WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

Forest Flower

2009年02月12日 | 今日の一枚(C-D)

◎今日の一枚 230◎

Charles Lloyd

Forest Flower

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 チャールス・ロイドの『フォレスト・フラワー』、1966年のモントルー・ジャズ・フェスティバルの実況録音盤だ。1960年代中期以降、ジャズの伝統にのっとりながらも、それまでのジャズが持ち得なかった様々な新しい要素を取り入れ、斬新な演奏を行った「新主流派」と呼ばれるムーブメント。チャールス・ロイドもその時代の空気をいっぱいに吸い込んだ、中心的音楽家のひとりだ。実際、このアルバムは当時の若きジャズファンの間では、一種のバイブル的存在になっていたようで、かなりのセールスを記録したようだ(『名演!Modern Jazz』講談社:1987)。

 また、キース・ジャレット、セシル・マクビー、ジャック・ディジョネットという、80年代のジャズ界を代表する面々の、若き日の大胆で奔放な演奏が聴けるのも、この作品の魅力のひとつだ。このアルバムにおけるキースは、どこかつっぱっていて自分のテクニックをひけらかすような背伸びしたところを感じるが、やはり流れるような指づかいと斬新な音づかいは、溢れ出んばかりの才能を感じさせる。私がこのアルバムを聴いたのは、録音されてから約20年もたった1980年代の後半だったが、ピアノを弾いているのがキースとは知らず、「何だ!この斬新で才能溢れるピアニストは……」などと興奮気味に思ったものだ。

 けれど、私が今でも時々このアルバムをターンテーブルにのせるのは、大好きなキースのピアノを聴くためではない。目的は、チャールス・ロイドその人である。彼の浮遊感のある、アンニュイな感じのサックスが何ともいえず、味わい深いのだ。ちょっとかすれぎみの、時に消え入りそうな静けさを湛えつつ、しかもしっかりと自己主張して存在感のある、ロイドのサックスを聴いていると、ジャック・ディジョネットのちょっとうるさいドラミングにもかかわらず、不思議な癒しの感覚を憶える。近年の傑作、『The Water Is Wide』につながるような、深淵で静謐な世界を垣間見ることができるのだ。