 ● 蒼穹 cang1qiong2 青空。大空

 秦始皇帝陵博物院院徽同時公布,院徽将秦始皇帝陵封土外形和小篆“秦”字以及弩箭弓形完美融為一体。小篆是秦文化中最典型的符号,頂部的弧線象征着広博的蒼穹和連綿的驪山同時也是秦始皇帝陵外形的象征。中間的図案既取自秦瓦当的紋飾,又突出体現了秦軍強弓硬矢的軍隊特点,成為秦軍事文化的符号。
 [訳]秦始皇帝陵博物院の院徽が同時に公表され、院徽は秦始皇帝陵の封土の外形と小篆の「秦」の文字と弩(ど)の弓矢の形の美しさを一体に融合させている。小篆は秦文化の最も典型的な符号であり、頂上の弧線は広い大空と連綿とした驪山を象徴すると同時に、秦始皇帝陵の外形の象徴でもある。中間の図案は秦の瓦の紋様から採るとともに、秦軍の弓矢の能力に優れた軍隊の特徴を表しており、秦の軍事文化の印となっている。
 ● 小篆 xiao3zhuan4 (しょうてん)漢字の書体。大篆を基に書写に便利なように簡略化した書体で、秦の李斯が整理したもの
 ● 弩 nu3 (ど)弓の一種。弓より強力な武器
 ● 瓦当 wa3dang1 (がとう)軒瓦の先端の、模様や文字が刻まれている部分

 今年6月13日より、秦俑一号坑第三次発掘が開始され、4か月近くの作業の結果、戦車二乗(sheng4 4頭の馬で引く兵車1台を一乗といった)、軍馬8頭、陶俑20件余り、及び大量の車の一部、青銅製の兵器等が出土しており、発掘作業は現在も継続中とのことである。