学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

吉田健一『酒宴』

2011-04-15 19:25:01 | 読書感想
この時期になると、どこからともなく鶯の声が聞こえてきます。満開の桜と鶯の声があれば、それを肴にお酒をちょいと一杯やりたくなる。震災以後、お花見、歓送迎会が軒並み自粛となって、世間ではお酒を飲むこと自体がなんだか後ろめたいような調子になっているよう。

私はストレスのせいか、やたらとお酒が飲みたくてしょうがない。けれども、被災者を思うと飲むことがどうしてもはばかられてしまう気がするし、なにより強い余震が相次いでいるので、万が一のときに動けなくなってはいけない、というのでお酒は控えています。お酒が飲めないのなら、本の世界でお酒を楽しめばいい。そうして選んだのが、英文学者吉田健一の短編小説『酒宴』です。

吉田健一(1912~1977)は、無類の酒好きで知られ、彼が残した数々の小説やエッセイのなかにもお酒の話がいたるところに散りばめられています。この『酒宴』は、吉田を思わせる主人公がお酒をたらふく飲んで、「たらふく」というのは、一緒に飲んでいた飲み仲間が酒のタンクに見えてくるほど飲んで、自分がいつの間にか大蛇になっているという話。大蛇はおそらく「うわばみ」にかけたものでしょう。吉田は相当お酒がいける口だったそうで、どれだけ飲んでも一糸乱れなかったというから驚き。で、なければ、こういう小説は書けないでしょうけれど(笑)

「本当を言うと、酒飲みというのはいつまでも酒が飲んでいたいものなので、終電の時間だから止めるとか、原稿を書かなければならないから止めるなどというのは決して本心ではない。」

この一文は吉田がどれだけ酒を愛したのかを示していますね。お酒、要は節度の問題だと思うのです。酔いにまかせて桜の木に登ったり、夜中遅くまで騒ぎ立てたり、それはまったくの論外でしょう。

震災から、一ヶ月が経過。被災者を思う気持ちを留めつつ、生活のリズムをだんだん元に戻す時期に来ているのかな、と自分は心の中で感じ始めています。


●吉田健一『金沢・酒宴』講談社文芸文庫 1990年
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