我が国の現行の所得課税の方式は、個人を対象として扶養家族の分を控除するという形式である。少子化対策のために、大家族を優遇できる何らかの措置が望まれるところである。そのためには、関係閣僚や与党幹部による「少子化対策協議会」において検討されると思われる「N分N乗方式」の導入がよいと思う。
N分N乗方式とは次のような仕組みである。まず、世帯の所得を構成人数(N人)で割り一人当たり所得を算出する。そこから所得控除して課税ベースを決める。それに対応する税率を適用して所得税額を算出する。一人当たりの所得税額を構成人数倍(N倍)したものをその世帯の所得税額とする。おおよそ、以上のようなものである。このようにすることにより、現行の方式と比べて控除を手厚く受けられる上に、累進制度と相まって世帯の構成人数が多いほど税が軽減される。簡単のために控除を無視して考えると、年間所得1000万円で独身の場合と五人の場合では、N分N乗方式を採用すれば、前者には1000万円に対する所得税(30%→300万円)がまるごとかかってくるのに対して、後者には200万円に対する所得税の5倍(10%→20万円、5倍して100万円)しかかからないということになる。これを、不公平ととるか、扶養家族が多いほど負担が大きいので逆に公平ととるか。私は、どちらかといえば後者の立場である。教育費のかかる子供や、医療費や介護費用のかかる高齢者を多く抱えた世帯に手厚くすることは意味のないことではない。
ところで、N分N乗方式を採用するとなると、所得税の課税単位を個人から世帯に変えるということになる。この点は課税の思想の大きな変化である。これに対して一部から大きな批判がある。すなわち、個人ではなくて「家族」を単位とすることへの反発である。家族を重視するというと反射的に嫌悪感を示す人が意外と多い。しかし、その批判はあたらないのではないか。確かに大家族ほど有利な制度ではあるが、少人数の世帯を圧迫してそういう形態の世帯を選択できなくするという制度趣旨ではないし、うまく制度設計すればよいだけの話である。また、この制度の導入と引き換えに控除というやや理にかなわない存在を縮減すれば、制度としてもすっきりする。
(参考記事)
[「大家族」税制優遇も、少子化対策協議会を設置へ]
政府・与党は4日、大家族優遇税制の導入などを柱とする、総合的な少子化対策を新たにまとめる方針を固めた。
関係閣僚や与党幹部による「少子化対策協議会」を設置し、月内にも初会合を開いて検討に入る。対策は、6月に閣議決定する「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」に盛り込み、早ければ2007年度から実施する考えだ。
日本の所得課税は対象が個人で、収入のない子供や高齢者などを扶養していれば、その分は税が控除される仕組みになっている。ただ、控除については、対象に年齢制限を設けるなどの縮小論が出ている。
一方、フランスでは世帯を課税対象とし、総所得を家族の人数で割って課税額を決める「N分N乗方式」を採用している。この方式の場合、大家族ほど税額が抑えられることになる。
協議会ではこうした仕組みも参考に、与党の税制調査会と連携し、子供が多い世帯ほど優遇される新たな税制を検討する。子供がいる場合に所得税額から一定額を引く「税額控除」なども検討される見込みだ。
このほか、〈1〉女性が出産後も職場に復帰しやすい制度〈2〉保育サービスの多様化や地域で子育てを支援する仕組み〈3〉出産費用を国が負担する出産無料化――などについて具体策を詰める。
政府はこれまで、「エンゼルプラン」(1995年度)や「子ども・子育て応援プラン」(2005年度)などの少子化対策をまとめ、保育サービスの充実や子育てと仕事の両立支援などに取り組んできた。しかし、当初の予想以上に少子化が進展し、05年には出生率の低下に伴う初めての人口減少が始まるなど深刻な事態を迎えているため、与党と一体となって新たな対策を策定することが必要と判断した。
(読売新聞) - 3月5日12時32分更新
☆ぜひとも、をクリックして、ランキングに投票して応援してくださいm(__)m
N分N乗方式とは次のような仕組みである。まず、世帯の所得を構成人数(N人)で割り一人当たり所得を算出する。そこから所得控除して課税ベースを決める。それに対応する税率を適用して所得税額を算出する。一人当たりの所得税額を構成人数倍(N倍)したものをその世帯の所得税額とする。おおよそ、以上のようなものである。このようにすることにより、現行の方式と比べて控除を手厚く受けられる上に、累進制度と相まって世帯の構成人数が多いほど税が軽減される。簡単のために控除を無視して考えると、年間所得1000万円で独身の場合と五人の場合では、N分N乗方式を採用すれば、前者には1000万円に対する所得税(30%→300万円)がまるごとかかってくるのに対して、後者には200万円に対する所得税の5倍(10%→20万円、5倍して100万円)しかかからないということになる。これを、不公平ととるか、扶養家族が多いほど負担が大きいので逆に公平ととるか。私は、どちらかといえば後者の立場である。教育費のかかる子供や、医療費や介護費用のかかる高齢者を多く抱えた世帯に手厚くすることは意味のないことではない。
ところで、N分N乗方式を採用するとなると、所得税の課税単位を個人から世帯に変えるということになる。この点は課税の思想の大きな変化である。これに対して一部から大きな批判がある。すなわち、個人ではなくて「家族」を単位とすることへの反発である。家族を重視するというと反射的に嫌悪感を示す人が意外と多い。しかし、その批判はあたらないのではないか。確かに大家族ほど有利な制度ではあるが、少人数の世帯を圧迫してそういう形態の世帯を選択できなくするという制度趣旨ではないし、うまく制度設計すればよいだけの話である。また、この制度の導入と引き換えに控除というやや理にかなわない存在を縮減すれば、制度としてもすっきりする。
(参考記事)
[「大家族」税制優遇も、少子化対策協議会を設置へ]
政府・与党は4日、大家族優遇税制の導入などを柱とする、総合的な少子化対策を新たにまとめる方針を固めた。
関係閣僚や与党幹部による「少子化対策協議会」を設置し、月内にも初会合を開いて検討に入る。対策は、6月に閣議決定する「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」に盛り込み、早ければ2007年度から実施する考えだ。
日本の所得課税は対象が個人で、収入のない子供や高齢者などを扶養していれば、その分は税が控除される仕組みになっている。ただ、控除については、対象に年齢制限を設けるなどの縮小論が出ている。
一方、フランスでは世帯を課税対象とし、総所得を家族の人数で割って課税額を決める「N分N乗方式」を採用している。この方式の場合、大家族ほど税額が抑えられることになる。
協議会ではこうした仕組みも参考に、与党の税制調査会と連携し、子供が多い世帯ほど優遇される新たな税制を検討する。子供がいる場合に所得税額から一定額を引く「税額控除」なども検討される見込みだ。
このほか、〈1〉女性が出産後も職場に復帰しやすい制度〈2〉保育サービスの多様化や地域で子育てを支援する仕組み〈3〉出産費用を国が負担する出産無料化――などについて具体策を詰める。
政府はこれまで、「エンゼルプラン」(1995年度)や「子ども・子育て応援プラン」(2005年度)などの少子化対策をまとめ、保育サービスの充実や子育てと仕事の両立支援などに取り組んできた。しかし、当初の予想以上に少子化が進展し、05年には出生率の低下に伴う初めての人口減少が始まるなど深刻な事態を迎えているため、与党と一体となって新たな対策を策定することが必要と判断した。
(読売新聞) - 3月5日12時32分更新
☆ぜひとも、をクリックして、ランキングに投票して応援してくださいm(__)m
結婚できない・しない理由って何だろう。
特別に不細工なわけでも性格が悪いわけでも、
稼ぎが悪いわけでもない。ごく普通の人。
聞いてみたら普通にしてただけだって・・・。
こわい~。
ここでN分N乗方式をご紹介したのは、少子化対策という側面もさることながら課税方法の一つとして興味深いからという理由が大きいです。
http://nikkeibp.jp/sj2005/column/v/05/
『少子化対策とは、子どもを増やすことではなく、少子化(「年金崩壊への不安」と読むこと)のことを忘れても構わないぐらい安心な社会制度を作り上げていくことなのだ。』という結びの言葉には釈然としないものを感じますが・・・。
男女共同参画を進めれば少子化問題が解決するというわけでもないというのは時々指摘されていることでもあり、統計とってグラフにしたものを見せられると確かにそうかなとも思えます。
確かに、結論はちょっと一面的過ぎる見方ですね。少子化の不安=年金の不安、だけじゃなくて労働力人口が減ったら経済はどうなるんだという視点も大きいですから。
本文中、控除を無視した所得が1000万円の方の所得税が300万円、とのくだりがありますが、税率30%というのはその所得帯での所得の増分に対するものであって、実際の税額はそんなに高くなりません。課税所得330万円までの部分には10%、330万円~900万円の部分には20%の税率が適用されますので、計算すると課税所得が1000万円の場合、現行の所得税額は177万円になるはずです。
話を簡単にする為の誤差と言うには大きすぎて気になりましたので、改めて現行の所得税率に基づいて試算した結果を私の日記で取り上げさせていただき、若干のコメントを付した上でトラックバックさせていただきました。
試算してみて分かったのは、N分N乗方式が有効なのは課税最低限が低い上に税の累進構造が著しい場合であって、給与所得控除が分厚くかつ税率のフラット化が進んだために、かなりの給与所得者が一生10%の税率から出ることがないであろう日本には余り適さない制度のような気がしました。
議論の本筋(少子化対策)とは違うところで数字にこだわるようで申し訳ないのですが、どうしても気になりましたので……。
失礼いたしました。
ご教示感謝いたします!