猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

量刑意識、国民にばらつき―裁判員制度をめぐり最高裁が意識調査

2006-03-22 17:56:16 | 訴訟・裁判・司法
 周知の通り、2009年から刑事裁判において、専門の裁判官とともに一般国民の中から事件ごとに選任された裁判員が合議して有罪無罪及び量刑を決める裁判員制度が導入される。英米などの陪審員制度は事件ごとに選任される点は我が国の制度と同じだが、量刑は専門の裁判官のみが決める点が異なる。また、独仏などの参審制度は、事件ごとではなくて数年の任期にわたって務める点が異なる。この場合、何件もの事件を担当することで参審員が「学習する」ことができる。我が国が導入しようとしている制度は類例のないものであると言える。そういう背景で、最高裁の司法研修所は、刑事裁判の量刑に関する国民と裁判官の意識を比較した調査結果を実施し、15日に公表した。それによれば、殺人事件の量刑について、国民の意見が死刑から執行猶予付きの懲役刑まで大きなばらつきがあったのに対し、裁判官は互いに似通った意見を示すなど、両者の違いが鮮明になったという。
 ところで、司法という機能は三権の中でも民主的正当性が比較的低いため相対的に弱く受身な存在であると教科書的には説明されている。これは完全に正しいわけではなくて、司法の権能が法的安定性を重視するために極度の専門性を必要とし、あえて一般人の手にかからしめる度合いを低くして、逆に、人権の保護に資するように設計されているというべきであろう。早い話、「人民裁判はまかりならん」ということである。そうはいっても、裁判員制度や陪審員制度が無意味というわけではない。とりわけ、刑罰を科する意義は「応報刑」「一般予防」にあるというのが我が国の裁判所がとる通説的立場であるから、こと刑事裁判においては一般人の社会的通念は到底無視しえないからである。乱暴に言ってしまえば、応報刑というのは「目には目を」、一般予防というのは「見せしめによる威嚇効果」である。一般人の目から見て「目には歯を」になっていたり、刑が軽くて「見せしめ」になっていなかったり、逆に度が過ぎて「恐怖裁判」になっていたりすれば、民主国家における司法制度として落第だろう。近年の裁判は、専門家による量刑の相場と社会的な常識が乖離しているのではないかというのが、裁判員制度導入の根底にある。私は、司法の専門性は揺るがすべきではないと思うし、硬直的とも思える判例にもそれなりに理由があると思うが、現在のように「人の心を忘れているのではないか」と見えるような司法の在り方がよいとは到底考えられない。裁判員制度がそこを修正するための契機になればよいと思う。
 さて、このたびの調査ではいくつかの事例があげられて、それに対する量刑が問われた。執行猶予、懲役2年6月以上、懲役5年以上、懲役7年6月以上、懲役10年以上、懲役12年6月以上、懲役15年以上、懲役17年6月以上、無期懲役、死刑のいずれが妥当か考えながら以下の事例を考えてみていただきたい。よかったらコメント欄にでも量刑を書いてください。

【事例1】男(30)が生活費のために多額の借金を重ね、自宅を訪ねてきた知人男性(70)から返済を迫られたことに激高し、包丁で腹部を刺して殺害した。男に前科はないとする。

【事例2】事例1と同様だが、男に傷害の前科がある場合。

【事例3】男(45)が居酒屋で飲酒中、偶然隣り合った男性(40)と口論になり、「バカ野郎」とののしられたことから、店のナイフで男性の胸を刺して殺害した。

いずれの事例でも専門の裁判官の回答は、懲役10年前後に集中したそうだ。
 量刑そのもの以外で興味深いと思ったのが、量刑を決めるにあたって国民がほしがっている情報である。1位が「類似事件の裁判例」(83%)。これは、国民が司法に関する安定性を求めている証拠であり、なかなか成熟していると思う。また「再犯率」(73%)、「受刑者の刑務所内での生活」(47%)、「仮釈放の時期と割合」(36%)といった項目は、プロの裁判官にとって虚を衝かれたともいえるのではないか。これこそ、一般人の社会通念が送り込まれる前兆ではないかと期待している。似権派の弁護士・裁判官の跳梁跋扈を、「心ある素人」が食い止めることができれば制度改革の目的は達成されたことになる。そうなれば、極端な話、国民に負担を強いる裁判員制度は見直してもよいのかもしれない。



(参考記事)
[量刑意識、国民にばらつき…最高裁が調査]
 2009年に実施される裁判員制度に向け、最高裁の司法研修所は15日、刑事裁判の量刑に関する国民と裁判官の意識を比較した調査結果を公表した。
 殺人事件の量刑について、国民の意見が死刑から執行猶予付きの懲役刑まで大きなばらつきがあったのに対し、裁判官は互いに似通った意見を示すなど、両者の違いが鮮明になった。最高裁は制度開始に当たり、裁判官に調査結果を重要な参考資料としてもらう方針だ。
 調査は、前田雅英・首都大学東京教授(刑事法)と現役の刑事裁判官が中心となり、昨年8~9月にアンケート形式で行った。対象は、東京、大阪、仙台など全国8都市で無作為抽出した国民1000人と、刑事裁判を担当する地裁・高裁の全裁判官766人。
 調査では、金銭トラブルや心中、暴力団抗争など、10種類の殺人事件のシナリオを用意。それぞれふさわしい量刑を、死刑から執行猶予まで10段階の選択肢で聞いた。その結果、国民は全事件で回答が分散。一方、裁判官は、それぞれの事件で狭い範囲に8~9割の回答が集中していた。
 また、犯行の計画性や前科など事件の性質を示す複数の要素について、量刑を重くする事情なのか、軽くする事情なのかを聞いたところ、〈1〉被告が少年〈2〉飲酒で判断力が低下〈3〉被害者が配偶者――の3要素では、「重くする」とした国民が目立ったのに対し、裁判官は「軽くする」との回答が多かった。少年事件や家庭内の事件について、重罰を求める国民の意識が浮かび上がった。
(読売新聞) - 3月15日23時7分更新


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9 コメント

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Unknown (PJ)
2006-03-23 10:48:26
どの事例も10年前後というのは、命を奪ったという事実が10年プラスマイナス事情ということでしょうか。

テレビなどで量刑を聞いて納得していると、一様にしかも知らないうちに刑期が短くなっていたりして釈然としないことって多いですよね。

「再犯率」や「仮釈放の時期と割合」が斟酌されて当然のような気がします。あとで軽くしたりしないのであれば仮釈放のことを考慮する必要もないのにと思います。

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PJさまへ (猫研究員。(高峰康修))
2006-03-23 17:41:02
もう少し細かく見ると、専門家の立場では、事例1、2では10年、事例3では10年弱(8年ぐらいか?)という程度の差は出てくるようです。事例1と2では、前科の有無が専門家にとっては差をつけるべき事情にあたらないが、一般国民から見ると事例2の方がぐっと重くなる傾向だったそうです。傷害の前科というのはやはり重くすべき事情だと思うのですが…。加害者の側の事情は考慮しない一方で、事例3のように被害者にも落ち度が認められる場合には、専門家は甘めに量刑をとりがちです。「被害者に冷たく加害者に篤い」と批判されても仕方ないですよ。



>どの事例も10年前後というのは、命を奪ったという事実が10年プラスマイナス事情ということでしょうか。



結局はそういう杓子定規な「相場」になっているんでしょうね。積み重ねられた判例に従って裁判をしていくので、ある程度杓子定規になるのは仕方ないですが、相場が甘いのは大問題です。なぜか「検察の求刑の8割が相場」という暗黙の了解もあるようですし。そこで、国民の常識による調整が必要なわけです。

それから無期懲役の運用も考え直す必要がありますね。仮釈放しすぎなんですよ。10年もすれば出所してしまいます。仮釈放なしの終身刑の導入も検討する価値はあるでしょうね。
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コメント・TB恐縮です (VIVA)
2006-03-24 14:36:27
高峰さま、私の方のブログにもTBおよびコメントを頂戴し、ありがとうございます。



こちらのブログで、勉強させていただいております。裁判員制度に対して、自民党や民主党は考えがまとまっているのでしょうか?WEB上のどこかに資料などがありますでしょうか?
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Unknown (総理大人)
2006-03-24 22:28:37
仮釈放でシャバに出られるというのは、私やっぱり解せないです。模範囚でも満期までおつとめしてもらわないと、やっぱ裁判軽視に思えるんです。

逆に、模範囚でない者は、どんどん刑期が延びるという制度がいい。だって模範囚って決まるのも結局刑務官の裁量とかだったりすると思うし、じゃあ模範囚でない者も裁量で決まってるってことじゃないですか、って実際はどう決まってるのか知らないですけど。定員の問題があるなら、絶対脱獄できない刑務所などなど安全に暮らせるならウチの近くに刑務所できてもかまわない。でもそれこそ、夢洲とか舞洲とか、人住んでないところに刑務所作ればいいのに。

それはまあいいんですが、仮釈放なしの終身刑と死刑はどっちが罰が重いのかとか、懲役と禁固はどっちが罪が重いのかとか、いろいろ考えるんです。

死刑というのは拘置所で、いつ死刑が執行されるかという毎日の恐怖が実質的に罰なのだろうし、でも一生刑務所から出られないと知ったまま生きるというのもすごい罰じゃないかとか、働かなくてはならない懲役は「働ける」という一面があって、ただ刑務所にいるだけの禁固の方がもしかしたら罰なのかなあとか、どうなんでしょう。。

仮釈放なしの終身刑の囚人と、死刑囚どっちも経験した人なんかいないだろうし、質問できない事柄なんですよね。
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VIVAさまへ (猫研究員。(高峰康修))
2006-03-25 01:15:21
いえいえ、どういたしまして。

裁判員制度に関しては、決定事項ということで、自民党・民主党の考え方といっても賛否が分かれているということはありません。

民主党の考え方は例えばhttp://www.dpj.or.jp/seisaku/sihou/BOX_SH0054.htmlhttp://www.sanin.com/site/page/yamauchi/self/saibanin/をご覧くだされば極めて明確に分かります。

自民党の考え方は、自民党は与党ですから政府(法務省)のHPをご覧になればよいでしょう。例えばhttp://www.moj.go.jp/SAIBANIN/などに色々解説が書いてあります。
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総理大人さまへ (猫研究員。(高峰康修))
2006-03-25 01:35:55
>逆に、模範囚でない者は、どんどん刑期が延びるという制度がいい。



これは感情的にはよく理解できるのですが、法律論としては無理です。裁量で後から刑を重くできるというのは近代自由主義刑法の想定するところではありません。裁量はよくないという意味では、安易な仮釈放も同様に問題視されるべきであることは間違いありません。



>死刑というのは拘置所で、いつ死刑が執行されるかという毎日の恐怖が実質的に罰なのだろうし



死刑は、実は6ヶ月以内に執行しないといけないんですよ。刑事訴訟法にちゃんとそう書いてある。だから「いつ死刑が執行されるかという毎日の恐怖が実質的に罰」という実態は違法状態だったりします。



>でも一生刑務所から出られないと知ったまま生きるというのもすごい罰じゃないかとか



それはそうですよね。「絶望的になった囚人が自棄になって脱獄を図るようになるから終身刑はいかん、死刑の方がよい」と検事出身の佐々木知子参議院議員が著書の中で述べていた記憶があるんですが、その論法には若干疑問が残った。

確かに、終身刑の導入は死刑廃止論には追い風の面があるのが気がかりではあります。



懲役と禁錮だったら、一応は懲役の方が重いことになっていますが、どっちが受刑者にとって辛いか、これは主観の問題になっちゃいますから、何とも言えないかなあ。
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Unknown (総理大人)
2006-03-25 12:07:31
>感情的にはよく理解できるのですが、法律論としては無理



仮釈放というのは解せない一方で、模範囚と素行の悪い囚人が同じというのもこれまた。。じゃあどうするかという思考の結果、どうせ同じ裁量なら、素行の悪い者は刑期延ばそう、という、「裁判官が」「判決時に」「期限を定めて」そういうことを言えばなんとかなるんじゃないかと思ったんですが、そういうことにはならんのですかね。



>だから「いつ死刑が執行されるかという毎日の恐怖が実質的に罰」という実態は違法状態だったりします。



私は、6か月という期限が定められてるからこそ、恐怖感が間延びしないものだと思ってるんです。本当のとこrはわかりませんが、どんな恐怖でも慣れてしまうんじゃないかと。だから、杉浦さんの当初の発言なんてのはそういう面からも許せない。



>終身刑の導入は死刑廃止論には追い風の面がある



私は死刑反対論者ではなくって、極端かもしれんですが、死には死で償え、殺人者は(ほぼ)全員死刑、婦女暴行犯も死刑か、手術か薬で去勢させろってくらいに思ってるんですが、仮釈放なしの終身刑と死刑はあるいは両立できないのかもしれないなあと思ってます。





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総理大人さま (猫研究員。(高峰康修))
2006-03-25 16:10:20
>素行の悪い者は刑期延ばそう、という、「裁判官が」「判決時に」「期限を定めて」そういうことを言えばなんとかなるんじゃないかと思ったんですが



なるほど、それだったら、不定期刑という手があります。何年以上何年以下という刑の言い渡し方です。少年犯罪なんかで現に用いられていますよ。そのかわり、下限未満での仮釈放は認めないというようにすればいいですね。初めの書き方だと、例えば懲役10年という判決で収監されたにも関わらず素行が悪いから後から5年追加みたいな風に読めたものだからビックリしてしまったのです。



>仮釈放なしの終身刑と死刑はあるいは両立できないのかもしれないなあと思ってます。



これは、論理面で慎重につめていく必要があろうかとは思います。刑罰観という極めて深い問題になるので、簡単に答えは出ないかもしれません。私の考えでは、応報刑という側面を考えると、殺人には死刑がふさわしいとは思います。で、悪質な婦女暴行(但し殺人は犯していない場合)なんかは終身刑かなと。そういう使い分けの仕方は理屈としてありえそうです。
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Unknown (総理大人)
2006-03-25 17:37:00
ああそうだ、下限厳守の不定期刑。そんなイメージで言ってました。上限を多くとって、刑期を延長する場合の単位も定めておいてほしいですけど。

不定期刑を少年法だけじゃなく、刑法等にも用いるということで。で、その下限を現在の量刑くらいの下限に設定してほしいわけです。仮釈放をなくしてしまって。そういうものに法改正していってほしい。

それが法理論的にどうとか、諸外国はどうとか知らんのですけれど。
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