細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『倫敦から来た男』の催眠術のような長まわしマジック。

2009年12月18日 | Weblog
●12月17火(木)10-45 渋谷<イメージフォーラムRS>
M-135 『倫敦から来た男』The Man From London (2007) ハンガリー
監督/タル・ベーラ 主演/ミロスラヴ・クロボット ★★★☆
大好きなジョルジュ・シムノンの原作なのに、試写を見れなかったので、劇場に出向いた。
しかし期待と違って、この作品は、特にミステリーでもノワールでもなく、漆黒の埠頭操車場で夜勤する中年の男の沈滞した心の中に迫ろうとした心層ドラマであった。事件はあり、ダークな男たちが出るが、とくにスタイリッシュではない。
孤独で厳寒な男の夜間仕事は、船で着いた乗客や列車の発着を見守るだけの単純な監視の日々なので、家庭でも家人からは孤立した生活だ。とくに妻を演じたティルダ・スウィントンは唇を痙攣させての好演だ。
その遅々とした時間を、監督は執拗なカメラの長まわしで、見る者にも倦怠感を体感させようとする。
それは一種の催眠術のようなアプローチだが、どこにも切迫したショットがないので、映像的なサスペンスは回避しているのだ。これでは原作文学の行間を読むにしても気怠くなる。
どこかカフカ的であり、ラース・フォン・トリアの『ヨーロッパ』のようでもあるが、この沈着したトーンは東欧の空気感なのだろう。
お好きな向きには、枯葉の落下を待つようなユニークな作品も、いいかもしれないが。

●渋谷、イメージフォーラムで公開中

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