学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

『英国生活誌』を読む

2021-08-04 22:10:24 | 読書感想
私が子どもの時分、晩御飯を作り終えた母と一緒に見ていたのが、NHKで放送されていた『シャーロック・ホームズの冒険』でした。そのなかで、ホームズ演じる主演のジェレミー・ブレットが、子供ながらにとてもかっこよく見えたものです。彼の知性のある表情と、ユーモアとアイロニーの混じる言葉に加え、舞台俳優らしいメリハリのある動作が素敵で、私の憧れの大人の姿でした。

このドラマがきっかけで、私はこの名探偵を生んだイギリスという国、とくにその生活様式に興味がわき、書店でそうした本を見かけると、ついつい買い求めるのです。先日は、出口保夫さんの『英国生活誌Ⅰ』(中公文庫、1994年)を読みました。著者は1963年に大英博物館の研究員としてイギリスに留学し、それから日本とイギリスの間を何度も往復する生活を続けたそう。

この本が面白いのは、イギリスでの生活を通して、その背後にある社会にまで目を向けている点にあります。例えば、十人十色の国民性の項目では、作家プリーストリーの言葉を引用したり、他国と何が違うのかを歴史から考えたり、最後に毎日図書館に現れる謎の老婦人の振る舞い(彼女はエジプトの研究者であった)について紹介しています。イギリスで暮らす人々が立体的に見えてくるのですね。

現在、ちょうど東京オリンピックが開催されていることもあり、最後にイギリスのプロとアマチュアの位置づけからの引用を紹介します。

「オリンピックのような世界大会に参加する選手も、イギリスのような国では、あくまでもアマチュアの精神にもとづいて、好きで余暇にスポーツを楽しんでいるような人びとが選ばれて出てくるのである。オリンピックなんて弱くったってよい。金銭を目指さないアマチュアの精神は、プロよりもはるかに高貴なのであるから。」