オイワちゃんはうちの猫ではなくノラだった。そのため写真は無い。
自分で餌を取るという事は出来なかったのでたぶん捨て猫だったのだろう。
うちには絶えず数匹の猫が居たので臭いがしたのだろう、それで益々猫が寄って来たり、自分の家では飼えないと思う人がわざと家の前に置き、朝戸を明けると戸口に小さな箱に子猫が2,3匹入れられて置いてある事もあった。
オイワちゃんは白に黒い模様があり、小振りの猫だったが、目が細くてブスで、余り身繕いをしないのか、いつも薄汚れていた。
気がつけば、家の周辺に居り時々カリカリをやっていたが、竹輪を与えているおじさんもあり、そちらの方が良いらしく、ない時だけねだりに来た。
その頃はブスのノラと言っていて格別名前はついていなかった。
ある時、交通事故にあったらしく、顔は腫れ上がり、益々細い目が潰れかけ、怪談話のお岩さんのような顔になり、体は因幡の白兎のように毛が無くなってピンク色の丸裸になっていた。
それでも竹輪を投げるおじさんのおかげで自力で元気になっていった。
毛はなくても黒い毛の生えていた所は薄っすら黒く、生えて来ると元通りの白黒模様だった。
そのことからうちでは「不死身のオイワちゃん」と言う名が付いたが、近所の同級生のシュウ君は「年がら腹ぼての淫乱猫」と言っていた。
確かにオイワのおなかは何時も膨らんでいたが、不思議と子猫連れている姿を見るのはまれだった。
うちの飼い猫で一番ハンサムで7,8キロもあり大きかったボンちゃんが近所の駐車場でずっと年上のオイワちゃんと交じっている姿を何度か目にしたことがあった。
私でなくみんなが、ボンちゃんに「相手を選べよ~。」と言ったが、猫の世界では案外もてたのかもしれない。
ボンが交通事故で亡くなってから、数ヶ月経った頃、部屋の戸を開けると、オイワちゃんとグレーに黒の縞模様のかわいいネコがベッドから飛び出してきて、余りにも突然の事で驚き「ギャ~!」とさけんでしっまった。
猫入り口(障子のひとますを開けたもの)からベランダにそそくさと逃げていったが、その後その子猫の姿も見ることはなかった。
オイワちゃんは多分10年以上生きて、ミーコと違い晩年は近くの散髪屋さんのおばさんにかわいがられ、餓えることなく一生を終えた。もう20年位前の事だ。