猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

『宇宙軍拡防止 ルール作りを』-英エコノミスト誌

2007-02-02 02:14:02 | 日中関係・米中関係
『宇宙軍拡防止 ルール作りを』(英エコノミスト誌1月27日~2月2日号より)
 中国政府が、弾道ミサイルで上空800キロ以上の自国の人工衛星を破壊する実験を行なったと認めたのは、宇宙空間の支配権を誰にも渡さないという中国なりの意思表示だった。
 不要となった人工衛星については寄り適切な処理方法がある。中国のやり方では、大小数千の破片が何年も弾丸のように軌道を周回することは確実だ。破片は他の人工衛星に損害を与え、宇宙飛行士を危険に晒す可能性がある。近年の裕次ぬ中飛行を誇る中国が、自らの無責任なこうどうで発生した破片のために、月面着陸や宇宙ステーション建設への野望を挫かれるとしたら皮肉なことだ。
 中国は明らかに、実験に価値があると考えている。衛星爆破は実際には、ライバルの米国に狙いを定めたものだ。人工衛星やほかの宇宙空間の探知装置は、ブッシュ政権が取り組むミサイル防衛に活用される。中国は、台湾有事の際、台湾を標的とした大陸からの約900発のミサイルに対し、ミサイル防衛が威力を発揮するかもしれないと懸念しているのだ。
 中国はこれまで何年もの間、宇宙空間の軍事利用を禁じる新たな条約への交渉を米国が拒否しているとして、国連の軍縮会議での議論に反対してきた。1967年の国連宇宙条約は、宇宙空間への大量破壊兵器配備などを禁じているが、ブッシュ政権は宇宙での軍拡競争は存在しないとして、新たな条約は必要ないとの立場だ。米中両国とも不誠実な立場をとり続けている。
 中国の衛星破壊実験は、宇宙での軍拡競争を招くに違いない。米中が協力して不信感緩和を図れないのは残念なことだ。
 宇宙での軍拡競争は、その勝者を含めてだれにとっても都合の悪い結果しかもたらさない。各国は、合意可能な責任ある規則作りにつとめた方がよい。例えば、ワシントンのあるシンクタンクは、レーザー装置を使って他国の宇宙システムを妨害すつことを排除し、なかなか消失しない「宇宙ごみ」を撒き散らす行為を防止する規則作りを提案している。米中の競争は続くだろうが、競争を制限するためのよりよい方法があるはずだ。(読売新聞2007年2月1日付『世界の論調』欄に掲載)



以下は私のコメント。

1月23日に実施された中国による人工衛星破壊実験は、宇宙軍拡というパンドラの箱を開けたものと、後世の歴史家に評されることになるのかもしれない。中国は「自国の老朽化した人工衛星を破壊する実験」と発表したが、いうまでもなく、今回の実験は米国が進めようとしている宇宙空間における軍事的優位への挑戦である。
 昨年8月に米国のブッシュ大統領は宇宙政策の指針文書を改定して、「必要ならば、敵対国の宇宙関連能力活用を阻止する」「米国の宇宙利用を禁じたり、制限したりする法的枠組みの構築に反対する」との姿勢を明らかにしていた。これは、宇宙兵器の開発や配備も念頭に置いたものである。それに対して、中国側も宇宙空間を支配する重要性を認識しており、軍事的能力向上の目的のために宇宙開発を精力的に進める構えである。例えば、昨年人民解放軍の機関紙『解放軍報』に掲載された論文の中では「制天権(宇宙を制する力)を持つ国だけが軍事的主導権を握れる」「宇宙における優位の争奪、武装化プロセスの加速は我が国の安全と発展の利益に重大な影響を及ぼす。宇宙の『盾』を作ることは国の安全を守る必然的要求になっている」という主張がなされている。
 現段階では、米中の宇宙軍拡を止める要素は、米中両国ともに見当たらないと思われる。確かに、エコノミスト誌の論説の通り、宇宙軍拡は誰にとっても都合が悪いことであろう。何らかの規制は必要である。しかし、新しい時代の技術に即した宇宙の軍備管理に関する国際法規は確立されているとはいえず、なかなか困難な作業になることは間違いない。現在宇宙空間において明確に禁止されていることは、大量破壊兵器の宇宙空間への配置ぐらいなものである。また、根本的な問題として、宇宙空間に打ち上げられた物体には通常の概念での国籍がなく、国籍に基づくの伝統的な国際法の原則とは異なる。したがって、従来の戦争法規を援用したり類推したりしてルールを作ることは著しく難しいのである。
 ただ、だからといって手をこまねいて見ているわけにはいかない。対人地雷禁止条約が制定されたプロセスと同様に有志国が集まって検討し合意実績を積み上げていくしかないのであろう。合意可能と思える規制の案として一つだけ挙げておくと、フランスが提唱している「衛星免除案」がある。これは、現在宇宙空間に存在する衛星をすべて防衛的なものとみなして、それらへの攻撃を各国が行なわないことを約束するというものである。
 米中間の宇宙軍拡競争に関して、もう一つの視点は軍事的合理性である。冷戦時代に米ソは、相互確証破壊を担保して逆説的に核戦争を防止するためにABM(弾道ミサイル迎撃ミサイル)禁止条約やMIRV(多弾頭ミサイル)禁止条約などを締結していた。両国の考え方いかんによっては将来的な可能性としては宇宙軍拡に関しても同様の対応は排除できないかもしれない。
 話を宇宙における軍備管理に戻すと、我が国は「宇宙の平和利用原則とは非軍事を意味する」という奇妙な解釈を改めた上で、積極的に関与すべきであろう。それが「主張する外交」というものである。ただ、その過程で米国と共同で推進しているミサイル防衛構想と齟齬をきたすようなことがあってはならない。これは十分に注意すべき点である。



(参考記事1)
[中国、人工衛星破壊実験の実施を確認]
(1月23日18時22分配信 ロイター)
 [北京 23日 ロイター] 中国政府は23日、人工衛星破壊実験を実施したと表明した。外務省のスポークスマンLiu Jianchao氏は記者会見で、中国が人工衛星破壊実験を実施したことを確認した。
 中国はこれまで、ミサイルを使用して自国の老朽化した人工衛星を破壊する実験に成功したか否かについて、公的な発表を避けていた。
 米政府関係者は先週、宇宙の軍事競争を深刻化させる行為だと中国を非難した。
 米国務省のスポークスマンは22日、中国政府関係者が週末に北京でヒル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)と面談した際、実験を実施したことを認めた、と明らかにしていた。

(参考記事2)
[米の宇宙兵器政策に「対抗措置」=中国が昨年11月に警告]
(1月26日3時0分配信 時事通信)
 【ワシントン25日時事】昨年11月に北京で開かれた国際会議の席上、中国代表団が宇宙兵器に関するブッシュ米政権の基本政策に強い憂慮を表明、「対抗措置」を講じる必要があると警告していたことが分かった。この国際会議に出席した元米政府高官が24日までに明らかにした。
 ブッシュ大統領は昨年8月、宇宙政策の指針文書を改定。「必要ならば、敵対国の宇宙関連能力活用を阻止する」と宣言し、「米国の宇宙利用を禁じたり、制限したりする法的枠組みの構築に反対する」として宇宙兵器の開発、配備も辞さない方針を表明していた。
 中国側の警告は、こうした米国の宇宙兵器政策に対する反発の強まりを物語っており、中国の衛星攻撃兵器(ASAT)実験実施の一因になった可能性をうかがわせる。

(参考記事3)
[中国衛星兵器の撃退可能=ミサイル防衛技術を応用-米高官]
(1月30日13時0分配信 時事通信)
 【ワシントン29日時事】米国防総省ミサイル防衛局のオライリー副局長は29日、ワシントン市内で講演し、中国による衛星攻撃兵器(ASAT)の実験成功に関し、「われわれにはミサイルやセンサーなどの強大な能力が備わっている。命令が下されれば、容易に対処できる」と述べ、既存のミサイル防衛技術を応用して撃退することは可能との見解を示した。
 米政府は、中国がASAT実験で自国の衛星を破壊したことに対し、強い懸念を表明しており、オライリー副局長の発言は中国側をけん制する狙いもあるとみられる。
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