猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

ODA改革は「二正面作戦」―外務省・財務省が抵抗

2005-12-21 02:09:35 | 外交・国際問題全般
 17日に、ODAについて議論する政府の有識者会議「海外経済協力に関する検討会」(座長・原田明夫前検事総長)が、初会合を開いた。政府系金融機関改革の過程において、国際協力銀行(JBIC)の円借款業務は「他の政策金融と別の機能として残す」とだけ方向性を示して、具体案は先送りしていたものを、この検討会で協議することになる。初回の合意点は「政府開発援助全般について、外交戦略上の位置付けなど機能面から幅広く議論すること」だそうだ。当たり前過ぎるはなしである。しかし、日本人は「戦略」という言葉が好きであるが、戦略の意味や中身をさほど吟味せずに多用する傾向にある。要するに「基本方針」といった程度の意味合いなのだろうが、目的・必要性・効果・効率性・優先順位などを詳細に検討していかねばならない。「戦略」という言葉を掲げただけで満足してしまうなどといったことは厳に戒めるべきである。
 「戦略」は究極のところは「国益に資すること」以外にないが、もう少し具体的には、言葉は悪いが影響力を保持するための「飴」としての役割、国際社会における人道的貢献を通じて我が国の品格を高める役割、貧困を根絶することによりテロの温床を断つ安全保障上の役割などなど、それぞれの項目に関して逐一その必要性や効果などについて議論して、それらの総体としていかなるODA政策の形態がよいのか決めるという作業を続けることになるはずである。安倍晋三官房長官が会議後の記者会見で挙げた(1)JBICの役割(2)ODAの必要性(3)海外への政策金融の意義などの論点は、当然そういう意味であろう。
 自民党の中川秀直政調会長や竹中平蔵総務大臣は、首相直属機関によるODA政策の一元化を行うという「ODA庁」設置を視野に入れているらしい。小泉総理大臣の意向も、どうもそのようである。私もこれがベストだと考える。現在のような省庁別縦割り方式の弊害の象徴は、東シナ海の日中中間線付近で中国が石油ガス田を開発している問題で、かつてJBICの前身の旧日本輸出入銀行が約百三十億円の対中融資を実施した事例が挙げられる。これは旧輸銀が財務省にだけ相談して外務省に連絡しなかったことが原因のようだが、こんなことは戦略性云々以前の問題である。こういった事態を防ぐためにも是非とも、官邸の下に「ODA庁」として一元化して、政策が齟齬を来たさないようにすべきである。
 これに対して、ODAの約9割に関与しているとされる外務省は既得権益を守るべく徹底抗戦する構えである。麻生太郎外相も、政府の政策金融改革推進本部の初会合において「ODAは外交の基本中の基本だ。首相のリーダーシップのもとで外相が調整の中核になるべきだ」と述べている。もっとも、これは「首相のリーダーシップのもとで」という文言から、必ずしもODA庁構想を真っ向から否定しているわけではないのかもしれない。また、外務官僚に加えて、財務官僚もODA庁構想に抵抗を強めている。ODA改革は、二正面作戦の様相を呈してきた。これに経済産業省まで加わって三正面作戦にもなりかねないが、郵政民営化のときのように、首相の「蛮勇」とも言うべきリーダーシップで改革を成し遂げていただきたいと、強く期待する。


(参考記事1)
[外交戦略面から議論 海外協力検討会が初会合]
 政府は16日、海外援助政策の在り方をめぐる有識者会議「海外経済協力に関する検討会」(座長・原田明夫前検事総長)の初会合を首相官邸で開いた。円借款業務や無償資金協力、技術協力など政府開発援助(ODA)全般について、外交戦略上の位置付けなど機能面から幅広く議論することで一致した。
 政府系金融機関改革で、国際協力銀行(JBIC)の円借款業務は「他の政策金融と別の機能として残す」とし、具体論は検討会に委ねられた。経済財政諮問会議内で浮上した首相直属機関によるODA政策の一元化には、外務省が強く抵抗。円借款業務を含むODAの見直しが焦点となる。
 安倍晋三官房長官はこの後の記者会見で(1)JBICの役割(2)ODAの必要性(3)海外への政策金融の意義-などを論点に挙げ、「効率化追求という行革の方向性に沿った結論を出してほしい」と強調した。
(共同通信) - 12月16日19時36分更新

(参考記事2)
[難航必至のODA見直し 財務省など巻き返し]
 政府の「海外経済協力に関する検討会」(座長・原田明夫前検事総長)は、政府開発援助(ODA)の在り方見直しに向けた論議を始めたが、財務、外務両省は国際協力銀行(JBIC)が担う円借款業務の首相直属化構想などに抵抗を強めている。官僚サイドの「権益確保」の思惑が背景にあるとみられている。
 小泉純一郎首相はJBICを含む政府系金融機関の統廃合を盛り込んだ「行政改革推進法案(仮称)」を来年の通常国会に提出する方針。原田座長らは2月中の答申を求められているが、今後の議論は難航必至だ。
(共同通信) - 12月17日18時59分更新


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4 コメント

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他にもまだあります (Taka)
2006-01-10 18:18:42
「ODA改革」のキーワードでグーグルしたら、このブログに出会いました。

一連の議論の中であまり注目されていないようですが重要な部分として、国際機関への拠出金があります。世銀・アジ銀などの国際開発金融機関や国連機関(国連本部・UNDP・UNICEF・ILO・WHO等々)に対する分担金の他に、任意拠出金が出されています。例えば世銀で言えばトラストファンドと呼ばれるものに日本から(財務省から)お金を出しています。

戦略性を考えた場合、日本の「バイ」の部分だけでなく、「マルチ」の部分も併せて対処する必要があると思います。「バイ」と「マルチ」の効果的な組み合わせも必要でしょうl。その意味でも、どのような形になるにせよ、ひとつの組織が両方を見ているというのは大切でしょう。ちなみに、英国などはそのような形になっているようです。
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Takaさまへ (猫研究員。(高峰康修))
2006-01-11 05:51:30
大変貴重なコメントをくださり感謝いたします!

国際援助というと「二国間」の部分に目が行きがちです。しかし、これと国際機関への拠出金というのは、国際援助においては車の両輪なわけで、まさにコメントくださった通りでございます。当然「ODA庁」はそのように設計されるべきなのですが、どうも雲行きが怪しくて、政府方針では、JICA母体の「国際援助機構(仮称)」と外務省傘下の「ODA援助庁」ということになりそうです。今後とも要注目の問題です。
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二転三転 (Taka)
2006-01-15 21:25:35
「海外経済協力に関する検討会」第三回会合が開催されたということで、報道が錯綜していて、私などは混乱気味です。

私は、実は某国連機関を休職し、現在日本のODAの現場に参加しているものですが、日本が持っている各種の「スキーム」を如何にうまく組み合わせて、日本の顔とともに声を相手国政府や他の援助機関に示すかが課題だと考えます。

そう考えると、ともかくスキームがうまく組み合わされるような仕組みになりきっていない、無償、技術協力、円借款くらいまでは何とか各機関の協力で何とかなりますが、世銀・アジ銀を通じてやらせることが日本の国益上必要な場合もあり、それに日本のバイの援助を組み合わせるというようなことまで(しつこいようですが)戦略的に考える必要があります。(英国援助庁(DFID)は、このようなことは実際行っています。)

加えて、現場に近いところに専門の人が足らないと思います。そういった意味でも、統合といったことは必要ではないかと思いますが。



あと一つ、企画立案を13省庁に残し、実施を一つに統合するなどという報道がありましたが、これは改革に逆行する案ではないかと思いますが、私の勘違いでしょうか。
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Takaさまへ (猫研究員。(高峰康修))
2006-01-15 22:46:06
現場の目から見た問題点を具体的にご教示くださりありがとうございます。現在のところ、国際機関を通じた援助とバイの援助の最適な戦略的ミックスを行えるよう制度設計するというところまで踏み込んでいないような気がします。今回の議論は、もともと政府系金融機関の統廃合に端を発しているので、国際援助のもつ意義とか戦略性とか、そういった本質的な面に真正面から切り込んでいない憾みが残ります。

企画立案と実施に関しては、企画立案は「援助庁(仮称)」として外務省の傘下に統合し、実施部門はJICAを母体とする「国際援助機構(仮称)」に統合するという案が出ていたのですが(1月13日の『ODA企画・実施それぞれ一元化―ODA改革で政府案の方向性明らかに』をご覧ください)、今度は企画立案部門は内閣官房に設置する方針を固めたようです。
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