写真日記

空を流れていく雲も
どんどん変わっていく

センチメンタルは
嘲笑われる

心を殺して
とりあえず
去年の５月の写真フォルダーを開ける

瓦礫の写真を避けながら
お祭りで子どもたちが笑っている写真だけ
そっと掬いとるように

本当に笑っていたのかと思っていたら
実は
意識して笑ってくれていたんだ
ということに
今更気がつく

救いはあったのだろうか
わからない

人は強いと言うが
人は弱いと思う

また
センチメンタルは
嘲笑われるけど

まあいいか

笑顔に救われていたような気がしたけど
ただ笑っていただけではないようだ

そりゃそうだなたしかに

自分たちの町を津波に流されて
誰が笑っていられるんだろう

笑顔を撮りたいなって思っていた
自分の愚かさが気持ち悪い

高台にあった小学校の校庭

町全体に
腐敗した魚の臭いがしていた

校庭でサッカーをしていた子どもたち
笑っていたんじゃない
笑ってくれていたんだ

狂ってしまいそうなので
閉じよう

窓の外の空
西から東に雲が流れていく

携帯電話が鳴る

今度撮影で北陸の方に行けますか？と
言われたので
不意打ちだったので一瞬？？？となったけど
OKですと言った

そういえば
去年の年末くらいから
北陸本線の話しを
何人かの人と話したような記憶

立て続けに
携帯電話が鳴る

A君からで
去年大船渡に行ったときに撮影した
写真を選んで渡すように頼まれていたのだった

頼まれていたけど
なんとなく写真見たくないので
古いHDDから探すのを逃げていたのだけど
それを見越したように
電話がかかってきたような気がした
さすがだなと

いまからやります

ほんとは
あんまり思い出したくないから
笑って誤魔化したい気もするけど

誤解を恐れずに言おう

被災地復興
という
無敵の鎧を身に纏い
無敵の剣を振り翳し
他人の不幸で飯を食う人たちを
どうやったら倒せるんだろうか
正義は勝つって
小学校で習ったんだけどなぁ

自分自身に言い聞かせて

まあいいか

センチメンタルは死んだのだと
誰かが言っていた

とりあえず
ツベコベ言わないで
机に向かうことにしよう

まだ僕の知らないこともたくさんあるはず

空を流れていく雲も
どんどん変わっていく

有楽町線に乗って
何ヶ月かぶりに実家に向かう
地下鉄が和光市手前で
地上に出た瞬間に
眩しく
空が蒼く晴れていて
とても綺麗な光を浴びる

和光市で乗り換え
ホームで東武東上線を待っている
こんなふうな瞬間は
意外と昔から好きな時間だなあと
ホームから空を眺めて
ぼーっとしている

そういえば、昔
とても小さい頃
僕はここに住んでいたという
ほとんど記憶はないけれど
駅前にあった洋菓子店の
黄色いモンブランだけはなぜか覚えている
幸せの象徴のように

午後の下り電車は空いていて
背中に陽射しを浴びながら
北上していく

いつのまにか川越
入間川を渡ると
僕の実家のある駅に辿り着く

いつのまにか改装した駅舎
なにも懐かしくもない味気ない改札を抜けて
無味な駅前のロータリーを
恥ずかしそうに歩く

空に大きな雲があって
北風が強く吹いている

懐かしい神社までまっすぐ歩く

そういえば昔、
入間川を下って
海まで行ったことがある
ほんとに川を下れば
海に辿り着くかを確かめたかったのだろうか
わからないけど

ここにいる人は
いったいなにをしているのだろうか
なんてムダなことを考えながら
土手の上を歩いていく

ようやくここまできたけど
でもさ
これからの道のほうが
まだ長いんじゃないのって
なんとなく悲観的な気持ちにもなる

君はどうですか？

夜
月が低くて
不気味に鈍く光っている
下弦の月

道は新たに切り開かれ
今までにあった場所は
跡形もなく存在しない
あたかも今がすべてのように
やがて誰も気にも止めない
忘れられる

実家の部屋で
昔から使っている大きなスピーカーの
古いアンプで
昔よく聴いていたCDアルバムを聴く
本棚から何冊か本を取り出して
寝転がって読む
時空間はウネリ
僕はどこかに浮遊する

一瞬だけ

でも寝て起きたらまた
残念ながらすぐに
ここに戻ってくるけど

読みかけの本を
カバンに入れて
また電車に乗り込む
帰るのか行くのか戻るのかもわからないけど
とにかく乗り込む

椅子に座って読みかけの本の続き
なぜかいまごろ
オーストラリアの話だ

いつのまにか
地下鉄になっていて
気がつくと
僕はまた
この部屋に戻ってきている

窓の外の空
西から東に雲が流れていく