WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ボブ・ディランの欲望

2006年09月10日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 43●

Bob Dylan     Desire

Scan10015  先日、新聞で次のような記事をみかけた。

『ボブ・ディランが米アルバム・チャートのトップに立った。30年ぶりの快挙で、ディランのキャリアを通じても4度目、という。6日に発表された販売データで判明した。販売データによると、ディランの最新アルバム「モダン・タイムズ」は、9月3日までの1週間で、19万2000枚を売り上げた。ディランの前回のチャートトップは、1976年の「ディザイアー」だった。』

 すごいことじゃないか。21世紀のこの時代にボブ・ディランが第一位とは一体どうなっているのだろう。なにせ、ディランは現在65歳なのだ。喜ばしいことではあるが、その原因・背景は何なのだろうと疑問をもってしまう。

 それにしても、約30年前の  Desire (欲望) 以来とは……。と、思い、CD棚から「欲望」を取り出してきた。この作品を聴くのは一体何年ぶりなのだろう。そのサウンドは、まさにボブ・ディランだ。(彼を知っているリスナーならば)誰が聴いても間違えることのない、ボブ・ディラン以外にはありえない独特の音だ。ずっと昔、ボブ・ディランを聴いていた高校生のころがよみがえるようだ。物語性のあるディランの詩を噛み締めながら聴いていたあのころが……。

 アルバム「欲望」の中では、文句なく「サラ」がすばらしい。サラとはディランの妻。こんな赤裸々な愛の歌がかつてあっただろうか。ディランが自分の弱さや惨めさを隠さず、すべてをさらけ出すように、ただひたすら愛を歌い上げる姿は感動的だ。

 ディランとサラは1965年に結婚したが、74年ごろから二人の間に隔たりができ、一時は修復するものの結局1977年に離婚してしまう。したがって、「サラ」は修復されたつかの間の愛の期間に生まれた歌だ。自分の気持ちを確かめ、妻の心を何とか繋ぎとめようとするかのようにディランは懸命に歌う。

   何日も眠らずにいた

   チェルシーホテルで

   「ローランドの悲しい目の貴婦人」

   をあなたのために書いていた

というところが、なかなかいい。