■日曜の午後はミステリ作家とお茶を/ロバート・ロプレスティ 2018.11.5
JJおじさんを連想させる、題名が何とも素敵なミステリ 『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』 を読みました。
地味なミステリの短編集でした。
一つ一つは、短いミステリなのですが、そのなかでの登場人物が意外に多く、ひとりひとり憶えるのが煩わしい。忘れては、話がわからない。
訳者は、後書きで「ユーモアミステリであるが、本編中、シャンクスも著者もぼやいてばかり、少々退屈なところもありますが、」と述べられています。
読んで納得。
先ずは、シャンクスの口癖から。
「ぼくが?」シャンクスはジーンを凝視した。「馬鹿なことをいわないでくれ。本物の事件を解決する方法なんて知らないよ。ぼくはそういう話をつくっているだけなんだから」
その妻コーラについて。
コーラについては、ぼくとの結婚生活がなんとかつづいているだけで充分謎めいている、とシャンクスは思っていた。ほかの秘密など必要ないほどに。
作家とジャーナリストの関係。
シャンクスはあらかじめ警告しておいた。記者が書くのは、愛する師のような夫に手を引かれて作家への道を歩きはじめたという話か、でなければ、作家の夫を支えるためにいままで自分の執筆は先送りにしてきたという話だ。コーラは数年前に自発的に書くことに興味を持ち、ほぼ独力で腕を磨いてきたわけだが、そういう話は現代の“神話”には合わないのだ。だから取材者はコーラを“幸運な生徒”か“自己犠牲を厭わない妻”のどちらかの型にはめこもうとするだろう、とシャンクスは思っていた。コーラにできるのは、せいぜいどちらの型にはめられるのがましか選ぶことくらいだった。
ローズがペーパーバックにシャンクスのサインをねだった。「甥っ子のために。あなたの本が大好きなんです」記者というのはほんとうに無欲だ。必ず誰かほかの人のためにサインをほしがるのだから。
ランチと取材が終わろうとしていた。どちらもおなじくらい見かけ倒しだったが、コーラはにっこり笑ってローズに自作の情報の載ったパンフレットを渡していた。記者というのは宣伝用の素材を紛失する名人だからね、とシャンクスがあらかじめ警告しておいたからだ。
「シャンクス、きみだってメディアがどんなものかは知っているだろう。汚点を見つけられなければ、でっちあげるんだよ。そうでもしなけりゃ、あんな魚のフライの包み紙なんか誰も買いやしないんだから」
このミステリの雰囲気を覗いてみよう。
「イソップのすっぱいブドウの話みたいに聞こえるけど」コーラはいった。
シャンクスはぼさぼさの眉をぐっとあげていった。「何が? 女優と結婚ってところ?」自分より二十歳年下の女性と結婚するなど、考えるだけで恐ろしい。ふたりでどんな話をしたらいいかさえ見当もつかなかった。
若造にナイフを向けられ、財布を寄こせといわれたのだ。いや、正直になろうじゃないか、こういわれたのだ。“財布を出せよ、じいさん”。この言葉に刺されたのだった。
「わたしとあなたのちょっとした火遊びのことをコーラに話すわ」
シャンクスは目を見ひらき、次いで声を立てて笑った。「まったくね、そんな無茶苦茶な話は聞いたこともないよ。ぼくを強請ろうとするわりには、ずいぶんお粗末なネタを使ったもんだね」
「それはどうも」
「怒るなよ、ジーン。......」
シャンクスが、このミステリでもらした一言。
読むならミステリのほうがいいけれど、実生活ではロマンスのほうがずっと楽しい。
亡くなっている作家は楽しみのために読む。存命中の作家は市場調査のために読む。
少々退屈な部分もみられますが、あっさりとした洒落たミステリです。
『 日曜の午後はミステリ作家とお茶を/ロバート・ロプレスティ/高山真由美訳/創元推理文庫 』
JJおじさんを連想させる、題名が何とも素敵なミステリ 『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』 を読みました。
地味なミステリの短編集でした。
一つ一つは、短いミステリなのですが、そのなかでの登場人物が意外に多く、ひとりひとり憶えるのが煩わしい。忘れては、話がわからない。
訳者は、後書きで「ユーモアミステリであるが、本編中、シャンクスも著者もぼやいてばかり、少々退屈なところもありますが、」と述べられています。
読んで納得。
先ずは、シャンクスの口癖から。
「ぼくが?」シャンクスはジーンを凝視した。「馬鹿なことをいわないでくれ。本物の事件を解決する方法なんて知らないよ。ぼくはそういう話をつくっているだけなんだから」
その妻コーラについて。
コーラについては、ぼくとの結婚生活がなんとかつづいているだけで充分謎めいている、とシャンクスは思っていた。ほかの秘密など必要ないほどに。
作家とジャーナリストの関係。
シャンクスはあらかじめ警告しておいた。記者が書くのは、愛する師のような夫に手を引かれて作家への道を歩きはじめたという話か、でなければ、作家の夫を支えるためにいままで自分の執筆は先送りにしてきたという話だ。コーラは数年前に自発的に書くことに興味を持ち、ほぼ独力で腕を磨いてきたわけだが、そういう話は現代の“神話”には合わないのだ。だから取材者はコーラを“幸運な生徒”か“自己犠牲を厭わない妻”のどちらかの型にはめこもうとするだろう、とシャンクスは思っていた。コーラにできるのは、せいぜいどちらの型にはめられるのがましか選ぶことくらいだった。
ローズがペーパーバックにシャンクスのサインをねだった。「甥っ子のために。あなたの本が大好きなんです」記者というのはほんとうに無欲だ。必ず誰かほかの人のためにサインをほしがるのだから。
ランチと取材が終わろうとしていた。どちらもおなじくらい見かけ倒しだったが、コーラはにっこり笑ってローズに自作の情報の載ったパンフレットを渡していた。記者というのは宣伝用の素材を紛失する名人だからね、とシャンクスがあらかじめ警告しておいたからだ。
「シャンクス、きみだってメディアがどんなものかは知っているだろう。汚点を見つけられなければ、でっちあげるんだよ。そうでもしなけりゃ、あんな魚のフライの包み紙なんか誰も買いやしないんだから」
このミステリの雰囲気を覗いてみよう。
「イソップのすっぱいブドウの話みたいに聞こえるけど」コーラはいった。
シャンクスはぼさぼさの眉をぐっとあげていった。「何が? 女優と結婚ってところ?」自分より二十歳年下の女性と結婚するなど、考えるだけで恐ろしい。ふたりでどんな話をしたらいいかさえ見当もつかなかった。
若造にナイフを向けられ、財布を寄こせといわれたのだ。いや、正直になろうじゃないか、こういわれたのだ。“財布を出せよ、じいさん”。この言葉に刺されたのだった。
「わたしとあなたのちょっとした火遊びのことをコーラに話すわ」
シャンクスは目を見ひらき、次いで声を立てて笑った。「まったくね、そんな無茶苦茶な話は聞いたこともないよ。ぼくを強請ろうとするわりには、ずいぶんお粗末なネタを使ったもんだね」
「それはどうも」
「怒るなよ、ジーン。......」
シャンクスが、このミステリでもらした一言。
読むならミステリのほうがいいけれど、実生活ではロマンスのほうがずっと楽しい。
亡くなっている作家は楽しみのために読む。存命中の作家は市場調査のために読む。
少々退屈な部分もみられますが、あっさりとした洒落たミステリです。
『 日曜の午後はミステリ作家とお茶を/ロバート・ロプレスティ/高山真由美訳/創元推理文庫 』