『NEXT』(マイクル・クライトン著、酒井昭伸訳、早川書房刊)を読む。
バイオテクノロジーが主題となったクライトンの新刊ということで早速購入して読書。バイオテクノロジーが同じく重要な役割を果たした『ジュラシック・パーク』が南海の孤島で繰り広げられるサスペンスだったが、今回の場合、そのバイオテクノロジーは私たちが今生活しているこの社会で不気味な姿を現す。遺伝子導入動物(transgenic animal)や胚性幹細胞、レトロウイルスを用いた遺伝子治療など今まさに起こっていることがとりあげられる。それぞれの話題が同時並行して、コマ送りのように進んでいく構成をとっていることで、まるで日々私たちがニュースに接しているような現実感を持たされてしまう。また随所に実際のバイオ関係の事件を多少修飾したコラムが挿入されており、その効果を高めようとした意図が窺える。
バイオ産業による遺伝子特許を巡る熾烈な争いも、さもあらんと思わせる描き方で、利益至上主義の企業が追いかける、特殊な人が産生する細胞の「所有」という倫理的な問題がこの小説のひとつの大きな主題となっている。
遺伝子導入により作られた動物は『ジュラシック・パーク』ではすでに絶滅した恐竜と云う異形の怪物であったが、今回は言語を操るチンパンジーでありオウムであるというのも、親近感のある動物の方がかえって現実感があると考えられたためではないだろうか。本作を読むと、遺伝子導入され作られた生物が、人間に危害を及ぼすというテーマはすでに古くなっており、遺伝子導入技術を使う人間とそれが生み出す利益を追求する人間こそが実は最も恐ろしい存在であり、これからのテーマであると言える。確かに本作でも人間は、自分の技術をまだ充分に使いこなせていない存在である。しかしフランケンシュタインの時代から投げかけられてきたメッセージである、人間が作り出した産物によって予想外の危害を受けてしまうことを描き、人間の傲慢さを戒めるというテーマが今や、遺伝子技術を随意に扱えるようになってしまったとき人間はどのような社会を目指すのかというより直接的なテーマに変わりつつあるのではないだろうか。そのとき私たちに危害を及ぼすのはどこか異界から襲来する未知の生物ではなく、私たちが日々生活している社会の中に存在する普通の人々であり、法律なのだ。
さまざまな人間が事件を巻き起こしながら展開していき、最後はどうまとめるのだろうと読み進んでいったが、まるでほどけていた二重螺旋がうまくまとまるようにテンポよく最終部へ読者を引き込んでいく手際のよさには改めて脱帽した。
バイオテクノロジーが主題となったクライトンの新刊ということで早速購入して読書。バイオテクノロジーが同じく重要な役割を果たした『ジュラシック・パーク』が南海の孤島で繰り広げられるサスペンスだったが、今回の場合、そのバイオテクノロジーは私たちが今生活しているこの社会で不気味な姿を現す。遺伝子導入動物(transgenic animal)や胚性幹細胞、レトロウイルスを用いた遺伝子治療など今まさに起こっていることがとりあげられる。それぞれの話題が同時並行して、コマ送りのように進んでいく構成をとっていることで、まるで日々私たちがニュースに接しているような現実感を持たされてしまう。また随所に実際のバイオ関係の事件を多少修飾したコラムが挿入されており、その効果を高めようとした意図が窺える。
バイオ産業による遺伝子特許を巡る熾烈な争いも、さもあらんと思わせる描き方で、利益至上主義の企業が追いかける、特殊な人が産生する細胞の「所有」という倫理的な問題がこの小説のひとつの大きな主題となっている。
遺伝子導入により作られた動物は『ジュラシック・パーク』ではすでに絶滅した恐竜と云う異形の怪物であったが、今回は言語を操るチンパンジーでありオウムであるというのも、親近感のある動物の方がかえって現実感があると考えられたためではないだろうか。本作を読むと、遺伝子導入され作られた生物が、人間に危害を及ぼすというテーマはすでに古くなっており、遺伝子導入技術を使う人間とそれが生み出す利益を追求する人間こそが実は最も恐ろしい存在であり、これからのテーマであると言える。確かに本作でも人間は、自分の技術をまだ充分に使いこなせていない存在である。しかしフランケンシュタインの時代から投げかけられてきたメッセージである、人間が作り出した産物によって予想外の危害を受けてしまうことを描き、人間の傲慢さを戒めるというテーマが今や、遺伝子技術を随意に扱えるようになってしまったとき人間はどのような社会を目指すのかというより直接的なテーマに変わりつつあるのではないだろうか。そのとき私たちに危害を及ぼすのはどこか異界から襲来する未知の生物ではなく、私たちが日々生活している社会の中に存在する普通の人々であり、法律なのだ。
さまざまな人間が事件を巻き起こしながら展開していき、最後はどうまとめるのだろうと読み進んでいったが、まるでほどけていた二重螺旋がうまくまとまるようにテンポよく最終部へ読者を引き込んでいく手際のよさには改めて脱帽した。