猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

東アジアサミット開催―東アジア共同体創設をめぐって

2005-12-15 00:04:09 | 外交・国際問題全般
 東アジアサミットが開催され、ASEAN加盟国に加えて、日・中・韓・豪・NZの合計16カ国が参加して、東アジア共同体について意見が交換された。結論から言ってしまえば、どうとでも受け取れる毒にも薬にもならない宣言が出されただけである。批判したいのではなくて、それでよかったと思っている。拙速に話を進めて中国の思う壺にはまるのではなく、日本の立場をある程度十分に取り入れさせることができたからである。
 このたびの東アジアサミットを通じて、ASEANに日中韓だけを加えたASEANプラス3首脳会議で主導権を握ろうとする中国と、東アジア首脳会議での討議を求める日本やインドとの間で大きな隔たりがあることが明らかになった。また、東アジア共同体という手段を用いて、米国をアジア太平洋地域から締め出そうとする姿勢が一層露骨になってきた。例えば、東アジアサミットに先立つ中国外務省の定例記者会見では、「米国排除はASEAN主導であって、中国はASEANの意見を尊重しているだけだ」とASEANに責任を転嫁する形で見解を発表しているし、米国の軍事力に対抗すべくロシアを参画させようと、画策もしているようである。米国抜きの東アジア共同体というのは、結局は現代版の「華夷秩序」に他ならない。我が国は、まかり間違ってもそんなものに乗るべきでないし、乗れる訳もない。
 一連の動きを通じてインドがアジア太平洋地域において、格段に存在感を増したことは間違いない。シンガポールのリー・クアンユーが「インドは中国とバランスを取る上で有用だ。中国とインドの影響力は東南アジアに再び広がるだろう。地域に繁栄をもたらすと同時に、パワーゲームを予感させるものだ」と述べているのが象徴的であり、的確な見方である。インドと中国のパワーバランスを望む一方で、両者の草刈場になることを恐れているというのが率直なところであろう。
 東アジア共同体創設問題を通じて、我が国が貫くべき態度は次の通りである。すなわち、(1)自由・民主・人権の価値観は譲れない(2)米国抜きは認めない(3)インド及びオーストラリアと密接に連携する。小泉外交の方向性を見ると、現在のところこれらに則って進んでいるように思われる。東南アジア諸国に対しては、経済的な結びつきはもちろんのことだが、むしろ日米の軍事力(印豪も含めてよい)によって中国の軍事的脅威への備えとして魅力あるものとなるべきである。そうしなければ、雪崩を打って強いもの(=中国)につくという、国際政治学でいうところの「バンドワゴン現象」が起きる可能性が高い。そして、自由・民主・人権の価値観で独裁・圧制と対峙させることである。


(参考記事1)
[米国抜きはASEAN主導 東アジアサミットで中国]
 【北京13日共同】中国外務省の秦剛副報道局長は13日の定例会見で、東アジアサミットが米国抜きで開催されることについて「この問題では、東南アジア諸国連合(ASEAN)の共通認識を尊重する」と述べ、米国抜きはASEAN主導との見解を強調した。
 副局長は「(東アジアサミットで)ASEANが主要な役割を果たすことを尊重し支持する」と指摘。中国としては「東アジアの協力は開放的、透明の原則を堅持すべきで、排他的であってはならないとの立場だ」と述べた。
(共同通信) - 12月13日18時30分更新

(参考記事2)
[共同体創設へ「役割」 東アジア首脳会議、宣言署名し閉幕]
 【クアラルンプール=岩田智雄】将来の東アジア共同体の創設などを話し合う初の東アジア首脳会議が十四日、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国と日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドの計十六カ国が参加してマレーシアの首都クアラルンプールで行われた。同日午後、同首脳会議が共同体創設に重要な役割を果たしうるとしたクアラルンプール宣言に署名して閉幕する。
 日本からは小泉純一郎首相が出席し、開会式で議長国マレーシアのアブドラ首相が開会を宣言。このあと、同首相のゲストとしてオブザーバー参加したロシアのプーチン大統領が演説し、ロシアは初回から正式メンバーになるための道筋をつけた。
 宣言案では、東アジア首脳会議を「開放的な外部志向の枠組み」と位置づけ、参加国は「グローバルな規範と普遍的価値の強化に努める」としている。
 首脳会議では、政治と安全保障、経済、社会と文化などについて討議。さらに、共同体創設をめぐって、ASEANに日中韓だけを加えたASEANプラス3首脳会議で主導権を握ろうとする中国と、東アジア首脳会議での討議を求める日本やインドとの間で、激しいやりとりが交わされたもようだ。また、米国の一極支配に対抗して中国との軍事面などで協力を進めるロシアの加盟についても議論が行われたとみられる。首脳会議では、鳥インフルエンザ対策に関する宣言も採択する。
(産経新聞) - 12月14日15時26分更新

(参考記事3)
[インド脚光、韓国埋没 アジア勢力図変化 日中印3国時代へ]
 【クアラルンプール=藤本欣也】アジアの勢力図が変わり始めた。域内十六カ国が参加する東アジア首脳会議を十四日に控え、インドが高度経済成長を背景に存在感を強めている。逆に、日本と中国の激しい勢力争いの中で影が薄いのが韓国だ。一九九〇年代以降、域内大国として並び称された日中韓の時代から、日中印の新たな三国時代に移りつつある。
 クアラルンプールの大通りには数多くの韓国の国旗、太極旗がはためいている。盧武鉉大統領の今回のマレーシア訪問が公式訪問を兼ねているためだが、十二日に始まった東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の首脳会議で盧大統領の存在感はほとんどない。
 「北東アジアのバランサー(均衡者)」を自任する盧大統領だが、十二日の中韓首脳会談では、対立する日中間を取り持つこともなく、小泉純一郎首相の靖国神社参拝を批判する中国の温家宝首相に同調。盧大統領はリーダーシップを発揮できないまま、中国の“対日包囲網”に組み込まれる格好となった。
 九〇年代末、政治・経済・社会の幅広い分野での東アジア協力を唱え、東アジア首脳会議へのレールを敷いた金大中前大統領の指導力とは比べるべくもない。
 逆に、脚光を浴びているのがインドのシン首相だ。十二日、クアラルンプールで開かれたASEANビジネス投資サミットで「わが国の経済成長率は数年内に10%に届くだろう」などと講演し、各国の財界関係者から盛んな拍手を浴びた。
 インドは近年、アジア域内で高まる中国脅威論を利用しながら、中国の対抗勢力としての存在をアピールしている。中国と足並みをそろえたことで存在感が埋没してしまった韓国とは対照的だ。
 経済的にみると、「先進国クラブ」の経済協力開発機構(OECD)に加盟する韓国が先行していた。しかしインドが追い上げ、国内総生産(GDP)は約六千億ドル(二〇〇三年)とほぼ同じ、対ASEAN貿易でも昨年約百八十五億ドルの韓国に対し、インドも約百七十五億ドルと大差はない。
 もっとも、韓国はASEANプラス3(日中韓)のメンバーとして一定の発言力を維持している。しかし、インドもまた、今回のASEANプラス3経済閣僚会議の昼食会に初めて同席が認められるなど、一部でインドを含めた「プラス4」が実現しつつある。
 東南アジアの“指南役”、シンガポールのリー・クアンユー顧問相は、「インドは中国とバランスを取る上で有用だ。中国とインドの影響力は東南アジアに再び広がるだろう。地域に繁栄をもたらすと同時に、パワーゲームを予感させるものだ」とASEANの見方を代弁、中印両国がともに参加する枠組みの重要性を指摘している。
(産経新聞) - 12月14日2時26分更新


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
放置プレー? (wnm)
2005-12-15 09:59:00
こんにちは。ご無沙汰です。外交戦略としては、ご指摘のように、日本政府が今やっているようにするしかないでしょうね。でも、温家宝の連日の発言に切れたのか、小泉さん、とうとう「中韓放置プレー」宣言をしてしまいました(笑)。こんな話、よほどのことがない限り、漏れてくるはずがないと思うのですが。
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劇団たぬきもかくありたい (劇団たぬき)
2005-12-15 12:40:21
ご無沙汰していますm(_)m



>東アジア共同体創設問題を通じて、我が国が貫くべき態度は次の通りである。すなわち、(1)自由・民主・人権の価値観は譲れない(2)米国抜きは認めない(3)インド及びオーストラリアと密接に連携する。



これ!これなんですよ!



小泉内閣になってから、外交に主体性がでてきましたね。

ホント頼もしい限りです。



しかし、いつも思うんですが猫研究員さんの記事には魅せられるものがあります。

勉強になりますm(_)m



それでは、また!
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ヨーロッパ統合もアメリカの支援あってこそ (舎 亜歴)
2005-12-15 20:05:07
ヨーロッパ統合もアメリカの支援があってこそだという史実を踏まえようとしないのは愚かの極みです。中国が強引にアジアを自分の勢力圏にしようとすれば、どのような火種をかかえるか理解できないのは笑止です。



それにしても中国と韓国が靖国参拝を理由に日本と首脳会談さえしないのは、参拝に否定的な私の目から見ても奇異です。冷戦期の米ソがイデオロギーの違いを乗り越えて、何度も首脳会談を持ったのは周知の通り。実務的な話し合いさえ拒むというのは、彼らにとって日本とはその程度の国なのでしょうか?
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コメントありがとうございます (猫研究員。(高峰康修))
2005-12-16 00:45:48
>wnmさま

「中韓放置宣言」も「これでいける」と計算済みというか、手ごたえがあってのことだと思いますよ。で、署名の時に温家宝首相に毛筆ペンを借りてみたりと芸がなかなか細かいです。



>劇団たぬきさま

「魅せられるものがあります」とまで褒めていただいて、光栄です。

秋の内閣改造で、外交に関する諸問題についてレールを敷くシフトに出たようです。あと一つだけ重要な懸案は、やはり集団的自衛権の行使を認めるべく憲法解釈を変更することです。これができればパーフェクトなのですが…。



>舎 亜歴さま

まさに、「歴史に学ぶ」とはそういうことを言うのでしょうね。中国の首脳はもちろんのこと、反米で凝り固まっているマレーシアの前首相なんかにも聞かせてやりたいところです。

中韓が靖国問題で首脳会談を拒否するというのは、外交センスがゼロということを自らさらけ出しているようなものですよね。練れていないことこの上ない。でも、今までだったらそういう挙に出れば日本がひれ伏してましたから、勝手が全然違って困惑してるのではないかと察します。馬鹿馬鹿しい行為が繰り返されてきたことには、双方に責任といいますか理由があるわけで、今回の一連の出来事は、それを断ち切るきっかけになることでしょう。
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今回の日本はよくやったと思います! (tsubamerailstar)
2005-12-16 13:31:55
>自由・民主・人権の価値観で独裁・圧制と対峙させることである



これに尽きると思います。徹頭徹尾同感です。

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tsubamerailstarさまへ (猫研究員。(高峰康修))
2005-12-17 00:24:49
いつも、賛同のコメントありがとうございます!

大変励みになります。
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