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前橋猫

2009年07月31日 | 今日の写真
旅のように彷徨いながら
写真を撮っている日々

名古屋から帰ってきて
千葉に行ってから
なぜか前橋に2泊3日してきた

初日の撮影が終わって
夕方、前橋を写真散歩することにした
以前から気になっていた
小さな遊園地の小さな木馬を撮って
閉園時間ギリギリの臨江閣を眺めた

路地を歩いていると
猫に出会ったので
写真を撮っていると
なんだかいい感じのおじさんが
建物の中から出てきて
声をかけられた
おじさんは手作り家具の大工職人だった
作業場はものすごくいい光の色で
木屑からヒノキの香りがほのかにした

いま一枚板を磨いてたとこさ

写真を撮らせてもらった
鉋が何十種類も壁に掛けられていた
作業を終えて一服している姿

いまの時代はもう
安くて悪いものばっかりで駄目だね
こだわっていいものを作ろうとすると
儲からないし需要もあまりないから
もうほんと酷い時代だな
これから日本はどーなっちまうんだろうな
職人は消えちまうよ

おじさんは天井を仰ぎ嘆き
タバコの煙が流れていくのを見つめていた

若い感じでわからなかったけど
70歳だと言う
おじさんはおじいさんだったようで
おばあさんから冷たいお茶を頂き
いろいろとお話しを聞いた

偶然の出会いとは面白いもので
猫が導いてくれたのか
写真が導いてくれたのか

お礼を言って別れると
おばあさんが教えてくれた
広瀬川の洪水を見にいくことにした

弁天通商店街の入り口の橋で
川の写真を撮っていると
向こう岸で遊んでいた少年が
カメラに気がついて手を振って笑っていた
面白そうな奴だったので
橋を渡っていって
写真を撮らせてもらうと
ものすごくいい変な顔をするので
トモダチらしいもうヒトリの少年と
並んで写真を撮った
話していると
小学3年生だという
2000年に生まれたから
今年9歳でわかりやすいのさと笑っていた

広瀬川沿いに一緒に遊びながら歩いていった
フェンスを越えて川のほうにいく方法を教わったり
障害物競走のような岩場のコースを
何秒でゴールできるか走ったりした
(勝負したらほんとは10秒だったのに
1000万秒に数えられてしまったけど)

ゴールのサクタロウ橋で萩原朔太郎に出会った

萩原朔太郎は前橋で生まれたのだ
と少年が教えてくれた

僕は昔、教科書で読んだ朔太郎の詩が
妙に自分の言葉のように思えて
図書館で詩集を借りて読み漁った覚えがある

月に吠える 青猫

少年は目の前にある文学館を指差して
あそこに朔太郎のモノが置いてあるよと言った
たまに僕の描いた絵も飾られるんだよとも言った

少年は別れ際に
明日、弁天通商店街の駄菓子屋に
夕方4時に集合だからねと言った
仕事が終わってたらいくねと言おうと思ったけど
それは大人な話だなと思った

またねーと言って別れた

萩原朔太郎の詩を思い出しながら
広瀬川沿いを歩いていく


青猫

この美しい都會を愛するのはよいことだ
この美しい都會の建築を愛するのはよいことだ
すべてのやさしい女性をもとめるために
すべての高貴な生活をもとめるために
この都にきて賑やかな街路を通るのはよいことだ
街路にそうて立つ櫻の竝木
そこにも無數の雀がさへづつてゐるではないか。

ああ このおほきな都會の夜にねむれるものは
ただ一疋の青い猫のかげだ
かなしい人類の歴史を語る猫のかげだ
われの求めてやまざる幸福の青い影だ。
いかならん影をもとめて
みぞれふる日にもわれは東京を戀しと思ひしに
そこの裏町の壁にさむくもたれてゐる
このひとのごとき乞食はなにの夢を夢みて居るのか。 (萩原朔太郎・青猫)

いまさっき東京に戻ってきて
本棚にあった詩集を読み返してみた
前橋に2泊した意味がようやく繋がったような気がした

少年は今日も広瀬川の風車の前にいるだろうか?
おじいさんは一枚板を削り終わっただろうか?
猫はまた欠伸をする

そして
ここにいるのは
さびしい一匹の青猫だろうか


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