WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

防潮堤ウォーキング

2019年07月06日 | 今日の一枚(E-F)
◉今日の一枚 431◉
Enrico Rava
Renaissance


 防潮堤ウォーキングにはまっている。震災後に築かれた防潮堤の上を歩くのだ。自宅と防潮堤まで往復する時間を加えて1時間強のコースだ。海を見ながら歩くのは気持ちいい。このコースは長続きしそうだ。体育館のマシーンで走るよりずっといい。まだ2週間程だが、夕方帰宅してウォーキングに行くのが楽しみな始末だ。


 
 防潮堤は銀色の要塞だ。浜辺に巨大な人工的建造物が続くのは、異様な光景だ。防潮堤建設にはいまでも反対だか、ここから見える景色は、なかなかきもちいい。


 今日は一日曇りだったが、夕方になって一瞬晴れ間が見えた。すかさず、ウォーキングだ。4月に開通した大島大橋が遠くに見える。波も穏やかだった。


 大島もくっきり見える。大島は東北地方最大の有人離島だ。海食による荒々しい奇岩が見事な龍舞崎や、鳴き砂で知られる十八鳴浜(くぐなりはま)、環境省の「快水浴場百選」で全国2位に選ばれた小田の浜などがある。正面の山は亀山だ。震災の時、この山の火事を対岸から見ていたことを今でもはっきりと思い出す。


 三陸道の湾内横断橋の工事もだいぶ進んできた。この橋ができれば、三陸道の利便性は格段に向上するだろう。

 今日の一枚は、イタリアのトランぺッター、エンリコ・ラバの2002年録音作品「ルネッサンス」だ。ヴィーナス盤である。CDの帯には次のようにある。
ルネッサンスの夢と幻、青春の光と影。イタリアのモダン・ジャズ・トランぺッター、エンリコ・ラバの人生を決定づけたマイルス・デイヴィスとチェット・ベイカーに捧ぐ、哀しくも熱いハートが聴くものの胸を締めつけ、そして解放してくれる。ジャズの一大絵巻的アルバム。
 これは日本語なのだろうか。意味不明だ。まあいい。ただ、「ルネッサンスの夢と幻、青春の光と影。」というには、ちょっと音が強すぎる。音の起伏や陰影が足りない。悪くない演奏だが、ヴィーナス盤特有のベースのゴリゴリ感がアルバムのコンセプトを裏切っている気がする。

 音が強いので、リズム感が際立ち、ウォーキングしながら聴くには、悪くないアルバムだった。

生きがい

2019年07月06日 | 今日の一枚(S-T)
◉今日の一枚 430◉
渋谷毅 & 平田王子(LUZ DO SOL
太陽の光

 apple music をいじっていたら、面白い作品が目にとまった。渋谷毅と平田王子によるユニット、LUZ DO SOL(ルース・ド・ソル)の第三作、2011年作品の「太陽の光」である。

 アルバムの最後に収められた「生きがい」がいい。1970年に由紀さおりが歌ってヒットした名曲である。いい曲だ。平田王子の訥々とした歌い方が曲の魅力を引き出している。それにしても、なぜ「生きがい」をと思って調べてみると、なんとこの曲を作曲したのは渋谷毅だった。そういえば、子どもたちが幼いとき、子ども番組で聴いた「夢のなか」という曲がいい曲だなと思っていたら、なんと渋谷毅作曲だった。恐るべし渋谷毅。

 このユニットのライブを、私の住んでいる街のヴァンガードというジャズ喫茶で見たことがある。2007年のことだ。そのときの渋谷毅は特異な存在感を放っていた。ジーンズによれよれのシャツとジャンパーを着た渋谷毅の風貌は、地元のさえないおじさんと区別するのが困難なほどだった。開演前に狭い会場の客席を落ち着きなくうろついていた渋谷毅は、マスターからコップ酒をもらうと、それを飲みながら寡黙にピアノのある方向に歩き出した。

 平田の演奏が始まっても、渋谷毅はピアノの前に立ったままだった。髪の毛をかきあげながらじっと譜面を見つめていた。そのうち、おもむろに椅子に座ると、抜群のオブリガードで平田の音楽に合わせていった。渋谷毅の指先からは、端正で流麗な美しい音色が紡ぎだされた。曲が終わると、髪をかき上げながら、ピアノの上にぐちゃぐちゃに散乱した書類の中から次の曲の譜面を探しはじめた。そんな渋谷毅の姿に、退廃的な香りを感じないわけにはいかにかった。
 
 デカダンス・・・。まったく恥ずかしい話だが、私はそういうジャズの退廃的な香りが好きだ。そういう渋谷毅をかっこいいと感じてしまう。

 渋谷毅。稀有な音楽家である。