■ストーンサークルの殺人 2022.10.31
M・W・クレイヴン 『 ブラックサマーの殺人 』 が、殊の外、面白かった。
それで、クレイヴン の前作 『 ストーンサークルの殺人 』 を読んでみました。
「ブラックサマーの殺人」が面白かったことや「ゴールド・ダガー受賞作」であることを考えて見れば絶対面白いはずです。
期待をこめて読み始めました。
期待通りの面白さ。時間の経つのを忘れました。
こいつは大変だ……とんでもなく大変だ。
「ぼくは正義を果たすためにやってるんじゃない。正義なんかどうだっていい。復讐のためにやったことだ」
連続殺人犯および重度の性犯罪者の出現を予測するほか、複雑あるいは一見、動機がなさそうな殺人事件の捜査にあたる警察を、分析面で支援していくのがこの組織の目的だ。イモレーション・マンは、重大犯罪分析課の出動要件に当てはまっている。
バーコンテーション・ポイントは、スナークあるいはアイロニー・マークとも呼ばれることがあり修辞的、諧謔的、あるいは皮肉がこめられていることを示すのに使われる、あまり知られていない記号である。また、文のなかにべつの意味が隠れていることを示すのにも使われる。
ジョナサンの目か逃げ道を求め、スロットマシンのようにせわしなく動いた。喉にかかったポーの手が万力のように締めつけている。ポーはその手を離すことなく振り返り、オフィスにいる全員に呼びかけた。「はじめて会う者がほとんどだろう。おれはワシントン・ポー部長刑事だ。いじめは絶対に容赦しないからよく覚えておけ」
うそではなかった。絶対に容赦しない。めったにない名前で、母はおらず、しかも父親はとんでもない変人という三要素がそろっていたおかげで、彼は学校で常にいじめの対象だった。それを逃れる唯一の方法は、いやがらせをしてきたやつには目にものを見せてやればいいと悟るまで、さほど時間はかからなかった。いじめっ子連中はポーか反撃してくることを、そしてけっして引きさからず、戦いつづけることを思い知らされた。ポーに喧嘩を売ったら最後、誰かが意識を失うまで終わらない。ほどなく、誰もか彼には近づかなくなった。
彼女のような人間ははじめてだ。社会常識というものをまったく理解していないように思える。脳と口のあいだにフィルターがいっさいなく、考えたことかそのまま口から出てしまうのだ。非言語によるコミュニケーションは理解できない。アイコンタクトをとるのも、目をそらすのも拒む。彼女に名前を呼ばれて無視すれば、返事をするまでえんえんと呼ばれつづける。
民主主義が機能するのは、国民がそれを認めている場合にかぎられる。
『 ストーンサークルの殺人/M・W・クレイヴン/東野さやか訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 』
M・W・クレイヴン 『 ブラックサマーの殺人 』 が、殊の外、面白かった。
それで、クレイヴン の前作 『 ストーンサークルの殺人 』 を読んでみました。
「ブラックサマーの殺人」が面白かったことや「ゴールド・ダガー受賞作」であることを考えて見れば絶対面白いはずです。
期待をこめて読み始めました。
期待通りの面白さ。時間の経つのを忘れました。
こいつは大変だ……とんでもなく大変だ。
「ぼくは正義を果たすためにやってるんじゃない。正義なんかどうだっていい。復讐のためにやったことだ」
連続殺人犯および重度の性犯罪者の出現を予測するほか、複雑あるいは一見、動機がなさそうな殺人事件の捜査にあたる警察を、分析面で支援していくのがこの組織の目的だ。イモレーション・マンは、重大犯罪分析課の出動要件に当てはまっている。
バーコンテーション・ポイントは、スナークあるいはアイロニー・マークとも呼ばれることがあり修辞的、諧謔的、あるいは皮肉がこめられていることを示すのに使われる、あまり知られていない記号である。また、文のなかにべつの意味が隠れていることを示すのにも使われる。
ジョナサンの目か逃げ道を求め、スロットマシンのようにせわしなく動いた。喉にかかったポーの手が万力のように締めつけている。ポーはその手を離すことなく振り返り、オフィスにいる全員に呼びかけた。「はじめて会う者がほとんどだろう。おれはワシントン・ポー部長刑事だ。いじめは絶対に容赦しないからよく覚えておけ」
うそではなかった。絶対に容赦しない。めったにない名前で、母はおらず、しかも父親はとんでもない変人という三要素がそろっていたおかげで、彼は学校で常にいじめの対象だった。それを逃れる唯一の方法は、いやがらせをしてきたやつには目にものを見せてやればいいと悟るまで、さほど時間はかからなかった。いじめっ子連中はポーか反撃してくることを、そしてけっして引きさからず、戦いつづけることを思い知らされた。ポーに喧嘩を売ったら最後、誰かが意識を失うまで終わらない。ほどなく、誰もか彼には近づかなくなった。
彼女のような人間ははじめてだ。社会常識というものをまったく理解していないように思える。脳と口のあいだにフィルターがいっさいなく、考えたことかそのまま口から出てしまうのだ。非言語によるコミュニケーションは理解できない。アイコンタクトをとるのも、目をそらすのも拒む。彼女に名前を呼ばれて無視すれば、返事をするまでえんえんと呼ばれつづける。
民主主義が機能するのは、国民がそれを認めている場合にかぎられる。
『 ストーンサークルの殺人/M・W・クレイヴン/東野さやか訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 』