細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『サウルの息子』で明かされた<ゾンダーコマンド>の衝撃の使命。

2015年12月21日 | Weblog

12月11日(金)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-154『サウルの息子』" Son of Saul " (2015) Laokoon Filmgroup / Hungarian National Film Fond / ハンガリー

監督・ネメシュ・ラースロー 主演・ルーリグ・ゲーザ <107分> 配給・ファインフィルムズ

またしても、悪夢のホロコースト映画で、たしかに最近になって製作された反ナチス関連映画の中では、もっともユニークで残酷な、しかし凄い映画だ。

「顔のないヒトラーたち」や「ヒトラー暗殺、13分の誤算」などは、今だから明かされるヒトラー関連の意外なポイントの傑作だったが、ホロコーストの地獄を描いた本作には震えた。

というのも、多くの<アンネの日記>傾向の被害談や、先日見たばかりの秀作「フランス組曲」とは違って、この作品では、あの捕虜収容所での残虐行為を直視した鋭さが凄まじい。

ハンガリーのユダヤ人、サウルは<ゾンダーコマンド>という、多くの殺害されたユダヤ人捕虜の死体処理のための作業員で、毎日のように大量にガス室で殺される死体を始末していた。

老若男女を問わずに、すべてのユダヤ人はこの収容所に連れられて来て、シャワーを浴びるという命令で裸にされて、数百人単位で日夜のようにガスで殺害されていたことは多くの映画で語られた。

しかし、その累々とした多くの裸体死体を、土葬処理していたのが、やはりユダヤ人捕虜で、いずれは殺される彼ら<ゾンダーコマンド>の使命だったというのは、この映画で鮮明に明かされる。

日夜、多くのユダヤ人たちの素裸の男女無差別遺体を搬送処分していたルーリグ・ゲーザ演じるサウルは、ある時、そこに横たわる少年の死体が、実は彼のひとり息子だったのを知った。

彼は悲しみと同時に、その愛するひとり息子の遺骸を、集団埋葬の最中に隠してしまい、どうにかして手厚く埋葬しようと奔走するのだが、完全に監視されている収容所の中では不可能だ。

それでもサウルは、10才位の息子の裸の亡骸を背負って、しかるべき埋葬の場所を探すのだったが、その行動を察知したナチスの軍人たちは、彼のあとを追いかける。

あまりにも衝動的な映像と、そのリアリティには感覚を麻痺されそうになるが、これもまた実際に起こっていた70年前のホロコーストの事実だったことに、とにかく衝撃を感じる。

第68回のカンヌ国際映画祭で、最高賞のグランプリを受賞したという快挙も凄いが、あれから30年もあとに生まれたネメシュ・ラスロー監督の、冷血なまでのリアリティと演出力には脱帽。

多くのナチスによる蛮行を描いた映画は多く見たが、このような<ゾンダーコマンド>の実態と、父親と亡くなった息子の悲劇は、まさに初めて見る衝撃だったし、その勇気には拍手する。

まったく色彩感を押さえこんだフィルムの質感も凄いが、あくまで誠実に、怒りを押し込んだサスペンス演出、そして主演の無表情には、テーマの深い憤りを感じて緊張し、大いに心を痛めた。

 

■ガツンと初球狙いの痛打がレフトスタンドに刺さる。 ★★★★

●2016年、1月23日より、新宿シネマカリテ他でロードショー 


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