(産経新聞 9/5より転載)
北朝鮮が、日本の朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)に今夏、民主党の“攻略指令”を出していたことがわかった。北朝鮮は「鳩山新政権には期待している」(総連筋)といい、総連では日朝政治対話も視野に入れた民主党研究を始めたもようだ。民主党内には親北的なグループもあり旧自民党政権より対話路線のハードルが低い。新政権は対北政策の基本を早急に整備しておく必要がある。(久保田るり子)
■「労組を活用せよ」
関係者によると、北朝鮮の朝鮮労働党で日本の朝鮮総連を担当する「225」と呼ばれる対外連絡部から、総連中央本部に「民主党攻略」についての指示があったのは7月上旬。政権交代に備えて「民主党の支援組織の労組に影響力を使え」としたうえで、2006年のミサイル発射で日本政府が発動した日朝間を往来する船舶、万景峰号入港禁止措置について「本国への往来を希望する在日朝鮮人の人権問題として禁止措置解除を働きかけろ」との内容だったという。
この「指令」は総連の全国の地方支部にも伝達、徹底された。
北朝鮮当局は今春、訪朝した総連幹部にも「万景峰号」制裁解除への努力を指令。自民党政権の敗退が確実になった7月、「民主党攻略」として具体的に通達された。また、総連では「人事や政策など民主党研究が始まっている」(総連筋)という。北朝鮮がどのような対日攻勢をかけてくるかはまだ、不透明だが、北朝鮮にとって民主党の「政治主導」は願ってもない日本の方向転換に違いない。「北朝鮮には『民主党は動かせる』という期待が強い。民主党政権で日朝交渉再開を働きかける可能性は高い」(同)。
期待の背景は、旧日本社会党や総評など労組と総連、北朝鮮本国との歴史的な関係だ。連合(日本労働組合総連合会)傘下の自治労には北朝鮮と友好・交流を進めてきた地方の日朝議連のメンバーが、日教組の組合員には日本の代表的な親朝団体「主体思想研究会」の会員としての訪朝経験者もいる。また旧社会党系グループには訪朝経験者や総連からの政治献金を受けた議員が少なくないため、「日朝ルートを作りやすい」との認識があるようだ。
■民主党の対北政策
北朝鮮が「民主党に期待」するもうひとつの理由は同党の対北政策のあいまいさだ。
鳩山由紀夫代表は先月下旬、民放の番組で対北政策について「対話と協調」と述べ、河村建夫官房長官が「国連の制裁措置は有効」と疑義を呈するなどの物議を醸した。鳩山氏は拉致問題について被害者の家族から「民主党内には親北的な人たちがいる」と不安を訴えられた場面で「確かにそういう人はいるが、拉致問題は私が体をはって解決したい」などと述べているが、同党には「核問題の6カ国協議で日本が拉致問題に固執しすぎるのはいかがなものか」と発言してきた幹部もいる。
また鳩山氏は、今夏、韓国の野党元代表で“親北派”として知られる鄭東泳元統一相に「日本人拉致問題に関して意見を聞きたい」との親書を送っており、「鳩山氏の対北観はいまひとつハッキリしない」(北朝鮮ウオッチャー)
一方、小沢一郎代表代行は1990年、元自民党副総裁、金丸信訪朝団の直後に「北朝鮮からの名指し」で第18富士山丸の紅子船長らを迎えに行った。「小沢一郎氏は、いま北朝鮮権力中枢で後継体制責任者とみなされている金正日総書記の義弟、張成沢氏とも協議した。北朝鮮側からみれば交渉に足りる人物」(関係筋)との評価というが、その小沢氏は拉致問題に関して民主党支持者に「北朝鮮は何を言ってもきかない。『カネをいっぱい持って行って、何人か返してください』と言って解決するしかない」と語ったことが公になっている。こうした言動は「くみしやすい人物」との判断材料になっている可能性もある。
北朝鮮がクリントン元米大統領訪朝を働きかけ米国人記者解放でみせた融和策、金大中氏弔問外交から反転させた対韓国の平和攻勢は、オバマ米政権との直接交渉を引き出す国際世論の緩和を狙った環境整備であるのは明らかだが、日朝接触は昨夏以来、断絶状態だけに現状への不満も日本側にあるのも事実。
日本政府は「このところの変化は拘束者の帰国など現状を回復しただけでみせかけの柔軟路線だ」(外務省幹部)と冷静に分析しているが、一方では「日朝対話の再開は望ましい」(同)との立場だ。
「民主党は、政権スタート後の早い時期に外交・安保政策で国民の目にみえる成果を欲するだろう」とみる専門家は少なくない。こうした土壌が北朝鮮の狙う国際世論緩和戦術の“利害”に利用されることを懸念する声が早くも聞かれる。
北朝鮮が、日本の朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)に今夏、民主党の“攻略指令”を出していたことがわかった。北朝鮮は「鳩山新政権には期待している」(総連筋)といい、総連では日朝政治対話も視野に入れた民主党研究を始めたもようだ。民主党内には親北的なグループもあり旧自民党政権より対話路線のハードルが低い。新政権は対北政策の基本を早急に整備しておく必要がある。(久保田るり子)
■「労組を活用せよ」
関係者によると、北朝鮮の朝鮮労働党で日本の朝鮮総連を担当する「225」と呼ばれる対外連絡部から、総連中央本部に「民主党攻略」についての指示があったのは7月上旬。政権交代に備えて「民主党の支援組織の労組に影響力を使え」としたうえで、2006年のミサイル発射で日本政府が発動した日朝間を往来する船舶、万景峰号入港禁止措置について「本国への往来を希望する在日朝鮮人の人権問題として禁止措置解除を働きかけろ」との内容だったという。
この「指令」は総連の全国の地方支部にも伝達、徹底された。
北朝鮮当局は今春、訪朝した総連幹部にも「万景峰号」制裁解除への努力を指令。自民党政権の敗退が確実になった7月、「民主党攻略」として具体的に通達された。また、総連では「人事や政策など民主党研究が始まっている」(総連筋)という。北朝鮮がどのような対日攻勢をかけてくるかはまだ、不透明だが、北朝鮮にとって民主党の「政治主導」は願ってもない日本の方向転換に違いない。「北朝鮮には『民主党は動かせる』という期待が強い。民主党政権で日朝交渉再開を働きかける可能性は高い」(同)。
期待の背景は、旧日本社会党や総評など労組と総連、北朝鮮本国との歴史的な関係だ。連合(日本労働組合総連合会)傘下の自治労には北朝鮮と友好・交流を進めてきた地方の日朝議連のメンバーが、日教組の組合員には日本の代表的な親朝団体「主体思想研究会」の会員としての訪朝経験者もいる。また旧社会党系グループには訪朝経験者や総連からの政治献金を受けた議員が少なくないため、「日朝ルートを作りやすい」との認識があるようだ。
■民主党の対北政策
北朝鮮が「民主党に期待」するもうひとつの理由は同党の対北政策のあいまいさだ。
鳩山由紀夫代表は先月下旬、民放の番組で対北政策について「対話と協調」と述べ、河村建夫官房長官が「国連の制裁措置は有効」と疑義を呈するなどの物議を醸した。鳩山氏は拉致問題について被害者の家族から「民主党内には親北的な人たちがいる」と不安を訴えられた場面で「確かにそういう人はいるが、拉致問題は私が体をはって解決したい」などと述べているが、同党には「核問題の6カ国協議で日本が拉致問題に固執しすぎるのはいかがなものか」と発言してきた幹部もいる。
また鳩山氏は、今夏、韓国の野党元代表で“親北派”として知られる鄭東泳元統一相に「日本人拉致問題に関して意見を聞きたい」との親書を送っており、「鳩山氏の対北観はいまひとつハッキリしない」(北朝鮮ウオッチャー)
一方、小沢一郎代表代行は1990年、元自民党副総裁、金丸信訪朝団の直後に「北朝鮮からの名指し」で第18富士山丸の紅子船長らを迎えに行った。「小沢一郎氏は、いま北朝鮮権力中枢で後継体制責任者とみなされている金正日総書記の義弟、張成沢氏とも協議した。北朝鮮側からみれば交渉に足りる人物」(関係筋)との評価というが、その小沢氏は拉致問題に関して民主党支持者に「北朝鮮は何を言ってもきかない。『カネをいっぱい持って行って、何人か返してください』と言って解決するしかない」と語ったことが公になっている。こうした言動は「くみしやすい人物」との判断材料になっている可能性もある。
北朝鮮がクリントン元米大統領訪朝を働きかけ米国人記者解放でみせた融和策、金大中氏弔問外交から反転させた対韓国の平和攻勢は、オバマ米政権との直接交渉を引き出す国際世論の緩和を狙った環境整備であるのは明らかだが、日朝接触は昨夏以来、断絶状態だけに現状への不満も日本側にあるのも事実。
日本政府は「このところの変化は拘束者の帰国など現状を回復しただけでみせかけの柔軟路線だ」(外務省幹部)と冷静に分析しているが、一方では「日朝対話の再開は望ましい」(同)との立場だ。
「民主党は、政権スタート後の早い時期に外交・安保政策で国民の目にみえる成果を欲するだろう」とみる専門家は少なくない。こうした土壌が北朝鮮の狙う国際世論緩和戦術の“利害”に利用されることを懸念する声が早くも聞かれる。