烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

人間原理

2006-11-24 23:22:07 | 本:哲学
 昨晩に引き続き、『ゼロからの論証』に出てくる人間原理について考える。
 この宇宙全体が私たちのような知的生命体をどうして生み出すように配置されているのかという問いに、強い人間原理は、さまざまな物理定数が人間の存在を許すように配置されているからだと答える。人間は生じるべくして生じたというように聞こえるが、そうではない。物理定数がさまざまに決まっている多くの宇宙がここでは想定されている。多くの宇宙の集合の中から私たちはこうして精妙に調整されているこの宇宙を観測している。結果として見出されたこの宇宙というわけだ。
 本書では、宣伝用飛行船から落ちたネジがたまたま下にいた人に当たるということを例にとっている。空から落ちてきたネジがたまたま当たるという低確率の事象を説明するために、当たったその人以外にも多くの人々がその周囲にいたとする。この場合任意の誰かに当たる確率は、高い。しかしほかでもない私に当たる確率はやはり低い。周囲に誰がどれだけいようと低い。
 しかし、ネジがあたるまでは誰がわたしであるかは分からないのである。当たってしまって初めて「このほかでもない私」が登場する。ネジが当たってしまって出現するこの私は、観測者によって私が生まれたとされるところのこの宇宙である。精妙に調整されることと私という観測者が生まれることは、独立した事象ではないのだ。だからほかでもないこの宇宙は必然的に微調整された宇宙である。
 私に起こるさまざまなことがどうしてほかでもないこの私に起きたのかという問いの解決に使えないか。