学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

茨城県陶芸美術館「現在の茶陶」展

2017-02-20 19:39:30 | 展覧会感想
絵を観ることが好きな人ならば、誰しもお気に入りの美術館があるのではないでしょうか。私の場合、茨城県笠間市にある茨城県陶芸美術館がお気に入りの美術館のひとつです。

笠間市は昔から陶器「笠間焼」の産地として知られているところです。同美術館は見晴らしのよい小高い丘のうえに建っていて、その隣には笠間焼や地元の特産品を販売する複合施設もあります。美術館の常設展は、茨城県ゆかりの陶芸家板谷波山や松井康成、隣の栃木県益子町の濱田庄司らの作品を展示しています。企画展がまた秀逸で、テーマとして国内の陶芸作品はもちろん、過去にはロシア・アヴァンギャルドや1950年代のアメリカ陶芸を紹介するなど、世界に目を向けた広い視点のある展覧会を開催しています。私はこの美術館の企画展を観るたびに、テーマ、作品、解説、展示会場の雰囲気にいつも満足させられて心地よい気持ちになるのです。

今回の展覧会は「現在の茶陶」で、副題の「利休にみせたいッ!」はインパクトのある言葉ですね。展覧会は、伝統的な楽焼、美濃焼、備前焼などを再発掘した石黒宗麿や荒川豊蔵らから始まり、しだいに産地や窯元などの背景を持たない現代作家の作品へと移行していく構成です。どの作家の作品も素晴らしいのですが、水元かよこさんの《うさみみPOP》は特に印象に残りました。茶陶の形状の左右に細長いウサギの耳がキリッと立体的に伸びているのです。利休の生きた戦国時代の武将が好んだ「変わり兜」を彷彿とさせるもので、言うならば「変わり茶碗」といったところ。装飾的ななかに遊び心を感じさせ、日本の伝統的な美を踏まえた前衛的な作品でした。このほか、林恭助さんの《曜変》は器のなかに小宇宙を観るようでしたし、《黄瀬戸茶碗》はとても暖かくて優しい黄に満ちていて素晴らしい作品です。

こうして、今回もとても見応えのある展覧会でした。そして最後に…私がこの美術館が素晴らしいと感じることは、ミュージアムショップで出品作家(一部)の作品をリーズナブルな価格で販売していることです。これは来館者にとっても嬉しいことですし、作家にとってはなおさら嬉しいことなのではないでしょうか。作家はもちろん慈善事業でやっているわけでないですし、経済的な部分でのサポートは重要です。海外の美術館では作家を育てるために、こうした取り組みをやっていると聞いたことがありますが、日本ではまだまだのよう。美術館が作家の育成に貢献する、理想的な関係がここの美術館で築かれているようです。