猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

刑事裁判への被害者参加―今国会に改正案提出へ

2007-02-01 01:45:14 | 訴訟・裁判・司法
 近年大いに注目されている犯罪被害者の権利に関して、大きな前進が見られることになりそうである。法相の諮問機関である法制審議会は、「被害者参加制度」「付帯私訴制度」の二つを導入することを柱とした要綱を決定した。法務省は2月の法制審総会で答申を受け、刑訴法などの関連法の改正案を今国会に提出する予定である。
 まず、「被害者参加制度」は、被害者が特定の刑事訴訟に参加できる制度である。人を故意に死傷させた罪や業務上過失致死などの罪で起訴された被告人や、その裁判おける証人に対して、被害者が検察官を通じて裁判官の許可を受けた上で尋問することができるようになる。
 もう少し具体的に説明するために、刑事訴訟の基本的な流れを書いておくと、おおよそ(1)起訴→(2)公判の開始→(3)証人尋問→(4)被告人尋問→(5)検察側論告求刑→(6)弁護側最終弁論→(7)被告人最終意見陳述→(8)判決
となる。今回予定されている改正で被害者が関与できるようになるのは、次の通りである。まず、起訴ご公判の開始までに裁判参加の申し立てをしなければならない。公判の開始においては検察側の席に着席できる(在廷権)。現行では原則として傍聴席である。証人尋問においては、情状関係に限って質問することができる。例えば「被告人は真実反省しているのか」などといったものである。被告人尋問では、被告人に質問することができる。さらに、上記の(5)検察側論告求刑と(6)弁護側最終弁論の間で、被害者が事実関係や求刑に関して意見を述べることができるようになる。
 最近は、法廷で殺人事件の被告人が被害者を侮辱するような暴言を吐き、遺族の感情を著しく傷つける場面が見られる。これに対して遺族はほとんど反論の機会も与えられなかった。そういうケースを考えれば、今回の改正が急がれたのは当然のことである。
 ただ、被害者が検察官を通じて裁判官の許可を受けた上で質問できる制度になっているとはいえ、被告人を前にすれば感情的になるのは当然であり、法律に疎い被害者に法廷の秩序をいかに守ってもらうかが課題となろう。これは、法廷の秩序を守るだけでなく、結局は被害者の尊厳を守ることでもある。同様の制度を採るドイツでは、被害者に公費で弁護士をつける制度があるそうだ。やはり、法律の専門家がアドバイザーとしてそばについていることは必要であろう。新制度のもとでは裁判に参加する被害者は検察官と一体という立場になるが、立場が完全に同じというわけではない。したがって、公費で弁護士をつける制度は導入されるべきであろう。
 日弁連は、相変わらず「被害者参加制度はバランスを崩すものだ」「厳罰化を招く」などといって反対している。加害者の人権ばかり重視して被害者の人権を軽視してきたことへの重大な反省から被害者の人権をいかに拡充するかが課題となっていると言うのに、呆れた主張である。国民感情から乖離が著しいと、ひいては法曹界への信頼が低下し望ましくない。今のような、被害者の声を直接届けることがゼロに近い裁判こそがバランスに欠けるというものである。
 もう一つの「付帯私訴制度」は、被告人に対して被害者や遺族が、刑事裁判の法廷で民事上の損害賠償を請求できるようになる制度である。現行では、刑事裁判とは別途民事裁判を起こして「不法行為に対する賠償責任」を追及しなければならなかった。しかも、その不法行為があったかどうかの立証責任が被害者側にあったので負担が大きかった。付帯私訴制度では刑事裁判の証拠をそのまま流用できるようになるために、負担がかなり軽減されることになる。
 犯罪被害者の権利は「新しい人権」に類するものとして憲法にも明記することが検討されている。それだけ重要な権利だという意識の表れであろう。しかし、それは憲法に書き込むまでもなく今回の改正のように法律できちんと整備していけばよいのである。



(参考記事)
[刑事裁判で被害者参加 今国会に改正案]
(1月31日8時0分配信 産経新聞)
 法制審議会(法相の諮問機関)の刑事法部会は30日、刑事裁判の法廷で被害者が加害者(被告人)に直接質問などができる「被害者参加」や、刑事裁判の立証成果を民事上の損害賠償請求に活用する「付帯私訴」の導入などを定めた要綱を決定した。法務省は2月の法制審総会で答申を受け、通常国会に刑事訴訟法などの改正案を提出する予定。
 被害者参加制度では、故意の犯罪行為で人を死傷させた罪(殺人や傷害致死傷、危険運転致死傷など)、強姦(ごうかん)、業務上過失致死傷といった罪で起訴された被告人の裁判が対象となる。
 被害者や親族らからの申し出を受けて裁判所が許可すれば、「なぜこのような犯罪を起こしたのか」といった被告人に対する質問が直接できるほか、証人に対する尋問もできるようになる。
 さらに、証拠調べの終了後には意見陳述の機会も設けられ、検察官が行う論告・求刑と同様に被告人に求めたい刑罰などについても意見を述べることができ、これまで刑事裁判で“蚊帳の外”だった被害者の権利は一挙に拡大することになる。
 また、付帯私訴制度では、故意の犯罪行為で人を死傷させた罪などで起訴された被告人に対し、被害者らが刑事裁判の法廷で民事上の損害賠償を請求できるようになる。
 刑事裁判を担当した裁判官がそのまま民事裁判も担当。刑事裁判の判決言い渡し後ただちに、民事裁判の第1回口頭弁論が開かれることになる。
 刑事裁判の立証成果を活用するため、不法行為の立証は不要となり、民事裁判では損害の認定が中心となる。原則として4回以内の審理で賠償額などが決定される見込みで、被害者側にとっては「時間の負担」が大幅に軽減されそうだ。

☆ぜひとも、Blog●Rankingをクリックして、ランキングに投票して応援してくださいm(__)m


最新の画像もっと見る