学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

笑顔をなくしたわけ

2015-09-16 20:44:20 | 読書感想
大正、昭和期の詩人に堀口大學という人がいて、彼の父は九萬一(くまいち)といって外交官をしていました。先日、古本屋へ出かけた時に、彼の随筆集『游心録』(1930年、第一書房)を見かけたので買ってきた次第。

そのなかで、九萬一が最近読んだ本としてルイ・バレンなる人物が書いた『日本紀行』を挙げていました。九萬一によれば、ルイ・バレンは日露戦争前後の5年間にドイツの公使として日本に長らく滞在した人物であるそう。そんな彼が書いた日本人の印象に、九萬一はハッとさせられたようです。

ルイ・バレンによれば、彼が日本に来たばかりのころ、日本人はとても貧しい暮らしをしていたものの、みんな陽気で元気が良かったそうです。表情にはいつも笑顔が満ちていて素晴らしかったと。

それが日露戦争後、まったく変わってしまった。「顔に元気がなく気に張りがなく総体に愉快な表情がなくなつた」ように見えたのだとか。ルイ・バレンの言葉を借りれば、「神経衰弱的憂鬱病状態」であると…。最後に、政治家ははやく国民の元気を回復させるための手を打たなければならないと述べています。

私はこれを読んで考えたことが2つありました。

1つ目として、私は日露戦争後の日本人が変わってしまったことについて、司馬遼太郎さん、丸谷才一さん、山崎正和さんらの著作を読んで、なんとなくあの戦争は日本人の気質が変わったターニングポイントだったのかなと思っていました。それが、ルイ・バレンという外国人から見ても、日本人は変わってしまった、と示されていることで、その説が私のなかで肉付けされたなあと。

2つ目は、日露戦争後の日本人と、平成の世を生きる私たちの気質がほとんど変わっていないこと。自殺者が年間3万人に達し、数多くのうつ病患者をかかえる抱える現在は、まさに「神経衰弱的憂鬱病状態」ではないだろうか。

昭和初期のこの古本に、どうにも悩まされるここ数日です。
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